2004年03月16日

ホリスティック・コミュニケーション

ホリスティック・コミュニケーション

ホリスティック・コミュニケーション

アクティブ・コンシューマーが大きな影響力を持つ時代における広告や販促のあり方とは何か、ということを広告の最前線で活躍するクリエイターが語っている本だ。

アクティブ・コンシューマーとは、自らが積極的な情報の発信源となり、自分の気にいったもの、面白かったもの・ことを多くの人と共有していく新しい消費者像であり、それは今までマーケティングが捉えてきた「ショッピング・マシーン」的な存在とは異なる。
アクティブ・コンシューマーという存在を前提とした時のマーケティングは、「AIDMA理論」では通用しなくなり、「AISAS」になるのではないかと著者らは問う。

実は、「AISAS」という言葉は、本書を読む前に、あるクライアントの口から聞いて面白いなと思っていた言葉だった。出典はここだったのか。
「AISAS」とはAttention→Interest→Search(検索)→Action→Share(意見共有)のこと。今後のマーケティングは「Share」まで含めて、企業が生活者とどのようにコミュニケーションをとっていくかという観点が必要だという。

確かにデジタルメディアの発達は「Share」の影響力を強めた。デジタルネットワークは「口コミ」の速度を速めた。また、ブログもそうだし、2chなどの巨大掲示板・コミュニティもそうだが、個人が簡単にメッセージを発信し、多くの人と共有することが可能となった。

ただし、「AIDMA」にあった「Desire」や「Memory」がなくなってしまった、あるいは影響力が低下したとは一概には言えないのではないかと思う。(そのことは著者らも語っていることではあるけれど)
「Memory」にも一時的な記憶と、長期的な記憶があるだろうが、ブランド形成には長期的記憶をどのようにつくりだしていくか、想起性を高めるかといったところはむしろ影響力を増しているのではないだろうか。
ただし、この「Memory」は、「AIDMA」という購買への心理過程にあるのではなく、企業と生活者の関係・コミュニケーションのなかで構築していかなければならない前提として存在することだろう。

「Share」までを含めて、企業と生活者の関係を包括的にデザインすること、そして情報の流れ(企業→生活者/生活者→企業)を立体的に捉えていくこと。このようなマーケティング観を、「ホリスティック・コミュニケーション」という言葉で著者らは語っている。「ホリスティック・コミュニケーショ」あるいは、「ホリスティック・マーケティング」という言葉は、著者らの言葉ではなく、ここ近年の広告業界のキータームだ。それは「インテグレイテッド・マーケティング(統合型マーケティング)」などといった言葉とも近い概念で、要はある単独のメディア、あるいはある単独のメディアとそれに何かしらのメディアを絡めるというようなマーケティング発想ではなく、企業と生活者の関係全体をどうデザインするかという視点から「メディア・ニュートラル」の立場からコミュニケーションを創造していくという考え方だ。
また、「複数のメディアを組み合わせて」という部分だけで考えると、もともとメディアは存在していて、その組み合わせの最適化、組み合わせの妙がプランニングの前提となっているようにも受け止められかねないけれども、それも視点としては古い。それは旧来のメディアプランニング・クリエイティブの発想だ。

「ホリスティック」という概念では、生活者を取り巻く環境全体を通じて、どう情報をデザインするか、情報の流れをどう最適化するのかということが問われる。そこにはメディア自体を生み出していくという考え方させ内包されているのだ。つまり、クリエイティブのなかに「メディア」の創造、コミュニケーションの創造が含まれてしまうということだ。

ホリスティック・アプローチは、広告とか販促という領域を定めない考え方ですよね。むしろその連動を新しくデザインしていかなければならない。それができるのは、実は、クリエイターだけではないかと、僕は思うんです。(杉山:P.104)
「クリエイティブ力」とは、ここで言われるような「連動」や「関係」、あるいは下の引用で登場してくる「立体的な風景(ランドスケープ)」をデザインしていく力だということなのだろう。逆に言えば、それができなければクリエイターではないということだ。
消費者との関係で、メディアとメッセージをどのようにミックスしていくかということを、具体的に考えてみたんですが、一つは、商品のデザインから始まってパッケージ、ディスプレイ、POPなど、商品の流れに沿ったコミュニケーションがあるでしょう。それ以外に、もう一つ、情報の流れに沿ったコミュニケーションもあります。マス・メディアとか、PC、モバイル、OOHといった多様なメディアで、デザインやコンセプトを統一させながら、消費者のコンタクト・ポイントに応じて、クリエイティブやメッセージ表現を変えて発信していく。こういう立体的な風景(ランドスケープ)づくりというものが、これからの情報装置としての広告に必要になってくるのではないでしょうか。(秋山:P.142)

広告会社の一線で活躍するクリエイターの意識は、こういうところに向かっているのかとちょっと驚いた。広告会社にとってクリエイティブ力はもっとも重要な競争力の源泉だということは、多くの人が語っていることだが、ここで言う「クリエイティブ力」という言葉が照射する範囲は、僕が個人的に考えていた、規定していイメージよりもっともっと大きなものだったのだ。

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categories [ 読んだ本や雑誌 ] 2004/03/16 00:52


Comments

私もこの本にはここ数年で一番感化されました。わかりやすいレビューですね。僕も簡単にコメントしてあります。

http://blog.livedoor.jp/t_doumori/archives/204352.html

http://blog.livedoor.jp/t_doumori/archives/147677.html

Posted by: t_doumori : 2004年03月16日 08:26

思わず、アマゾンへ。
購入しました。

じっくり読みたいなぁ、と。

Posted by: マンションってどうよ : 2004年05月02日 10:20

こんばんは、はじめまして。
AISASという言葉に最近興味をもって、検索して来ました。

アフィリエイトをしている立場からAISASのことを少し書いてみましたが、まだまだわからないことばかりです。
マーケティングの話はよくわかりませんが、また勉強に来させてください。
記事をTBさせて頂きましたが不適切なら削除してください。

Posted by: あがさ : 2005年10月12日 00:21
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