「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」を見てきた

ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー 東京出張にあわせて初台のオペラシティで催されてるホンマタカシさんの写真展「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」に行ってきた。オペラシティに行くのも随分久しぶりだ。昔は仕事の関係でちょくちょく通っていた。あの頃は、アンナミラーズもあった。

「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」はホンマタカシさんの2005年以降の活動の総括的な大規模個展ということで、ものすごく愉しみにしていたのだ。

「Tokyo and My Daughter」は、そのタイトル通り、東京の風景と自身の娘の成長の記録を追いかけたスナップを組み合わせたシリーズだ。暖かな家族、カメラに向けられる娘の眼差しどこにでもある父が愛娘を撮った写真のように思わせながら、しかし、実は、この被写体の少女は、写真家ホンマタカシの娘ではない。タイトルに「My Daughter」と付け、さらに途中、途中に小休止的に挟みこまれる東京の風景が、いかにも無機質な記号的な「東京」となっていて、それが、この「娘」を中心とする「家族」の写真との対比で、より一層、この家族の実在性というか生々しさが浮き立ってくるように思える。しかし、この「娘」も、そして娘とカメラマンであるはずの父も、それを取り囲む家族も、この少女が写真家の娘ではないというこの一点において虚像となる。タイトルと写真の差異によって、この一連のシリーズの写真と写真のコンテクストや1つ1つの写真が物語る意味的なものが少しづつはぐらかされて行くのだ。これは非常に不思議な感覚だ。
少女の写真1点1点を見ても、いかにもホンマさんらしい無機質感というか透明性を持ったショットがいくつかあり見惚れてはしまうものも少なくはない。しかし、そういった純粋に1つ1つの写真が持つ意味だとか、メッセージだとか、そういうものを超えて、作品と作品の関係、作品とタイトルの関係、そして展示順序や展示方法との関係など、写真展全体を通じてのコンテクストの中で初めて浮かび上がってくるコンセプトみたいなものを愉しませる、ことを狙っているのだろうか。それはある種、「決定的瞬間」的な写真から最も遠い場所で写真がどう活きるかということに向きあうことなのかもしれない。

21世紀美術館での展示の際にもそのように配置されていたのかは知らないが、「Together Wildlife Corridors in Los Angeles」と「M」が同一会場に配置されている対比も面白かった。その部屋の壁の四方を取り囲むように、「Together Wildlife Corridors in Los Angeles」の一連の写真が飾られ、部屋の床には「M」が配置されている。「Together Wildlife Corridors in Los Angeles」は、ロサンジェルスにおける野生動物と人、文明社会との共存や共棲といったものを捉えたシリーズだ。フリーウェイのすぐ脇に、そしてその下をくぐり抜ける道に、野生動物回廊が築かれ、人々の気づかぬすぐ側で野生動物が暮らしている。その痕跡を写真に納めたもので、各写真にはマイク・ミルズの文章が添えられている。
一方で「M」は、まさに資本主義、文明社会の象徴とも言える「マクドナルド」を捉えたもので、自身初のシルクスクリーンでプリントされている。「Together Wildlife Corridors in Los Angeles」の一連の写真が被写界深度の深いある記録写真的な表現なのに対して、シルクスクリーンの「M」は、まるで一昔前のポップアートのように軽く、粗く、曖昧模糊としている。ただマクドナルドのお店を撮っただけなのに、そこには底抜けの明るさや愉しさが溢れ出る。しかし、シルクスクリーンのその独特のタッチによって、これらがいかにも上辺だけののっぺらとした記号にすぎないかということが露呈される。
ここでも絶妙な対比が空間全体のリズムというか独特の雰囲気を醸成している。しかし、この手の対比や被写体選びは、一見、文明批判的なメッセージに染まりそうでもあるのだけれど、それが不思議なことにそうならないところがこのシリーズの不思議なところだ。「Tokyo and My Daughter」と同じように、ズレとか差異が持つおかしさみというか掻痒感というか、そういうものだけが漂う。

個展としては、作品の数もそんなに多くはなくて、個人的にはもう少しボリュームがあってもよかったのではないかなとも思う。2005年以降の作品群ということだがコンセプチャルな方向で仕事をしているのだなぁ。
ボクは、ホンマさんが撮る東京の郊外の写真がすごく好きだ。東京なのに東京のように見えない。何度も見たことのなる風景なのにどこかが違うような違和感がある。外国人が見た日本のようなあるいは夢で見た光景のような、実在とか現実とかとの結びつきが弱まり、表層的な記号だけが漂うような世界。近そうで遠い世界。昔の仕事を集めた回顧展みたいなのもやってくれたらなぁというのが希望だ。(なにせ、ホンマタカシさんの初期の写真集は手に入れるのがかなり困難だ。中古でもかなりの値段がついてたりして、なかなか手にできない)

そうそう、当日朝にオペラシティに行くととツイートしたら、梅ちゃんが反応してくれて、途中で落ちあって昼ごはんを一緒に食べた。おいしい魚料理のお店に連れていってもらい、ボクはうなぎの蒲焼定食を食べた。そんな定食があるのも珍しい。さんきゅー、梅ちゃん。

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