トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか

483341936X 「トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか」─ 事業において「選択と集中」の重要性は誰もがアタマでは理解しているだろう。
ボクもしょっちゅう「選択と集中」という言葉を口にしている。その意味や重要性も十分理解しているつもりだ。
でも、ふと立ち止まって考えるときに、わからなくなるのは、何をもって「選択」なのか、何をもって「集中」なのかということだ。
たとえば、ボクらの会社はウェブサイト構築などのソリューション事業を手がけている。一方で、レコメンデーションエンジンやらメール配信システムやらといったSaaS系の商品も展開してる。さらに、検索エンジン登録代行などのWebマスター支援の代行サービスなども手がけている。どの分野にもその専業がいるような分野に足を突っ込んでいて、じゃぁその専業を打ち負かせられるぐらいの豊富なリソースを社内に抱えてるかというと全然そういうわけでもない。

という状況だけ見ると、全然、選択も集中もしていないように思えてしまう。手を広げすぎのようにも思える。もっと集中しないとダメなんじゃないかという不安がアタマをよぎる。
が、しかし、一方で、もう少し広い範囲で見れば、IT系サービスのみに特化しているわけで、これだけでも「選択と集中」とも言えるかもしれない。事業やサービスレベルを細かく見ても、ネット広告代理業は手がけてないし、Webソリューション分野ではHTMLコーディングのみとか、ある特定の部分の開発のみ、みたいな工程売りはしてないとか、色々「選択と集中」っぽいことはやってはいる。自分たちがやらないことややるべきでないことというのは、決め事してはあるし、そういうポリシーで仕事はしてきたつもりだ。他社から見たら、そういうことだけでも十分に「選択と集中」ができてると思われてるかもしれない。

さて、ボクたちの「選択と集中」は、マーケティング的に意味ある「選択と集中」なのだろうか?
他社とのリソース差なんて正確には測りようもないわけなので、リソースに較べて、手がけてる領域や範囲がどうかということもわかりはしない。であれば、自分たちは十分に「選択と集中」をしてるつもりでも、まだまだ足りていないということもあるかもしれないし、その反対もしかりで、まだまだ事業の可能性や拡張を考えていくべきなのに、「選択と集中」を意識しすぎて、手をつけてなさすぎ、なんてこともあるかもしれない。一体、何をもって「選択と集中」の範囲は決まるのか。結局、事業がうまくいってたら、後付けで、選択と集中って衣をかぶせてるだけなんじゃないのか??

本書は、そのタイトル通り、「トレードオフ」をテーマとしてる。
何と何のトレードオフか? 著者は、それを「上質さ」と「手軽さ」の天秤だと語る。
あらゆる戦略、あらゆる商品、サービスは、上質さか手軽さのどちらか一方を選択しなければならない。
上質さと手軽さの両方を満たしたい、というのは多くの企業や担当者が思い描く理想だが、そんなものは、「幻影」にすぎないと著者は一掃する。そして、上質さと手軽さのトレードオフを測り間違えた多くの企業の失敗事例をこれでもかと取り上げる。スタバは上質さを売りにしてたのに、いつからか手軽さにも触手を伸ばしてしまった。ティファニーやCOACHもしかりだ。ゼネラル・マジックやセグウェーの失敗も、この二者択一の観点から精査すればよくわかる。こんな具合に、最初から最後まで、「上質さ」と「手軽さ」のオンパレードだ。

この上質か手軽かというトレードオフは、とてもシンプルだが、そのシンプルさゆえに、使い勝手の良いフレームワークになりえる。先の「選択と集中」での判断軸でもないが、何をもって「選択と集中」なのかを考える際にも、上質か手軽かの二者択一が行えてるかどうかというのは、ひとつの判断軸なのかもしれない。私達の提供しているサービスや商品は、どちらを目指しているのか。その結果、会社としての存在や意義は??
ただ、上質か手軽かという対比になると、なんとなく手軽というのが、上質の下のように感じられてしまうかもしれない。どちらかを目指せと言われたら、「上質」の方がなんとなくかっこ良いように思えてしまう。

ということを著者が気にしてかどうかは知らないが、著者は上質か手軽かを、次のような言葉でも言い換えている。それは、「愛されるか、必要とされるか」とだ。
上質さとはすなわち、愛されることであり、手軽さとは必要とされることだ。上質か手軽かでは、わからないものも愛されるか、必要とされるか、という軸から眺め直してみると、わかりやすくなるケースもあるだろう。ラグジュアリー系商品は、ほとんどの場合、「愛され」なければならないだろう。決して、「必要とされる」存在になろうとしてはいけない。
圧倒的に愛されるか、圧倒的に必要とされるか? 事業やサービス、企業はどちらかを「選択」し、その方向をより強化していけるように、リソースを「集中」させなければいけない、というわけだ。

そして、著者が提唱する戦略もいたってシンプル。明瞭だ。こんな単純でいいのというぐらいの割り切り方で、マーケティングを学問的に学んだりしてきてる人には少し拍子抜けさえするかもしれない。
著者の考え方は次の引用にすべて含まれてる。

(P.187)
上質な商品がいくつもある場合、そのうちで最も手軽なものが顧客から選ばれる。逆に、手軽の軸上で複数の商品が競り合っているなら、そのなかで上質さで一歩抜けだしたものが顧客の心をつかむ。ここにこそイノベーションや差別化の本質がある。商品やサービスにほとんど差がない時には、価格を安くした企業が勝つ。価格と入手しやすが横並びなら、ほんの少し質を高めた者が勝者となる。

ほんとにそうかなと思うこともあるんだけど、こういう極めて単純、極端な世界で徹底して考え、行動してみるというのは、実は、一番いいんじゃないかなと。こむずかしく考えるよりも、何か極端に行動していくほうが、良い結果が生まれることは実際多い。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク

コメント

  1. トレードオフ 上質をとるか、気軽をとるか 序文/ジム・コリンズ 著/ケビン・メイニー 訳/有賀裕子...

     今回、あなたに必要な一冊は『トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか 序文/ジム・コリンズ 著/ケビン・メイニー 訳/有賀裕子』です。 この本は落とし穴、それも、とても魅力的.......

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です