スティーブン・ミルハウザー「マーティン・ドレスラーの夢」「イン・ザ・ペニー・アーケード」

4560071713たまには文学作品でも紹介しておこうと思う。

ビジネス書は仕事のために読んでるので、アウトプットすることでより深く吸収したいという思いもあるし、ブログを読んでる一部の社員にも面白い本や役立つ本に興味持ってもらえればなぁという思いもある。でも、文学は純粋な愉しみなので、あまりアウトプットしていこうという意欲が湧かないのだ。

しかしながら、僕が本当に好きなのは今も昔も、文学の方で、読書にあててる時間の大部分も文学のほうだ。あまりビジネス書ばかりに食らいついてると思われるのもなんか悲しいので、バランスとるために趣味のことも書いておこう。


去年末ぐらいにスティーブン・ミルハウザーの本を2冊読んだ。「マーティン・ドレスラーの夢」と「イン・ザ・ペニー・アーケード」という長編と短編集だ。最近はあまり現代の海外小説を読んでいなかったのだけれど、ミルハウザーには惹きこまれた。
先に、「マーティン・ドレスラーの夢」の方を読んで、その世界観に惹かれて、「イン・ザ・ペニー・アーケード」に手を伸ばしたのだけれど、このニ冊でも十分に僕はこの作家のファンになってしまった。(ということで、他の作品も翻訳されてるものは片っ端から手に入れたけど、まだ全部読めてない。)



ミルハウザーの作品の特徴。それは、誇大妄想的な箱庭的世界の実現への野心とその挫折がロマンテックに描かれるところだろう。この二冊。長編と何本かの短編作品を読む限りはそうじゃないかと思う。


「マーティン・ドレスラーの夢」は、20世紀初頭のニューヨークを舞台とした、いわゆる立身出世譚であり、ある種の時代作品、ゴシックロマン的なストーリー小説の体裁をとっている。その時代の生々しい生活や都市の発展の様子などが描かれ、リアリティが醸成されている。
しかし、中盤から後半にかけて、主人公ドレスラーが思い描く理想のホテルの妄想はどんどん膨らんでいき、それまで丹念に紡いできた物語としてのリアリティやロマンチックな世界観は、急激に誇大妄想の方向へ拡大していく。

ホテルそれ自体が一つの社会であり、世界であるような、すべてが内包されるホテル。ドレスラーはホテルの中に「世界」を実現しようと試みる。そんなものが実現可能なわけがないのだが、ドレスラーの野心は尽きることなく肥大化していく。
しかし、当然ながら、その野心や妄想は、一気に挫折して夢の泡と消える。

この肥大化・誇大化していく妄想やイメージの広がりと、その挫折、崩壊によるカタストロフィー。これこそがミルハウザーの魅力なのではないだろうか。(といって、二冊しか読んでないのに、ミルハウザー全体の魅力を語ろうとしていることに無理があるけれど)
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こういった要素・モチーフは「イン・ザ・ペニー・アーケード」に納められている短編にも数多く登場する。

どのような動きをも精密に再現するからくり人形を創り上げようとする男たちを描く「アウグスト・エッシェンブルグ」や、細部にいたるまで情熱を込めて作られた雪の男、生命を吹き込まれたかのような配置される雪人間たちを描いた「雪人間」、遊園地のペニーアーケードの中の住人たちを描いた表題作「イン・ザ・ペニー・アーケード」など。

どの作品も箱庭的世界観がどんどん膨張していき、やがてそれらがリアリティを侵食し、物語全体を包み込み、最終的には「崩壊」や「挫折」に帰着していくというパターンをとっている。

イメージの魔術師という異名の通り、一度、肥大化の様相を見せた妄想は止まるところを知らず、尽きることないイメージが怒涛のように押し寄せる。よもやそこにはリアリティとはかけ離れた物語的な虚構世界が展開されるのだけれど、そこには下品さはなく、それが当然のことのように描かれる。その世界では、それが不思議と成立してしまうような磁場が働いている。

ゴシックロマン小説とマジックリアリズムを足して割ったような世界というべきだろうか。ちょっと不思議な感覚で、こういう世界が好きな人はたぶん、とことん好きになりそうな世界だと思う。

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