異業種競争戦略

4532314828異業種競争戦略」 - ビジネスの世界では、今やあらゆる場面で「異業種格闘技戦」が繰り広げられている。今や「業界」というものを、何か固定的な枠で囲われたようなものではなく、誰が敵で見方なのか、どこから突然玉が飛んでくるかわからないような戦場なのだ。

銀行業界に従来とは全く異なるモデルで参入したセブンイレブンとイオン。旅行業界におけるJTB/HIS/楽天トラベルのバトル。音楽業界ではデジタル音楽配信サービスとレコード会社、レコード店が戦い。化粧品メーカーの資生堂とトイレタリーメーカーの花王がお互いの市場に参入。出版対フリーペーパー。マイクロソフト(有償ソフト)対グーグル(広告)。

例をあげていけばキリがないが、どんな業界でも異種格闘技戦が激化している。

間違ってはいけないのは、異種格闘技戦は、何も業界や市場背景が異なる企業がある同じ業界や市場で戦うということだけを意味するのではなく、どちらかというとエンドユーザーの「同じニーズ」を、それぞれの企業が全くことなるビジネスモデルで満たそうとする戦いのだということだ。
ここで言うビジネスモデルとは、本書では「顧客に、ある価値を提供するときの手段と儲けの仕組み」としている。そう。「手段」と「儲けの仕組み」が全く違うモノ同士が戦っているんだ。だからこそ、今の戦いは見えにくく、わかりにくい。

さて、ではこのようなどこから砲弾が飛んでくるかわからない混沌とした戦下において、企業はどのように戦っていくべきか、どのような戦略を構築すべきかということについても、本書では丁寧に説明されている。
それは、次4つのステップとなる。

1.どこにチャンスや脅威があるか・・・事業連鎖の再構築
2.敵を知り、己を知り、顧客を知る・・・競争環境の再認識
3.事業連鎖のなかで、どう稼ぐか・・・ビジネスモデルの確立
4.敵を自分の土俵に引きずり込む・・・・新しいルールの確立

とくに最初の「事業連鎖の再構築」というところが興味深い。
「事業連鎖」とは、業界全体を俯瞰して川下から川上までのバリューチェーンのことだ。
まず、「異業種格闘技戦」がどこで起き得るのか、また自社が今後どの分野に力を注いでいくべきなのかを確認するために、市場全体を一連のプロセスとして整理して眺めて見るのだ。

例えば、「音楽」業界で考えた場合には、大きなバリューチェーンとしては、
「音楽」→「パッケージ作成(マーケティング」→「記録媒体」→「流通」→「再生」
とうような大きなバリューチェーンが描ける。

従来までの音楽業界では、最初の「音楽」のところで、アーチストがいて、次のパッケージ作成(マーケティング)のところにレコード会社が位置していた。記録媒体ではCDがあり、流通でレコード店やレンタルレコード店、そして再生はステレオ。これが各バリューチェーンに位置している企業が思い描いている「従来」のビジネス構造だ。

ところが、デジタル音楽流通の時代を迎えると、これらのバリューチェーンに変化が生じてくる。

CDはデジタルデータに置き換えられ、そうなると流通領域では、レコード店が音楽配信サイトに置き換わる。再生はステレオから携帯音楽プレイヤーやパソコンへと様々なプレヤーに広がっていく。この置き換えや選択肢が広がった「場所」に「異業種格闘技」が繰り広げられるというわけだ。

単純な例なら、オーディオ機器のメーカーの競争相手は、今やオーディオ機器専業メーカーではなく、パソコンメーカーであったり、携帯電話メーカーにまで広がっているし、レコード店のライバルは、近所の他店ではなく、ネット上の音楽配信サービスとなっている。

事業連鎖を描くときには、自分たちがいる業界や市場から考えるのではなく、あくまでも俯瞰的に、お客やユーザーにどのような価値を届ける必要があるのかということから、全体を包括して描くことが大事だ。業界内の狭い視野の中では見えなかった大きな構造の変化を捉えられるかどうかだ。(レコード針メーカーは、どれだけその市場で競争優位性を築いたとしてお、そもそもCDやデジタル音楽と、「針」を使わない音楽再生へシフトしてしまったら生き残るのが難しくなる)

事業連鎖を描いたら、それらの各チェーンにおいて、以下の可能性を検討してみる。

省略
カメラ市場では「デジタルカメラ」の登場により、現像や焼付という行程が「省略」される。

束ねる
フィルムとカメラが「使い捨てカメラ」に束ねらる。

置き換え
フィルムがメモリーカード、ミニラボは家庭用カラープリンターに置き換えらる。

選択肢の広がり
写真をパソコンやテレビで見る、ウェブに載せるなどの選択肢が広がる。

追加
カメラ付携帯電話の登場により写真をそのままメールで添付して送るという利用方法が追加された。

ウェブソリューション全般で考えてみると、どのような異種格闘技が起きているのだろうか。

わかりやすいのは、SIerの領域をSaaSやPaaSが置き換えを進めているというものだ。今までなら、技能のあるスタッフ何十、何百人もが何ヶ月、何年もかかり開発してきたものが、SaaSやPaaSによって数カ月で対応可能になったりということが現実に起きている。
SIerとSaaS、PaaS提供会社では、そのビジネスモデルはまったく異なる。SaaSやPaaSが敷こうとしているルールが支配的になれば、多くのSIerの業務はなくなってしまうだろう。
(papativa.jp – エコポイント申請ページはForce.comらしいが。)

大きな流れとしては、そもそも企業のウェブサイトそのものが、すでに人が集まってるオープンなプラットホーム側にシフトしていくかもしれない。その時、今まで自社ウェブサイトに投じていたお金は、プラットホームの方に流れていくかもしれない。
これは「置き換え」とも言えるだろうし、企業にとっては、「選択肢の広がり」とも捉えられるだろう。良いウェブサイトを構築すること、ウェブサイトを通じてコミュニケーションを支援を行っていた会社などは、今までのモデルでは食べていくのは厳しくなるだろう。
ほとんど無敵と思われたグーグルなどの検索エンジン連動広告も、人々のネット利用の中心がコミュニケーションプラットホームに移行していけば、非常に苦しい戦いを強いられることになるかもしれない。

つまり、どの分野だろうが、領域だろうが、常に「変化」が起きていて、自身が乗っかっているビジネスモデルや強みみたいなものは、いつ何時、脅威や弱点になるかもしれないということだ。今の成功体験や成功モデルに安住していることは、最もリスクの高い戦いになるかもしれない。
いくら素晴らしいレコード針を作れても、レコードそのものがなくなってしまったら、その技能はほとんど意味がなくなってしまうのだ。

では、このような状況下で、企業はどのように戦略を立案していくべきか。
本書では、これを「ビジネスモデル」の構築という観点で分解している。そして「ビジネスモデル」をさらに以下の3要素に分解し、それぞれにおいての回答を考えて見ることを提唱している。

1.顧客に提供する価値
2.儲けの仕組み
・トールゲート(高速道路の料金所)
・イネーブラー(撒き餌→トールゲートで稼ぐ)
・エンラージメント(料金所→サービスエリアなどで稼ぐ)
・ブロックプレイ(敵のトールゲートを邪魔して、敵を弱体化させる)
3.競争優位性の持続
・自社に有利なルールで戦う

そして、戦い方としては、
1.顧客に提供する価値の違いで戦う
2.コスト構造の違いで戦う
3.ビジネスモデルの違いで戦う
の3側面から整理している。

当たり前といえば当たり前のことが論理的に整理されている。しかし、ぼんやりと「戦略」や「戦い方」として捉えていてもよくわからないものは、その要素を分解したりすることで明確にはなる。これはとても重要だと思う。

ただ、僕は本書を読んでいて思ったことは、ビジネスモデルの整理や戦い方の戦略についてきちんと描いて見ることは重要なのだろうけれど、実はもっとも大事なのは、「変化を恐れない」ということなのではないかということだ。

たとえば、現代の異業種格闘技戦において、すごいなと思うのはリクルート社だ。
本書でも触れられてはいるけれど、彼らは自身の成功モデルを自ら破壊することで、新しいルールや枠組みでもリーダーシップを勝ち取っている。
彼らがもともとの情報誌や出版という成功モデルに固執していたら、ネットにおける今のポジションは危うかっただろう。

最も危険なのは、今のモデルやビジネスを最良のものとして考えてしまうことなのではないか。職人的な感だけが頼りだったある領域は、コンピューターに置き換えられてしまうかもしれないし、それが最高のやり方、最良の手法だと思っていたものは、顧客にとっては、ただ高いだけの古い手法と捉えられてしまうかもしれない。

そこを乗り越えるのは「変化」を恐れないこと、今までの自分たちを否定してでもその「変化」に挑んでいく心持ちなのではないだろうか。

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