成功者の告白 5年間の起業ノウハウを3時間で学べる物語

今日は東京日帰り。いつもよりちょい遅め。7時30分の新幹線。行きは神田さんの新書「成功者の告白 5年間の起業ノウハウを3時間で学べる物語」を読んだ。

成功者の告白 5年間の起業ノウハウを3時間で学べる物語
帰りは綿谷りさの芥川受賞作「蹴りたい背中」を読む。
蹴りたい背中

1時間で読める芥川賞作。綿谷りさの方は、別途機会があったらもうちょいじっくり考えてみたい。読後感としては前作「インストール」のほうが不器用さがあった分、良かったというようなもの。「周り」とうまくコミュニケーションがとれない、距離がとれない主人公の「ハツ」は、いかにも類型的なんだけども、
多分、文学少年、文学少女のほとんどが、思春期には同じような感覚を抱くのだろう。ある意味「私」を特別視してるんだけど、特別視していることには嫌悪感を持っている。メタレベルの「私」への遡行。「私」と「周囲」の距離に侵入してくるオタク少年「にな川」。私と「向こう側」と「にな側」。基本的にはこの三点の「距離」に対しての私の視点が描かる。「私」が「にな川」に寄せる視線が、実は「向こう側」に行けない「私」自身への眼差しだったりして。この構図もまた典型的かな。


さて、神田さんの新作
タイトルまんま。神田昌典という人は、ほんと自分の身の周りに起きたことや、課題をビジネスにするのがうまい。その課題の解決手法として持ってくるのは、たいていどこかに「元ネタ」があるのだけれど、一つのストーリーとしてまとめあげてしまう手腕は天才的だ。(「パクり」とかそういうことを批判しているわけではないです)

さて、本書の主要テーマは、「第二創業期」に起きる問題をいかに解決するか、ということ。多くの神田さんフォロワー達が、「一番難しい新規顧客獲得さえうまくいけば、ビジネスは成功する」という段階で留まり続け、「顧客獲得の仕組みづくり」によってビジネスを自動化して、「サルでも出来るビジネス」にしていこう、楽して儲けようと唱え続けるのに対して、神田さんはその段階を超えて、本当に企業が企業になる段階に訪れる組織上の問題に視点を向けている。

「第二創業期」とは、本書の言葉を借りれば、創業時の家族的なフラットな組織でビジネスを行っている段階から、経営システムを整え、経営がチームで運営されるようになるその端境期のこと。
「日本の会社の90%以上が、年商10億円以下の零細・小企業」なのは、この「第二創業期の壁が非常に高い」からだと言う。「年商八億円ぐらいの会社が、来年は10億目指すぞと頑張ったとたんさまざまな問題が起こって、年商六億に後戻りする。」(P.199)

そこで必用なのは「経営のシステム化」だという。
これは「仕事のシステム化」とは違う。今までの神田さんが「仕事のシステム化」の部分にフォーカスしていたのに対して、今回は「経営」だ。


■マネイジメント上の問題にどう対処するか?

チームで機能する会社をつくっていくステップを神田さんは次の3ステップでまとめる。
  1. ステップ1 土台づくり1:母親の出番
  2. ステップ2 土台づくり2:父親の出番
  3. ステップ3 チーム体制の組み立て
子供を教育していくステップをチームの教育ステップに置き換えて考えるわけだ。「子供は母親からのたくさんの愛を感じて、自分は安全である、信頼されているという環境をつくらないと、しつけをどんなに厳しくしてもダメ」「第一に母親的な愛情。その次に父親的なしつけを行うことが大事」。
この順番を間違えることが多い。たいていステップ2が先行する。チームをつくろうとすると、まずルールや決まりごとで社員を統制しようとするようなことだ。
(ネタバレになるが、実はこのステップにはまだ足りない段階がある。それは本書を最後まで読めばわかる)

グッド&ニュー
じゃあ具体的にステップ1ではどんなことをするのか?
ここで神田さんは米国の教育学者が開発した「グッド&ニュー」という手法を提案する。
  1. ゴムでできたカラフルなボールを用意する。
  2. 六人程度でチームをつくる
  3. ボールを持った人は二十四時間以内に起こったいいこと、もしくは新しいことを簡単に話す
  4. 話が終わったら、まわりの人は拍手する
  5. 次の人にボールをまわす。
  6. これを繰り返す。毎日やる。
カラフルなボールを持つのは、ボールを持つと「リラックスして身体が開いてくる」からだそうだ。
この遊びは心理学でいうリフレーミングを習慣化するためのゲーム。要は物事のプラス面を見る訓練。
この手のものは使い方を間違えるといかがわしい自己啓発セミナーになる(いかがわしくな自己啓発セミナーもある)

承認の輪
「グッド&ニュー」以外にも「承認の輪(ヴァリデーション・サークル)」というゲームも紹介されている。
それは、「社員同士で定期的に、社員の会社における存在を承認する」(P.221)を目的として、「お互いの存在を認める言葉を掛け合う」というもの。
『○○さんと一緒に働くことができて、本当によかった。なぜなら…』
と「なぜならの後の文章を完成させる」。
正直、これもかなり気持ち悪い(笑 
「誕生日」なんかにやると効果的なんで「誕生日の輪(バースデー・サークル)とも呼ばれてるらしい。
しかし、みんなでこんなことやってる姿を想像すると、う~んとなってしまう。どうなんでしょうか。やったほうがいいのでしょうか?

クレド
これらが「ステップ1」。「母親の愛情」の次は「父親的な意思の力」の出番だ。ここでは「クレドの導入」が提案されている。
これも単純。会社での憲法をつくる。「会社を運営していく上で、絶対に守ってほしいという項目をいくつか文章化する」(P.224)
クレドとは、リッツ・カールトン・ホテルが会社の価値観・哲学をまとめたものを言う。よくあるような会社理念とは違い、細かな行動上のルールがまとめられている。
(メモ:P.226~227に、実際の「クレド」の一部が掲載されている)

「クレド」の作り方の解説はいかにも神田さん的だ。
「クレド」をつくるときは、まず「部下の行為に対して怒りたくなったこと」を箇条書きにしていくことから始める。
たとえば、「月曜日に休まれること」「入社して間もないのに長期休暇をとったりすること」などのように。まず『○○○してはならない』という文章をいくつもつくる。怒ったことというのは、こちら側の「期待、すなわち価値観に対してズレている行動を示すもの」(P.232)だから、二度と怒らなくていいよう、それを箇条書きにしていく。

で、こうやってできた文章を肯定文に直してみる。「『○○○するな』という表現は非常に厳しく聞こえるので、社員にとってはストレスになる。同じ意味でも『△△する』という形に言い直したほうが、より潜在意識に刻み込まれやすい」(P.232)

『月曜日休んではならない』→『休暇をとる場合には、チームメンバーに迷惑をかけない日にしよう』という具合。

さて、この「クレド」。リッツ・カールトンでは、「ラインナップという朝礼のような短い会議を毎日開く」そうだ。

クレドカードに書かれたベーシックと呼ばれる二十項目について毎日ひとつづつ話し合うんだ。この二十項目に沿って組織全体が無意識に行動できるようになるまで、徹底して教育していくんだ(P.225)

ラインアップの具体的に進め方。

ラインナップリーダーと呼ばれるリーダーがその日の項目を読み上げる。そして、その項目に関連した自分の感想や最近の体験について話し、他のメンバーと共有する。他のメンバーも全員、同じように自分の意見を話しみんなと共有する。すると、たんなる唱和とはまったく異なるメソッドになる。
唱和の目的は、社員を会社の型にはめて、考えない人間をつくることだ。それに対してクレドの目的は、その価値観や行動様式を実際に応用するために、考える人間をつくる

「クレド」に近いことはやってたけど、「ラインナップ」ってのはやってなかったな。これは面白いかもしれない。


企業ドラマを演じる四人の役者

企業ドラマを演じるには四人の役者がいる。
起業家、実務家、管理者、まとめ役の四人。
この四人の誰が活躍するかは会社のライフサイクルごとに異なる。

創業時は、起業家のエネルギーやアイディアを実務家が支援していく。
起業家が長期的な視野にたった壮大な夢を追いかけるのに対して、実務家は日々の業務の細かな部分での体制づくりなどを担う(導入期~成長期前半)。

起業家と実務家によって企業が成長を歩みはじめると、ここに管理者が必要になる。営業面だけじゃなく日常業務をシステム化したり、ルールを決めていったりする人間だ。今度は実務家と管理者が協力して会社の仕組みづくりをしていくことになる。(成長期後半)
最後に「まとめ役」が登場する。社内でお母さんと呼ばれるような存在。スタッフの心を繋ぎとめる存在。

図式はこんな感じ。

実務家──管理者
 │    │
 │    │
起業家──まとめ役

対角線上に位置する役割を担うものは反発しあう。「管理者」と「起業家」。「実務家」と「まとめ役」だ。隣同士になっているものは協力しあう。

これをちと自社の例にあてはめて考えてみる。むむむ。どないでしょう?
ボクには判断しかねます。一人がどれかの役割を全面的に担うというよりは、うちの場合は、いろんな人がいろんな部分をちょっとずつ担っているという感じだろうか。ここで描かれている起業家のイメージに被るキャラクターはうちにはいないしなぁ。

神田さんは、これを桃太郎の物語と登場キャラクター、その順番に沿って説明するのだけど、これまたいかにも神田さんらしい。話を単純化する天才だ。


第二創業期を乗り越えること、会社の倫理観

確かに「第二創業」と呼ばれる時期にはいろいろ問題は出てくるし、多分今、自分が体験していることも似たようなことなので、よくわかるのだけど、そういう悩みを抱える経営者が多いからこそ、この手のビジネスが儲かるというのも事実だ。ボクはどうもこの手の手法には性格的に嫌悪感を持っているところがある。臨床心理学も嫌いなのだ。なので、どうしてもまるごと全部鵜呑みにしてしまうことができない(そういうところがダメなんだろうけど)

でも、本書内に出てきた神田さんの組織に対する考え方にはいくつかものすごく共感できるところがあった。自分が会社や組織の価値観に対して抱いている感情と、その理由を見事に説明してもらえた気がした。

会社には、社長の足りないところを顕在化させるために、問題を起こすのに最適なメンバーが集まっている。だから、その働く場自体を向上させていかなければ、いつになっても同じ問題の繰り返しになる。
また、能力がないからさっさとクビを切るという文化を会社がもってしまえば、こんどは、会社が十分なボーナスをくれなければさっさと辞めるという、相手から奪うという文化を会社のなかに構築することにもなる。もちろんスタイルの違いだからと反論はあるだろうが、私は他人から奪うことを文化として持っている会社が、発展するとは思えないな(P.209)

このあたりの信条は、そのまま自分の信条にもしたい。

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コメント

  1. 税はどうよ より:

    同感

    自分なりにまとめました。
    「組織づくりのための経営者への4つの問い」
    1.父・妻・兄弟姉妹を許しているか
    2.問題社員をアンテ役と感じているか
    3.採用と解雇の際に、会社文化がつくられや  すいことを認識し、行動しているか
    4.捨てればそれ以上のものが手に入ることを  認識し、行動しているか

    熱いメッセージでした。

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