村上春樹翻訳の現代アメリカ小説3冊

村上春樹翻訳の現代アメリカ小説を3冊を立て続けに読んだ。
世界のすべての七月」と「本当の戦争の話をしよう (文春文庫)」「心臓を貫かれて(文春文庫)」の三冊だ。

430901917X読み返すきっかけは、高橋源一郎と柴田元幸さんの対談集「柴田さんと高橋さんの小説の読み方、書き方、訳し方」を読んだのがきっかけ。

柴田さんがそもそも翻訳の世界に入られたのが、村上春樹の翻訳アンソロジーの仕事の手伝いからだったということにはじめて知った。それまでまともに現代文学や小説を読んだことがなかったということいも驚いた。
この中で、それぞれが30冊の海外小説を選んでいて、柴田さんが村上春樹訳の「心臓を貫かれて」「本当の戦争の話をしよう」の2冊をリストに入れていたからだ。(他、お二人とも村上春樹訳では「レイモンド・カヴァー全集」をリストに入れられている) 

合計60冊+αのリストだと半分ぐらいは読んだことがあったけれど、どれもこれも悲しいぐらいに覚えてない。せっかくだし、読みやすい村上春樹訳のものから読んでみるかと手をつけはじめたというのが事の始まり。

4163226907 オブライエンの「世界のすべての七月」は、こういう事情とは全然関係なく、ただ文庫本になってたので暇なとき読もうと思って買ったのだけど、「本当の戦争の話をしよう」を読み返すということもあって、せっかくだし、最新作も読んでおこうと偶然の巡り合わせで読んだ感じだ。
「世界のすべての七月」はある学校の同窓会と、そこに集まった何人かの人たちの70年代から現代のクロニクルだ。ベトナム戦争が遠い過去となった今、30年ぶりの再会を果たす同窓生たちのそれぞれの思惑や、その30年間の悲劇や喜劇が綴られている。村上春樹が訳しているオブライエンの小説は、ほとんど読んできたと思うけれども、どんどん「戦争」や「70年代」が遠いものになってきて、より客観的なものとして、比喩として扱われてきている印象を受けるのは僕だけだろうか。こういう小説を読むと、大学時代のことが懐かしく、少しセンチメンタルな気分になる。


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 「心臓を貫かれて」は、言うまでもなく、殺人犯であり、自ら死刑を求めて、死刑廃止論が高まる中、アメリカに死刑復活の契機を与えたともいえるゲイリー・ギルモアを題材としたノンフィクション小説だ。執筆者が弟ということもあるが、ゲイリーやその事件だけを扱うのではなく、ギルモア家という壮絶な一家の歴史を丁寧に追いかけている。
この小説はほんとに大傑作小説だと思う。かれこれ3回ほど読み返してるけれども、何度読み返しても圧倒的に面白い。荒涼とした荒野が無限に広がっていた貧しいアメリカの姿、家族にまとわりついた幽霊たち。どんな背景や事情がるにせよ殺人が肯定されるわけではないが、しかし、ギルモアがすべての悪を背負い、破滅の道へ突き進まざるを得なかった状況にはやはり同情を禁じえない。

この手のいわゆる「ノンフィクション・ノベル」では、なんといってもカポーティの「冷血」を思い出す。ボクはカポーティの熱心な読者ではないが、なぜか「冷血」だけは定期的に読み返したくなる。小説として読んでも、ノンフィクションとして読んでも中途半端には違いないのだけれど、そういう人物が実在し、こういう事件が実際に起きたという「事実」の強烈さこそが、この小説に繰り返し戻ってきたくなる要因の一つだ。
あらゆる周辺と細部を冗長と思えるほどの丹念さで描くことで、フィクションではなしえない圧倒的な物語の引力が生まれてくる。カポーティが生み出したこの「ノンフィクション・ノベル」というような手法の、おそらく最高傑作に近いものが、「心臓を貫かれて」ではないかと思う。


 4167309793本当の戦争の話をしよう (文春文庫) 」は、オブライエン自身の戦争体験記のようでもあるが、その実際のところはわからない。ただ、この小説もフィクションかノンフィクションかはそれほど重要なことではない。どれだけ非日常的な突飛な世界や出来事であっても、戦争という状況においては、そういったことさえもありえた/ありえたかもしれない、という想像がかき立てられるかどうか。


しかし、村上春樹は、タイトルのつけかたもすごくセンスがいいなと思う。「July July」が「世界のすべての七月」。「Shot in the Heart」が「心臓を貫かれて」。「The Things they Carried」で「本当の戦争の話をしよう」。どれも原題の雰囲気や意味をを損ねることなく、かつ小説の雰囲気やムードを非常にうまく表しているなぁと。

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