2004年02月12日

なぜ高くても買ってしまうのか 売れる贅沢品は「4つの感情スペース」を満たす

なぜ高くても買ってしまうのか 売れる贅沢品は「4つの感情スペース」を満たす

なぜ高くても買ってしまうのか 売れる贅沢品は「4つの感情スペース」を満たす

決して富裕層ではない普通の人達が「ワンランク上」の商品を買い求める。
これまでの常識では、「価格が高いほど販売量は少なくなる」であったが、従来の商品より高価なものを、一般消費者が買い求め、結果的に従来型のラグジュアリー商品より大量に売れるという現象があらわれている。
そんなちょっと不思議な現象を捉えた消費社会論でもあり、新しいマーケティング、商品開発の考え方を提唱したのが本書。

本書でとりあげらえる例は、アメリカの消費者像や「ニューラグジュアリー」商品(同じカテゴリー内のほかの商品より高品質で、センスもよく、魅力的であるにもかかわらず、手が届かないほど高額ではない商品・サービス)についての分析ではあるが、訳者が最後に述べてるように、日本でも同じような消費傾向がうかがえる。
2003年7月のスーパー食品売上上位では、食用油は花王の健康エコナ・クッキングオイルが金額シェアで14%を占めている。健康エコナは1キログラム換算っでは、二位の日清キャノラー油(9%)の3.8倍もの値段だ。
(P.306)もちろん、ベンツやBMWの普通車市場に占める売上台数シェアが年々増加していることもそうだし、50万円以上の高級機械式時計は販売量で二割を超え、売上規模では五割に達している(P.307)

デフレだ不況だといわれつつも売れている高価なものはある。しかもそれは超富裕層だけが買うのではなく、普通のどこにでもいる人達が買っていたりするのだ。

ニューラグジュアリー商品・サービスには3つのタイプがある。


  1. 手の届く超高級品
    カテゴリー内では最高価格帯にあるが、カテゴリー自体が比較的低価格。
  2. 従来型ラグジュアリー・ブランドの拡張
    富裕層にしか買うことができなかったブランドの廉価版の商品・サービス・
  3. マスステージ商品
    「マス(大衆)」と「プレステージ」を組み合わせた造語。「マス」と「プレステージの中間」の市場でうまみの位置をしめる商品。通常の商品より高価だが、超高級品や従来型のラグジュアリーに比べるとかなり低価。

ニューラグジュアリー商品は幅広いカテゴリーで見られるが、共通する特徴は、「心理面に軸足を置き、消費者もほかのものよりその商品にはるかに強い思い入れを抱いている点」(P.18)だという。

本書でとりあげられた商品には、それまで消費者が思いいれなど抱くとは到底考えられなかったようなものも多くある。たとえば「洗濯機」や「冷蔵庫」。
ボク自身は「白物家電」に愛着や敬愛の念を抱き、心理的な絆や連帯を感じる人なんて想像つかないのだけれど、本書で紹介された「サブゼロの冷蔵庫」や「ワールプールの洗濯機デュエット」などでは、その購入者はまるでそれらの商品を家族の一員のように考えていたり、商品に深い愛情を抱いていたりする。

なぜ、商品にたいしてこのような心理的紐帯を抱くようになったのか。その原因については本書でもさまざまな調査結果に基づき分析されている。

年収5万ドル以上のアメリカ消費者2300人(あらゆる人口属性の人々を含む)を対象とした調査では、次のような結果がでており、非常に興味深い。
「今の生活に満足している」という質問に対して、「そう思う」「非常にそう思う」とと答えた人が62%いたのにも関わらず、「いつも時間が足りない」には55%、「睡眠不足だ」には54%。「働きすぎだ」という人も40%近く、「生活のなかで大きなストレスを感じる」人も37%いる。
さらに、「友達との十分な時間を過ごしていない」(51%)「家族と十分な時間を過ごしていない」(35%)「健康に不安がある」(40%)「将来に不安を感じる」(40%)など。この結果から著者らは、現代アメリカの消費者の姿を、

自分はおおむね幸せだと主張しているが、それはおそらくそう信じたいからであり、その実、時間に追われ、仕事にストレスを感じ、自分にとって大切な人々とのつながりを失っていると感じている姿(P.66)

だと結論づけている。
この調査で導き出される現代の消費者像というのは、日本の消費者の姿にも重なる部分が多いのではないかと思う。もちろんこういった「平均的な」消費者というのは存在しないということは十分理解したうえで、それでもやはりこの調査に回答した人達が、「そのように回答した」「せざるをえなかった」心境はすごくわかる気がした。

このような心理的ストレスを感じている消費者たちにとって、「消費」とは一種のストレス発散の行為でもあり、また自己規定、自己実現、理想的生活への憧れなのだろう。

そして、著者らは実際の消費者らへの調査を通じて、ワンランク上の消費をする時の感情を最終的に四つの「感情スペース」にまとめている。
それは、


  1. 自分を大切にする
  2. 人とのつながり
  3. 探求
  4. 独特のスタイル

だ。
(この「感情スペース」を見出す調査方法は、回答者に44個の言葉を提示し、ワンランク上の消費をする時の気分を表す言葉を選んでもらう。それをグルーピングしていって、最終的に上記4つのグループに集約させるという方法をとった(P.69))

ニューラグジュアリー商品はこれら四つの感情スペースを有している。これら感情スペースを満たすことができる商品に、消費者は深い思い入れや親愛の念を抱くし、そこに心理的な絆を見出すのだ。

とはいっても、当然、こういった感情側面を満たすだけで、その商品がニューラグジュアリー商品になるわけではない。

3段階のベネフィットを満たすこと
ニューラグジュアリー商品として、圧倒的な支持を得、他より高価ながら大量に売れるという商品になるためには、商品としてのベネフィットも他を圧倒しなければならない。著者らはそのベネフィットを「3段階のベネフィット」と定義している。


  1. デザイン面かテクノロジー面、またその両面での技術的な差異。
  2. このような技術的な差異が実際の性能の向上に役立っていること
  3. 技術面と性能面でのベネフィット(およびブランド価値や企業理念などの諸要因)が合わさって、消費者に思い入れをいだかせること。

このような三段階のベネフィットを満たし、且つ消費者の四つの感情スペースを満たすことができた商品は、ニューラグジュアリー商品として成功をおさめられる。本書ではニューラグジュアリー商品として大成功した商品やサービスの魅力的な事例がいくつも取り上げられている。

ニューラグジュアリー商品が出現したカテゴリーでは、市場は完全な二極化をおこし、特徴のない凡庸な中間層の商品、サービスは駆逐されていく。これによって、すべての層の消費者たちが恩恵を蒙ることができる。低価格商品は低価格商品としての確固たる存在感、存在意義を見出すことができるようになり、また最富裕層が購入するようなハイエンドな製品もニューラグジュアリー商品の台頭によって、刺激を受けイノベーションを加速させるからだ。

本書では最後にこのような「ワンランク上の消費」をチャンスに変えていくために企業はどのような商品をどのように開発していけばいいのかというヒントが与えられている。チャンスは「ワンランク上の消費対象となるような商品・サービスがほとんど存在しないカテゴリー」にあるとし、例として、「玩具」「ヘルスクラブ」「浴用およびボディケア製品」「グルメ食品」などがあげられている。(P.267)
また、耐久消費財以外にも、金融・法律、教育・医療、高齢者ケアや保育、ペット・ケア、旅行および不動産、自動車メンテナンス、住宅管理といったサービス業にも、「ワンランク上の消費」機会はひそんでいるという。

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