従来のやり方とは全く違う、ケンメイ流「伝える店」づくりが学べる〜「D&DEPARTMENT に学んだ、人が集まる「伝える店」のつくり方 学びながら買い、学びながら食べる店 」

D&DEPARTMENT に学んだ、人が集まる「伝える店」のつくり方 学びながら買い、学びながら食べる店
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グラフィックデザイナーのナガオカケンメイさんが、D&DEPARTMENT PROJECT(以下、D&D)というショップを開設するに至った経緯や、その裏側にあった危機意識や考え方などが綴られています。面白いのは、この取り組みがそもそも現在進行形で、今も色々な矛盾や葛藤を抱えながら悩み、考え、一つづつ学びながらプロジェクトが進んでいるというところがわかるところでしょうか。

一グラフィックデザイナー、一デザイン事務所での趣味の延長での活動が、ここまでの社会性や意味を帯びて、広がりを見せていることは驚きですが、本書を読むと、ナガオカさんがいかにリスクを取って、この取り組みにチャレンジしてきたかということがよくわかります。

ナガオカさんがやっていることは、おそらくその業界においては、タブーと言われるようなことばかりです。飲食店や雑貨屋といえば、何をとっても「立地」がビジネスの最重要ポイントだというのは素人のボクでもわかります。しかし、ナガオカさんはあえて不便なところにお店を構えたりします。商品の陳列やカタログなどでの見せ方でも、あえて買う気をそそらせるようなことをしてはいけないというルールを敷いていたりします。商品を必要以上によく見せてはいけないのです。

こういったことは、単に彼が天の邪鬼で人と違うことをしたいからということでやっていることではありません。そこにはナガオカさんの明確なポリシーと、このD&Dを展開していく上で持っている問題意識への向き合い方が反映されているのです。色々なチャレンジから導きだされた彼なりのこだわりであり、掲げるビジョンを追いかけていくために必要なシステムなのです。

D&Dでは、普通にモノを売ってる場所ではない。そこは「伝える店」なんだと、ナガオカさんは言います。
なぜなら、D&Dで販売しているものは、他のところでも売っているものばかりだからです。

「私たちは何を売っているのか」という究極の質問を自問自答するとき、D&Dの「商品」とは「つくり手の思いを伝えること」そのものという答えになります。つまり、「思いを伝えることでお金をもらう」。なんとも不思議でしょうけれど、D&D以外でも手に入るいいデザインで生計を立てるには、店で扱うものやその周辺の魅力をどこよりも楽しく、ためになることとして、お客さんに提供できなくてはなりません。もちろん、「売り値を下げる」なんてことは、「伝える」手間を省いて、手っ取り早くお金に変えるだけの行為で、なんいもならないと思っています。価格を下げたり、セールをするというのは、購入する人たちだけが得することであって、つくり手やその製品をとりまく生態系の継続を考えたとき、安売りした歪みは必ずどこかに影響します。


「つくり手の思いを伝える」ために、D&Dではお店でセミナーや勉強会を開催したりします。様々な人がその店に集い、交流できるようなコミュニティ機能をお店に作る必要があると考え、実践しています。

下手に立地がいい店では、こういったことをきちんと理解して目的もって店にやってくる人ではなく、ふらりとたまたま立ち寄るような人が大勢来てしまう。そっちのほうが売上は伸びるかもしれませんが、来客数だけが多く、そういう人達の対応に時間が取られてしまうと、本来やりたいと考えている意識の高いお客さんにきちんとコミュニケーションを取るということがおろそかになってしまう。これでは本末転倒というわけです。

また、必要以上に商品をよく見せて買う気をそそって買わせても、そうやって買った商品は長くは使われないことが多いのではないかと、ナガオカさんは考えます。それではロングライフデザインの商品を扱う、良いものを長く使ってもらうというお店のコンセプトと相容れなくなってしまう。だから、買う気を煽ってはいけない。お店をやってたり、物販をやってて、こういうことを考えるというのは、実ビジネスに相反するところがあるので、なかなか難しいのが正直なところでしょう。でも、ナガオカさんはそれを実践するのです。

ナガオカさんの活動は、ある種の教育にも近いのかもしれません。以前、糸井重里さんが、これからは「消費のクリエイティブ」が重要になってくる、というようなことを仰ってましたが(参考:「インターネット的」を読み返す | papativa.jp)、ナガオカさんがやってることは「消費のクリエイティブ」の教育や啓蒙活動とも言えるのではないかと思います。「消費のクリエイティブ」を育てることが、短期的ではない、長期的な視点になったモノ作り活動にも重要な意味を持ってくる。たとえ、短期的にビジネスとして成立しても、今の状態がずっと続けられるわけがない。今の関係が良いわけがない。
ナガオカさんは、今の生産と消費の間にある歪みや歪みを、補正しようとしてるのです。そのためには、消費側の意識やスタイルも変わらなければならない。だから、D&Dではお客さんを神様とはせず、一緒の方向を見て学んでいくパートナーと考える。一緒に学んでいかなければならないというスタイルを取る。これは消費者の教育とも言えるでしょう。

しかし、ナガオカさんのビジョンや考えを実現していこうとすると、その取り組みはかなり特異な、そしてビジネスとしてはすごく非効率で、言ってしまえばたいして儲からない取り組みになってしまいます。儲けなければ運営を続けることができない。運営を続けられなければロングライフデザインのコンセプトを掲げる店として矛盾してしまう。でも、儲けることが最重要になったり、儲けるといことばかりに頭を働かせてしまうようになれば、それは、本来、大きな賭けをしてこんな取り組みを始めたこととも矛盾してしまう。ナガオカさんは、そんないくつもの矛盾に向き合い、この取り組みを続けています。

上場企業や多くの株主がいる企業では、こういった取り組みはなかなか正当化することが難しいかもしれません。しかし、日本という国でビジネスを展開していく以上、企業としては、ただただ焼き畑農業のように、どんどんその気にさせて、消費させ、捨てさせるというようなことをやり続けて儲けていくことの限界みたいなものにもちゃんと向き合う必要はあるんだと思うし、そういうものが矛盾してるからといって放っておいていいものでもないんだろうとも思います。

ナガオカさんの取り組みというのは、そういう意味では、消費社会や、メーカーと消費者というような関係、あるいは地方と産業の在り方といったところでの「持続可能社会」を実現していくための、一つの素晴らしい先行事例なのかもしれないなぁと感じました。こういうビジョンに共感した取り組みが、全国各地で広がっていけば、今までの成長・成功一辺倒のビジネス活動や生産、消費といったサイクルとは違った新しい在り方が芽生えていくのではないでしょうか。

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