2006年01月06日

岩井克人「会社はこれからどうなるのか」

会社はこれからどうなるのか
4582829775岩井 克人

平凡社 2003-02
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岩井克人さんが描き出す「証明」の美しさに驚いた。経営者やマネジメントに興味ある人は必読の一冊だろう。

会社とはそもそも何なのかという根本的な問いを、「ヒトとモノ」の関係から実に見事に解き明かすや、そこから株主主権型アメリカ的の会社システムの矛盾点や問題点を明らかにする。同時に終身雇用制度や、株式の持ち合いによる緩やかな連携、系列を重視するような日本型の企業システムが決して会社という本質から脱線しているものではないということを鮮やかに証明してみせる。まるで数学の証明問題を解くかのようにロジカルに展開されるので、反論がつけいる隙もないままに、納得させられてしまう。その証明過程はおそろしくスリリングで、刺激的だ。そして、岩井さんが単に曖昧な概念にはっきりとした輪郭を与えたり、「法人名目説」と「法人実在説」の狭間で繰り広げられる「法人論争」に決着をつけたりするといった、「現状の把握」に留まらず、そこから今後のポスト産業資本主義時代における企業のあり方や、理想の企業システム、会社形態といったものへの一通りの回答までをも用意する。

会社にとって重要なことは変わらない。それは「差異」を生み出すことだ。そしてポスト産業資本主義時代においては、「差異」を生み出すために最も重要な資産は人だ。「会社にとって中核となるコア・コンピタンスとは、個別の技術や製品ではなく、まさに差異性のある技術や製品を次々と生み出していくことのできる組織に固有の人的資産である」(P.263) ポスト産業主義において企業は「人的資産」に目を向け、それを守り、育て、育んでいかなければならないというわけだ。
組織デザインとしては、「中央集権的な階層組織ではなく、自由で独立した環境」や「指揮系統を水平化」や「外部の人間との知的交流を促す」ことや、「オフィスを居心地の良いものする」といった、ソフトインセンティブはもとより、ハードインセンティブ、つまり報酬面での制度も重要な役割を担う。この報酬制度として、ポスト産業資本主義的な企業に有効なのが「会社利益の一定割合を積み立てていく会社別年金制度や退職金制度、長期的なキャリアパスを明確に設計した昇進制度、さらには長期雇用者への暖簾分け制度」といった「地道なインセンティブ」ではないかと岩井さんは考える。人をやる気にさせ、長期的に企業に留まらせるためのシステムだ。そしてこのシステムは、実は戦後日本企業が採用してきたマネジメント手法に多くのヒントがある。

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categories [ 読んだ本や雑誌 ] 2006/01/06 01:25