フリー〜〈無料〉からお金を生みだす新戦略

ネット関連の仕事に従事しているなら絶対読んどくべきだと思う。
最近、読んだ本についてエントリーするのがすごく億劫で避けてたけど、これだけは書いておこうと思う。

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略 (単行本)
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「無料モデル」と聞くと、僕らはすぐに「広告」を思い浮かべる。Google、ヤフー、mixiなどなど、私たちが思いつくネットサービスの大手の大部分の収益は広告に支えられてるからだ。ウェブのサービスを企画してるときに、「無料」が前提になると、たいていの人は収益化の方法として「広告」を最初に考え、そして広告での収益化の現実を知るほどに、いかに広告モデルが厳しいかということを知る。もう少し踏み込んでもせいぜい無料版を餌にして、有料版の顧客を捕まえるというような手法や、最近ならGreeやモバゲーなどで注目されはじめたデジタルアイテム課金などによるモデルぐらいまでしか思いつかないというのが正直なところだ。

しかし、実際、無料モデルというものにも色々な形態があり、応用がある。本書の巻末には「直接的内部相互補助」「三者間市場あるいは市場の“二面性” ある顧客グループが別の顧客グループの費用を補う」、そして「フリーミアム(一部の有料顧客が他の顧客の無料分を負担する)という大きく3つの「フリー」のおけるビジネスモデルが整理され、そこに50ものモデルが提示されている。

これを読むだけでも、さまざまなビジネスモデルのアイディアが沸いてきて、僕なんかは勇気づけられる。僕らの会社にも多くのサービスや製品群があるけれど、「フリー」のモデルから考えて見たことは実はあまりなかった。無料=広告/広告は無理、みたいな単純、画一的な思考で片付けてしまって、色々な可能性を探るということをしていないのではないかと思った。
早速、本書を読んでから、自社サービスや製品を50のモデルに当てはめて考えてみたら、今まで想像もしてなかったようなモデルがいくつか出てきて、これだけでも本書を読んで良かったと思えたところだ。(しかし、ほんと「本」ぐらい知識やノウハウを体系的に得るのに安い媒体はないと思う。こんな知見とか知識を2000円にも満たない価格で手に入れられるのだから。本を読まない、読めない人はものすごい損をしていると思う。)

直接内部相互補助」とは、「消費者の気を引いて、ほかのものも買ってみようと思わせるもの」を無料として提供して、その「ほかのもの」を有料にするモデルだ。一時期、携帯電話が1円で販売されていた頃があったけど、あれもこのモデルに近いだろう。製品を無料でばらまき、その製品の利用料金で収益化する。

「三者間市場」は、僕らがもっともよく知るモデルだ。「二者が無料で交換することで市場を形成し、第三者があとからそこい参加するためにその費用を負担する」。難しく書かれてるけど、テレビ局(民放)と視聴者と広告スポンサーの関係だ。
ウェブメディアの多くもこのモデルを採用してる。一見そうではなさそうだけど、このモデルなのはクレジットカードなど。銀行が無料で消費者にカードを発行して、そのカードが使われたら手数料が入るというモデルだ。

事例としてもピックアップされていて面白かったのが、プラスティス・フュージョンという電子カルテと医療業務管理ツールのシステムを提供する会社。この手のソフトウェアは通常5万ドルはするらしいが、同社はこれを無料で提供している。
このモデルの一部はフリーミアムモデルで、広告が付かないバージョンのソフトは月額100ドルかかるというようなものなのだが、実際の収益の大半は、もう1つの「三者間市場」モデルのほうにある。

無料ソフトを配ることで、ユーザー(医師)を集めると、そこには必然的に患者のデータが集まることになる。
「特定の病気を研究する医療機関は、多数の患者の長期にわたる医療記録を必要としているので、研究対象ごとに、匿名にしたデータは50〜500ドルで売れる。1人の医師が250人の患者を扱うとすれば、最初にユーザーとなった2000人の医師から50万件の記録が集められる。さまざまな機関が種々の研究をしているので、1人の患者のデータは複数の機関に売ることができる。1人のデータが平均500ドルで売れれば、2000人の医師にソフトを5万ドルで売るよりもはるかに大きな収益を得られるのだ」と記されている。この試算にどれほどの正当性があるかはおいておいても、こういう発想は非常に面白い。
「Web2.0の条件」に「データは次世代のインテルインサイド」なんて言葉があったけど、まさにその言葉を裏付けるかのようなビジネスモデルだと思う。

アクセス解析ツールを無料で提供して、そこで得たデータを有料機能の目玉にするみたいなサービスモデルも考えられるだろう。すでにGoogleAnalyticsは、同分野サイトのベンチマーク数値などと比較できるような機能は提供しているけれど、考えて方によっては、ああいうものも「三者間市場モデル」としての材料にはなる。(Googleは製品の有料化やデータの有料化等は考えていないだろうから、「フリーミアム」でも「三者間市場モデル」でもないだろうけど)

少し違うが、会計事務所のTKCなんかも近い発想があるように思える。提携している全国の会計事務所から吸い上げられた財務データをベースとして、TKCのレポートは作成されている。そのレポートには、各種会社経営に必要な指標群がわかりやすく整理されているだけではなく、同業種で同規模(社員数や売上等)の会社で優良企業の平均数値や黒字企業の平均数値といったベンチマークとなるデータが同時に見られるようになっている。このデータこそ、全国のネットワークの蓄積があってこそのものだ。個別の会計事務所の能力やサービスではできないことをネットワークとデータの蓄積によって可能にし、それを付加価値として提供しているというわけだ。(でも、このモデルは「三者間市場モデル」じゃないな)

フリーミアム」は、基本機能やサービスを無料で提供し、利用者を集め、その中から本機能や追加機能サービス、特別対応みたいなもので有料版の利用者を獲得するという戦略だ。デジタル製品においては、「典型的なオンラインサイトには5%ルールがある。つまり、5%の有料ユーザーが残りの無料ユーザーを支えているのだ。」と言及されている。実製品の世界で、無料サンプルを配って、その5%しか本製品の購入につながらないとしたら、そのビジネスモデルは多分崩壊している場合のほうが多いだろうけれど、デジタル製品やサービスにおいては、無料サービスを提供するコストが非常に小さいので、5%の有料版利用者でサービスや製品を支えることができるのだ。

僕らの生活の周りには、様々な「フリー」のモデルが浸透していて、それがきちとした経済を成立させていることがよくわかる。そして、それはデジタル時代においてより加速し、深く浸透していっているのだろうし、これらのモデルを無視してビジネスを考えていくこと難しいだろうと思う。むしろデジタルであることの最も大きい恩恵を授かることができる領域なわけなので、積極的に活用していくべきだろう。




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コメント

  1. フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略...

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