HUGEの本屋さんの特集がすごく良かった
HUgE (ヒュージ) 2013年 02月号 [雑誌]
HUGEの本屋の特集がすごく良かった。
町の本屋が消えてるという話。出版不況やら大型複合書店の登場やらAmazonやら、色々な要因もあって、「町の本屋」が危機に直面している。日本ではだいたい1日1件は、本屋が倒産しているというような具合らしいが、これは日本に限った話でもなくて、世界的にも本屋はかなり苦境に立たされてる。
そんな中でも、今までの本屋とは少し違う、個性的な新しいタイプの本屋も誕生してきている。
ただ新刊や売れ筋の作家の本を取り揃え、陳列するのだけでなく、店主独自の感性で選択され編集された品揃えや陳列を売りいする本屋。
様々なイベントを通じて、単なる本の購入場所という役割を超えて、知的好奇心を触発させるための場としても機能させていこうとする本屋。そんな潮流を捉まえながら、様々な角度から、「本屋」さんの今を切り取っていて、非常に読み応えもあるし、色々なことを考えさせられる。本屋を考えることが、地域コミュニティの問題や、人としての生き方の問題まで繫がってくる。
本屋がない町を想像してみる。多分、そんな町は日本にはいっぱいあるし、多分今も地方を中心にどんどん増えてきているのだろう。
それは物凄く寂しい感じがする。
池上彰が、その国が将来発展するかどうかは、街に大きな書店があり、そこに若者が大勢いるかどうかでわかる、というようなことを書いていた。そもそも情報統制をしたり、愚民施策みたいなことをやったりしているような国には、本屋はほとんどない。発展する国というのは、豊かな“人的資源”を持ち、その人達が旺盛な知的好奇心を持ち、より学ぼう、より識ろうとしてる。そんな若者が多い国は発展していくのだと。本当かどうかはわからないけど、確かに、本屋がない町というのは、町としての活気や未来への期待みたいなものが失われてしまった町のように思える。
特集で取り上げれていたいくつかの本屋で行ってみたいと思ったところをメモしておこう。
新潟市|北書店
新潟市内では知らない人がいないというほど有名だった「北光社書店」という老舗書店が2010年1月末に閉店した。この北光書店で7年間店長をつとめた佐藤雄一さんが、北光社書店閉店の2ヶ月後に立ち上げた本屋が「北書店」。
佐藤さんがインタビューの中で、こんなことを語っていて、共感するところがあった。
時間がないからっていうのもあるんだけど、安易なPOPには否定的なんだよね。本の並びで考えていきたいっていうかさ。自分にはやっぱり、正面を向いてる本がPOPだと思うし。だって表紙はさ、編集者とデザイナーが一生懸命作った本の顔なんだから。これだけで伝わることってきっとあると思うんだよね。脈略もなしにその上からPOPなんて貼れない。説明が必要な場合もあるとは思うけどさ
ボクもあまりPOPがやたらめったらついてる本屋が好きでない。もちろん、そこの店主が本当に読んで、その内容や面白さを少しでも、人々に知ってもらおうと付けてるPOPは嫌いではないのだけれど、どう考えても読んでないんじゃないの、と思うような何の内容も情報もない、ただそれっぽく人を焚き付けることだけを目的にしたPOPをつけてるような店は、あんまり信用してない。
POPなどなくてもきちんと編集して陳列されていれば、選択されていれば、それだけで十分に、偶然の出会いや発見や驚きを与えることはできると思うからだ。
– BOOKS AND PRINTS – ゆりの木通りのちょっと変わった本屋
「大手書店に対抗してやっていくインディーズ本屋の良さを発揮していくことで、町のかなりローカルなところに根ざしているのに、窓は世界に向けて開いているというのが理想です」
写真家若木信吾さんが、地元浜松に開いた本屋。2店舗ある。若木さんの行動力は本当に凄いと思う。北書店と同じく、こちらの本屋もイベントや講演会、ワークショップなどが積極的に開催されている。浜松に行くことは、まずないんだけど、この本屋のためにだけ行ってみたいなと思わせるものがある。浜松は地方都市としては、決して順風満帆というわけでもなく、廃れ行く地方都市の象徴的に語られることも多い街だと思う。 地元ということもあるけれど、そういった地方都市で、あえて本屋を開くというチャレンジは、傍から見たら無謀というか、経済合理性とか効率とかそういうものだけで考えてたら「意味不明」のことかもしれない。でも、それにあえて挑戦する若木さんは、本当に凄いと思う。でも、若木さんのインタビューを読んでも、あまり仰々しいことを考えてるわけでもなく、松浦弥太郎さんの「COW BOOKS」を見て、いいなぁと思ったとか、栄えてる町よりも、寂れたところにある本屋のほうが格好いいと考えるようになったとか、すごーくスタンスが軽い。そのあたりも肩の力が抜けてて素敵だ。
Used, New, and Out of Print Books – We Buy and Sell – Powell’s Books
HUGEの特集の冒頭は「ポートランドの本屋を巡る旅」という特集からスタートする。オレゴン州のポートランドという街は、「石を投げれば本屋かカフェ(あるいはストリップ劇場)に当たる」と言われるほど、本屋が多い街だそうだ。
この街で最も知られているのが、このパウエルズという「世界最大のインディーズ書店」だそうだ。
「インディーズ書店」という言葉の意味が、ボクにはよく理解できてないのだけれど、多分、大手チェーン系ではなく、独立系というような意味なんだろう。 パウエルズはとにかく広い。本店の売場面積が6300 m²、蔵書数は100万冊を超えるそうだ。
パウエルズでは、新刊と古書が一緒に並べられている。また、店内の一角には、購入前の本を持ち込んで吟味できるカフェがある。作家を招いてのイベントも毎日のように行われている。ネット販売にも力を入れていて、amazonより早い1994年にはサービスを始めている。
さらに、koboとの提携していて、オンデマンドで書籍を作れる自費出版のカウンターまである。
最近、日本にもこのような形を取り入れる本屋も増えてきているとは思うが、パウエルズは、こういった新しい本屋の形の先駆者みたいなものなのだろうか。足を運んだことはないけれど、特集を読んでいると、パウエルズという本屋の活気や、そこに集う本を愛する人達の姿が浮かんでくる。
この特集では、ポートランドにある様々な個性的な本屋が取り上げられてるのだが、それを読んでると、一度はポートランドに行ってみたいなぁという気持ちになった。アメリカはニューヨークとサンフランシスコにしか行ったこともなくて、他の都市にこれといって興味を惹かれてなかったのだけれど、本屋の町というだけで、ボクにとっては行くべき場所のように思えてきた。
B&B
下北沢にはかなりの数の個性的なインディペンデント書店が生まれている。その中でも最も注目を集めているのがここだろう。
B&Bは「BOOK&BEER」に由来するそうで、店内では本を片手にビールを飲むこともできるらしい。イベントもほぼ毎日のように開催されてる。内沼晋太郎さんと、博報堂ケトルの共同経営というのも面白い。
博報堂ケトルの嶋浩一郎さんは、以前、インタビューで次のように語っている。
街の小さな本屋が生き残れるビジネススタイルを見つけたい 朝日新聞社広告局 – @ADV
──「B & B」をオープンした背景について、聞かせてください。
2年ほど前に『BRUTUS』(マガジンハウス)の本屋特集に出させてもらったときに全国の書店を回ったのですが、街の小さな本屋ほど経営が厳しい現状を目の当たりにしました。街の本屋が消えないためには、どうしたらいいのか。そんな問題意識を同じように持っていたのが、「LISMO Book Store」や「biblio」の仕事を一緒にやったブックコーディネーターの内沼晋太郎さんでした。内沼さんと話していく中で、自分たち流の書店を実験的に始めてみようじゃないか、ということになったのです。「B & B」の売り場の広さは25坪ほど。まさに街の小さな本屋のサイズです。
B&Bのような取り組みが成功して、こういう形の町の本屋が増えていって欲しいなぁと思う。
恵文社のことについて
ボクの京都の家から歩いて十分ぐらいのところにある左京区が誇る素晴らしい本屋恵文社。
多分、20代以降、もっともボクが時間を過ごし、もっとも多くの本を買ってる本屋が恵文社なんじゃないかと思う。HUGEの中で、そこの店主の堀部さんがこんなことを語っていて、それが凄く良かった。
本という文化資本を守るために書店を運営しているなんて考えたこともないし、ましてやこの仕事で自己表現をしようなんて思ったことがない。息が詰まりそうだった中高生の頃、この本屋が僕に与えてくれたような「別の選択肢」を、今度は自分が他の誰かに差し伸べたい。その手段がたまたま本屋であっただけで、どんな業種だって同じようなものだと思っている。
恵文社は、最近増えてきたお洒落本屋のはしりみたいな捉え方をされることもある。そんなとこから、恵文社好きを、「恵文社に行ってる自分が好き」と揶揄するような人もいる。僕は暇があれば、恵文社に足を運ぶのだけれど、でも、それは「恵文社に行ってる自分が好き」だからではない。それは、恵文社が、色々な気づきや発見を与えてくれ、自分の人生をより豊かにしてくれるように思えるからだ。そこに行くと何かがある、そう感じさせてくれる場所なのだ。まさに、堀部さんが言うように、ボクは恵文社からさまざまな「別の選択肢」を与えられたように思える。それがボクの恵文社という本屋への愛着や信頼になっている。
例えば、知らない人とどんどん会って、友達を増やしていく、人と話をして、知識を広めていく、そういうことが好きな人がいる。それと同じように、本や雑誌から新しい世界や知識を得ることを歓びとする人もいるだろう。ボクの場合は、後者にすごく比重を置いてるのだけど、本との出会いも、色々な偶然やキッカケが必要だ。恵文社というのは、そういう偶然の出会いを色々な形でもたらしてくれる数少ない本屋の一つなのだ。これはAmazonにせよ、いくらインターネットが発達しても、なかなかこういう役割の代わりになるものではない。
恵文社には、これからもそのスタンスを変えずに、続けていって欲しいと思うばかりだ。