成長する(させる)ためには高いハードルも必要
昔、ある大手のECサイトのリニューアル案件が動くことになったたのですが、そのECサイトをもともと担当してたディレクターが東京に引っ越すことが決まってて、誰かに引き継がないといけないという状況でした。
しかし、その案件の担当をできそうなディレクターは、同時期に他の大型案件に縛られていて誰もアサインすることが出来なさそうでした。
急遽採用する、外部のパートナーさんからアサインするというような案も出ましたが、あまり現実的ではなく、最終的にまだ経験の浅いある新人のディレクターに担当を任せようということになったのです。
その人物は、当時はディレクターというよりディレクターの動きをサポートするアシスタントディレクター的な役回りをやっていたと思います。どれだけの能力があるのか、ボクはちゃんと把握しているわけではなかったですが、他のディレクターとのやり取りなどは何度か傍から見てて、かなりキッチリした子だなぁというような印象だけを持っていました。
ボクはその子を今回の案件のディレクターにしてはどうか?と、プロジェクトメンバーに提案しました。しかし、何人かには反対されました。「経験が足りないので、まだちょっと無理じゃないか、若すぎるんじゃないか」という意見でした。
今となっては、そんなに難しい案件でもないのかもしれないですが、当時としては規模も大きく、また元々あるECシステムそのものが複雑で、それがベースとなる大規模な改修案件なので、まぁまぁ難しい難しい部類の案件だったのです。
普通にコーポレートサイトを作るとか、CMSを導入するとか、そういうものよりも難易度はかなり高いものだったと思います。
失敗は許されないし、さすがにこのクラスの案件をいきなり彼が回すのは難しいのではないか、という意見もそりゃそうだろうという感じでした。
が、人がいなかったということもあるのですが、ボクはとにかく彼をディレクターとしてアサインしようと強引に決めてしまったのです。その代わり、ボクも案件には関与し、彼をカバーするようにして、リスクヘッジをするということで、プロジェクトメンバーの合意を取りました。
彼を成長させるには、こういう案件をやらせないといけないのだと思ったのです。確かにリスクもあるけれど、そういうリスクを乗り越えないと、この子も成長することはできません。会社としても大型案件をまわせるディレクターを増やすことができません。これではいつまでたっても成長がない。
会社もそうですが、人も、難しいことにチャレンジしなければ成長することは出来ないとボクは思ってます。簡単なものから徐々に経験をつんでいって、実力をつけていくというプロセスもそれはそれでありますが、ある瞬間、ある場面では、いきなりものすごく高い壁が立ちはだかり、それを乗り越えないといけない、ということもあると思うのです。
普通の人は、出来るようになってからチャレンジしようと考えます。チャレンジするにしても、もう少し実力が伴ってから、もう少し能力が付いてからチャレンジしようと考えるかもしれません。
でも、ある種の飛躍とか、所謂「一皮向けた」みたいな状態を生み出すためには、そういう徐々に身体を慣らしていくみたいなやり方では駄目で、、やはりもう乗り越えられるか乗り越えられないか、一か八かぐらいの覚悟を決めて挑戦するしかないんじゃないかと。そして乗り越えれば一気にぐんと成長するものなんじゃないかと。
そもそもやったことがないから、リスクがあるのでやらない、ということを選択してたら、永遠とやれるようにはなりません。やったことのないことにチャレンジするからこそ、やれるようになるわけです。
もちろん何事にも限度はあるんだろけど、でも、人間がやることは想像以上にすごいことが出来るもんだとボクは思ってます。1969年当時、米国のアポロ計画を担ってた技術者の平均年令は26歳だったそうです。前人未到、誰も経験したことのない人間の月面着陸という想像を絶するプロジェクトです。若いとか経験がないとかというのは、あんまりアテにはならないのではないかと。(実際は、話の裏側には、40歳前後の非常に優秀なプロジェクトマネジャーがいたということもプロジェクトの大きな成功要因だったと言われてますが)
だいたい能力とか実力みたいなものが正確に測定できるわけでもないので、どれぐらいが目標に対してちょうど良いかなんてのは、殆ど誰にもわからないわけです。なんとなく、恐怖心がある、リスクがある、まだ無理ちゃうか? それだけが「もうちょい成長してから/もうちょい能力つけてから」と、チャレンジを回避する理由になってしまうのではないでしょうか。
結果はどうだったでしょうか?
ボクがリスクヘッジをするなんてのは杞憂でした。
ボクが関与する必要もないぐらいに、彼はちゃんとディレクションして、難しく厳しい案件を乗り切ったのです。もちろん、関与してたプロジェクトメンバー全員が非常に優秀だったということもありましたが、でもだから誰でも出来た案件ではないと思います。
不明点はきちんと色々な人に聞き、慣れない仕様策定のプロセスに苦しみながら、システム陣とデザイン陣とのハブとなり、スケジュールをコントロールして無事に納品にまで持ち込んだのです。
その後、ボクはもう1つ彼と案件をやりました。その時は、何も不安はなく、ボクは提案とクロージングのところ。そして、ちょこちょこっとしたアドバイスをしたぐらいで、ほぼ完全に彼は一人でその案件をこなしてました。そして、彼は社内でも最も難しくヘビーな案件のディレクターを任されるにまで成長しました。
彼にあの時、あの案件のディレクターを任せていなかったら、多分、彼は今とは違ってたと思います。もちろん潜在能力はもともと高いので、同じように成長はしたとは思いますが、スピードはもっと遅かったのではないかと思います。
ボクもその傾向はもともと多分にあるのですが、現場あがりの管理職というのは、なかなか下の人を信頼して仕事を任せることが出来なかったりします。「下の人」に較べれば当たり前ですが、自分のほうが圧倒的に知識もあり、何でもうまく出来るからです。
なので、どうしても「下の人」のやり方が気になるし不安を感じます。自分に較べたらまだまだ足りてないなと感じるのです。だから、なるべくリスクヘッジして、なるべく難しいところは自分でやって、簡単なところを「下の人」に任せようというような意識が働いたりします。
でも、これやってても、「下の人」はなかなか成長はしません。失敗してもいいから、というぐらいの気持ちで難しいことにチャレンジさせないと本当は駄目なんだと思います。
で、出来る限り失敗しないように、さり気なく、その人には気づかれないぐらいでサポートをする、目配せしておく。そして、成功したら、その人の実力・功績としてきちんと評価して褒めてあげる。これがマネジャーやリーダーが、「下の人」を引っ張り上げる、成長させる一つの方法なんだと思います。(決して、俺が私がサポートしてたから出来たのだ、なんて下衆なことを言ってはいけませんw)