PDCAサイクルの話の続き。WebソリューションとPDCA。

PDCAphoto credit: photosteve101 via photopin cc

PDSじゃなくて、PDCAのほうが良い理由」というエントリーを書いたけど、この話をしたらある人から、ダイレクトマーケティングの世界なら、この「Plan→Do」がスプリットランテストで、「Chekc→Action」がそのテスト結果を踏まえた本番実行になるんだよ、というようなことを教えてもらった。

なるほどなるほど。これも重要な考え方かもしれない。つまり、PDCAは、本番前、大々的な実行の前に、ちゃんとテストしなきゃダメですよ、ということを意味しているわけだ。

ダイレクトレスポンス型の広告とかだと、「スプリットラン→本番」みたいなことは、それこそワンダーマンの時代から行えれている伝統的なプロセスだろうし、ネット広告チャンネルならば、さらにこういうプロセスを簡単に安く実行できるわけで、こういう概念は広告主側にも比較的受け入れられているように思える。(僕がお付き合いさせてもらってる代理店さんとかだと、普通にやってるけど、実際はそんなことないのかもしれない)

でも、Web制作とか構築みたいな領域では、まだまだ、こういう考え方は入り込んでいないだろうと思う。
それはクライアント側もそうだし、それをお手伝いさせてもらってる僕らのようなWebソリューション会社でも案外そうなんじゃないだろうか。

昨今の不況などもあって、大規模リニューアルにドンとお金をかけていく、みたいなのは少なくなってきているかとは思うけど、それでもやはりWebサイトソリューション分野における「効果改善」「最適化」の予算の中心は、「初期構築」「フルリニューアル」の中にある。
補足すると、「運営」だとか「運用」の予算も、トータルすると「初期」を超えるということは多々ある。が、その「運営や「運用」の予算というのは、たいていの場合、必要なコンテンツの更新やら追加やら、プロモーションやらといったところの予算であり、Webサイトの効果を高めていくことや、成果を高めるための改善みたいなところに掛けられる予算はまだまだ非常に限定的だろうし少ない。そういう意味で、「効果改善」「最適化」の予算の大部分は、「初期」や「全体リニューアル」にあるという意味だ。

1回のプロジェクトで可能な限り多くの課題や問題に取り組み、それらの解消を目指す。必然的にプロジェクトの規模は大きくなる。リスクを減らすために、事前の調査やスルーテストなどを何度も繰り返し精度を高めていく。
そうやって出来上がったサイトは1~2年ぐらい使われて、また、次に作り直すときは、ゼロベースで設計しなおす。この手のWebサイトマネジメントは一般的だと思う。先のPDCAの概念から考えると、すごいパワーや予算、期間をかけて「C→A」をやっていて、この「C」のところで、被験者テストやらスルーテストみたいなものを通じて「P→D」をやるみたいなイメージだろうか。これはPDCAとは違う。PDCAという言葉が持つ、継続性だとか持続性みたいなところとはズレている。

しかし、大きなリニューアル(C→A)を一回やることことよりも、小さな改善を継続的に繰り返していくことのほうがトータルとして見たら、大きな成果につながるということも考えられるだろう。大きなリニューアルのために、大きな予算をかけて被験者テストを実施する(P→D)よりは、実際のサイト上で、そのサイトに訪れる実ユーザーでちょっとしたテストをして結果を見る方(PDCA)が、安上がりだし、実際のデータという意味では信頼できるのではないか。

(補足:ユーザーシナリオなどの被験者テストは、テストという時点で多少のバイアスが掛かっていることは間違いない。が、しかし、被験者テストが意味がないものかというと、そんなことはない。被験者へのインタビューなどを通じて、よりユーザーの行動や心理を深く探っていくことが可能だからだ。ユーザーの心理の深堀によって、違う潜在的なニーズや懸念がわかったり、発見を得ることも多い。実ユーザーでのテストでわかるのは、所詮行動の結果にすぎない。)

例えば、Amazon。ここ数年で、Amazonはずいぶんと変わってきてる。それはビジネスの展開上での変化だけではなく、商品詳細ページでの情報レイアウトや配置、おすすめ商品の紹介方法とか、細かいところを言い出せばキリがないぐらい変わってきている。でも、「大きいリニューアル」「全体リニューアル」みたいなことは、多分、ずっとやってない。
Amazonは、トラフィックの一部でABテストを実施したりして、そこで効果よかったものを全体に反映させて(PDCA)、というような細かいPDCAサイクルを回し続けている。そのサイクルの継続性が、通時的に見ると、ライバルとのすごい差となって現れてくるのだろう。共時的にはAmazonの変化はなかなか可視化しにくいし、可視化できても些末な一箇所だったり、部分的、限定的なものにすぎなことが多くて、よく分からない。が、通時的には大きな変化、差として現れてくる。Amazonと似てるといえば、Googleなんかもそうだ。一気に全部を変えるなんてことはしない。テストを繰り返しながらちょっとづつちょっとづつ変えていく。

すべてのサイトでAmazonやGoogleみたいなことができるわけでもないだろうし、そもそもこういうPDCAサイクルをまわして効果改善していくことが向かない特性のサイトだってある。でも、少なくも、サイトで何らかの直接的な成果を求めるサイトでは、こういう考え方やプロセスは、大リニューアルの時のようなリスク(そのサイトやサービスに慣れたユーザーから離脱されるというリスク等)も少ないので、非常に効果的だろうと思う。

「初期」や「大リニューアル」偏重でWebサイトマネジメントを行って行くことの問題は、まだある。
それは、大きいリニューアルをしても、その会社がその市場や業界のリーディングカンパニーであればあるほど、競合にすぐ真似されてしまう、ということだ。

イーバンク銀行のサイトを左右反転したら、三井住友銀行になった – Feel Like A Fallinstar

イーバンク銀行のトップページの情報配置が、SMBCのそれを左右反転してるだけ、という指摘があったけれど、この手の模倣というのはこの例に限らず少なくない。
オリジナルのサイトやページは、もしかすると何ヶ月も、ものすごいパワーをかけて、様々な意図やら試験やらを経て、ようやく辿り着いたものかもしれない。でもそんな努力の結晶は、いとも簡単にさっとさっと剽窃されてものすごく短く安価なコストで作られてしまう。大きいリニューアルなんてのは、たいていの場合、ライバルに差をつけたり、より顧客にニーズに広く深く対応したりというためにするんだろうけど、すぐ真似されてしまうと、全然差別化にならないかもしれない。

もちろん、Webサイトは、全体の構造や構成、それに企業のブランドやらユーザーニーズやら、いろいろな条件が複合的に絡まってるものだから、単純に特定ページのレイアウトや構造を似せたら、それでその会社と同じような効果や成果が生まれるというようなものではない。
まあ、とはゆえ真似される側はあまり気持ちよいものでもないだろうし、なんとなく自分たちがかけたコストや、そのコストに対して期待していたリターンの一部が、言い方は悪いけれど、パクられてる感じがしないでもないのではないか。

ほとんどのWeb制作会社は、クライアントの提案に、競合調査みたいなことをしていると思う。クライアントからも、あそこはどうなってるのか、と問われることも多い。そして、やはりその業界で先を走ってる会社やそのサイトは、目標となることは多い。(クライアントからも、あそこに似せてくれ、みたいなオーダーでくることも少なくないだろう)
本来は、そうではいけないのだろうけれど、そこがうまくいってる(ように思える)ならば、その良いところをうまく自サイトにも組み込みたいと思うのも自然なことだろう。

この時に、大きな変化や構造やら、設計のポイントやらみたいなところ、簡単に目につくところというのは、当然ながら、真似されやすいものだ。構造やら設計やら、コンテンツ内容やら見せ方やら、そういうものは真似しやすいのだ。

しかし、PDCAサイクルを真似るのは難しい

PDCAサイクルを回してることはわかったとしても、それがわかることと実践することは全然違う。ゼロからサイトを作ることや、フルリニューアルすることは、言ってしまえば、金さえあればなんとかなるのだろうけれど、PDCAサイクルを回していくという領域は、金だけあればなんとかなるというものでもない。

クライアントの中には、なんでテストにお金をかけなければならないだ、プロなら一番良いものを作るのが仕事だろと怒るところもあるかもしれない。また、細々とした小さな改善はあまり目立たないし、派手さもないので、Webサイトの改善にお金を使うこと=見栄えが変わること/デザインが変わること、と思い込んでるクライアント(そういうクライアントは意外と多い。そして、そういうクライアントに迎合する代理店も多い。)にはなかなか理解してもらい難い概念だったりする。

でも、いち早く気づいて、これに取り組んでいければ、そこは長期スパンで見れば、すごいアドバンテージを得ることになるだろうし、持続、継続できればできほど、その時間や期間も大きな差となるに違いない。

他社を出し抜く画期的で凄いサイトをどーんと立ち上げるのもいいが、他社も気づかないような改善を何度も何度も繰り返し、その結果、気づけば他社に圧倒的な差をつけていた、なんてのも凄くカッコいいことだと思うのだが。
このあたりの啓蒙活動というのもやっていかないといけないのだろうなと思っている。来年のうちの会社の大きいテーマの1つだ。

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