花沢健吾からは目が離せない

4091873057アイアムアヒーロー」を社員から教えてもらって読んだのが花沢健吾を知るキッカケだった。妻の友達から、花沢健吾なら「ボーイズ・オン・ザ・ラン」も面白いよ、と教えてもらい漫画喫茶で一気に読んだ。「ボーイズ・オン・ザ・ラン」で完全にノックアウトされて、すぐにデビュー作の「ルサンチマン」も読んだ。

後追いながら、この人の描くものを通して読んで見ると、この人が描こうとしているものは、デビュー時から全く変わっていないことに気づく。それは、デビュー作の「ルサンチマン」というタイトルに集約されているのではないか。描かれるのは殆どの場合、いわゆる「ヘタレな男」であり、自分の駄目さと世界との折り合いを付けようともがき苦しむ様だ。

409182580Xルサンチマンという言葉は、単に、弱者が強者に抱く妬みとか嫉妬という感情や心理状態を意味する言葉として理解されるだが、この人が描こうとしてるものは、単なる妬みや嫉妬ではない。それは、まさにルサンチマン的な屈折した感情である。

ルサンチマンの説明としてよく使われるイソップ童話の「すっぱい葡萄」という話がある。
すっぱい葡萄 – Wikipedia 
4091873014キツネが単にぶどうが手に入らないことに対して怒り、悔しがっているだけならば、それはルサンチマンではない。ルサンチマンは、キツネが「どうせこんなぶどうは、すっぱくてまずいだろう。誰が食べてやるものか。」と、対象側の責任に転嫁して自身を慰める、これがルサンチマンだ。

手に入れたくてたまらないのに、人・物・地位・階級など、努力しても手が届かない対象がある場合、その対象を価値がない・低級で自分にふさわしくないものとみてあきらめ、心の平安を得る。

デビュー作の「ルサンチマン」や「ボーイズ・オン・ザ・ラン」などがまさにそうなのだが、どちらも女性にもてない主人公、何をしても駄目な主人公が、その駄目さや女性からの冷ややかな目線、態度などに対してルサンチマンに支配される。自身が弱者であることから目を逸らし、自分の都合の良い世界に逃げこんだり、異性や環境や社会などの責任へと転嫁を計る。しかし、主人公たちはやがて自分の感情に立ち向かい、目を背けていた世界や社会を直視しようともがく。その姿や生き方が共感を生む。

「ルサンチマン」は、デビュー作ということで描きたいことと、表現力や物語の構成などの面ではまだまだ模索しているように思えるが、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」では一気に開花する。主人公田西の駄目さぶりと、その駄目さぶりを卑下する様に、読者は時折憤りを感じながら、どんどん田西に感情移入してしまい応援したくなってしまう。若さとか青春とか青さとかが持つ特有の危うさや脆さが見事に表現されている。そしてなんといっても金髪の女性ボクシングトレーナー、ハナの存在だ。彼女の正真正銘の屈託のなさ、裏表のなさ、一直線さなど、彼女のキャラクターの全てがこの作品の中では天使のように輝く。

「ボーイズ・オン・ザ・ラン」はリアリズムであったが、「アイアムアヒーロー」は、表現としてはリアリズムながら、その物語環境、主人公が置かれる状況に、ありえない極端な世界を用意した。(ありえない世界ながら、それがありえてもおかしくないんじゃないかと思わせるようなリアリティを配置することには相当神経を使っているように思えるが)。
まだ、「アイアムアヒーロー」は始まったばかり、物語が置かれている特殊な環境から考えると、物語はまだまだ序盤に過ぎない。これからどうなるか展開は全く読めないが、今回もこのヘタレ主人公は少しづつ立ち上がり、そして世界に立ち向かっていくのだろう。
「ルサンチマン」に支配された駄目青年は、やがて立ち上がり駆け出して(「ボーイズ・オン・ザ・ラン」)、そしてヒーロー(超人)を目指す(「アイアムアヒーロー」)。それぞれの漫画はストーリーも登場人物も表現もそれぞれに異なる全く別の作品だが、ボクにはなぜか一つの大きなストーリーとして貫かれている、そんな気がする。

補足として。「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は新井英樹の「宮本から君へ」の影響を相当色濃く受けているということを、妻の友達の漫画家さんから教えてもらった。個人的には絵のタッチなどから、「赤灯えれじい」(きらたけし)に影響を受けているのかと思ったが。よく考えると連載時期はほぼ同じか。ハナがチーコにどうしもてかぶって見えてしまうんだけど。
新井英樹は恥ずかしながら「ザ・ワールド・イズ・マイン」しか読んでおらず、近々時間をつくって、早く「宮本から君へ」を手にしなければと思ってる。




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コメント

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