素人の手習い

人よりお腹の調子のことを考えている時間が圧倒的に大いと思う。とにかく胃腸の弱さには定評がある。腹が正常なときなんてのは1年のうちごくわずかなものだ。だいたい1週間便秘が続いて、その後、2日ないし3日の下痢に襲われるというサイクルなので、比較的腹の調子がいいのは、下痢がおわった後の2日、3日といったところで、その間に普通に便がでるようになればいいのだけれど、下痢でくるしんだ後だけに少々便所に行きたくても、ついつい後回しにしてしまい、その結果、便秘になってしまう。

胃腸が弱いのは明らかに隔世遺伝だ。胃腸の弱さが遺伝するのかしないのかはわからないが、自分ではそう確信してる。そう確信しないとやっててられないというところがあるのだ。運命だから仕方ないやと諦めてるわけだ。

親父はすこぶる快便男なのだが、祖父はこれまた僕に輪をかけてひどい。
親父はすこぶる快便男なのだが、祖父はこれまた僕に輪をかけてひどい。祖父は今や寝たきり老人で、もっぱら祖母と母が面倒をみているわけだが、とにかく便がでない。もともと便秘症につけ、野菜が大嫌いで、寝たきりになるまえから繊維質をまったくといっていいほどとらなかった。なにせ、15年近くの間、昼にはサッポロ一番の醤油ラーメン(もちろん具なし)しか食べなかったという頑固もんである。自分の嫌いなものはどんなに健康によいと言われようが、それを食べなければ死ぬとまで言われようが絶対食べない。その結果、寝たきりになり、ろくに運動もできなくなった今となっては、地力では便をすることが不可能になってしまった。現在、祖父の便は一週間に一度カンチョウを行うという方法で処理されている。そんなこんなで15年近く生きているのだから人間ってのはなかなか強い生き物である。

汚い話なので気持ち悪い思う人はこれ以上読まないほうがいいとあえて忠告させてもらうが、祖父のカンチョウで母と祖母が大失敗を犯したことがあって、その話をしようと思う。

その日は祖父のカンチョウの日だった。カンチョウはだいたい母と祖母の手によっておこわなわれる。二人とも、もう慣れたものだ。なにせ、10年近くそんなことを繰り返してるのだ。目をつぶってても肛門に一撃ってな感じである。

まあその日もいつもと同じようにカンチョウが行われ、祖父の腸にたまった便がかきだされるはずだった。ただ、その日違ってたのはカンチョウ液がいままでのもとは違っていたことだった。カンチョウ液自体は行きつけの病院でまとめてもらってくるものを使用していて、その日もその病院でもらってきたカンチョウ液だったのだが、その病院にカンチョウ液を卸している業者がかわったかなにかの理由で、メーカーがかわったのだ。

母や祖母もそうなのだが、とにかくうちの家族というのは説明書嫌いである。なにか新しい製品を買っても、ろくに説明書を読むということがない。だからいつまでたってもその製品の機能をフルに活用することができず、自分のわかる範囲でしか機能を使わなかったりする。もちろん僕にもその血は脈々と受け継がれていて、例えば、プラモデルを買っても説明書を見ないで無理矢理つくったりする。順序通りにことを処理していくのが苦手なので、わかる範囲からどんどんつくっていっちゃうのだ。そうするとどうなるか? ガンダムのプラモデルが一時期流行ったが、僕のつくったガンダムはいつも手や足といった、本来なら可動するはずの部分が動かない。手なら手を先につくり、足なら足、胴という具合につくっていった後、胴と手がうまくつけられないことになり、仕方なしに無理矢理接着剤でとめてしまうからだ。

とにかく母も祖母も、カンチョウ液が多少かわったことには気づいても、まえと同じだろうぐらいにしか考えていなかったし、当然ながら説明書を読まなかった。それが祖父にとっては悲劇となった。

そのカンチョウ液がそれ以前のカンチョウ液と大きく異なっていたのは、その外見である。以前のものに比べ、肛門に入れる部分が極端に長いのだ。以前のものがヤクルトのストローならば、今度のはマックシェイクのストローである。

なにが起こったかわかった人は慧眼である。

つまり、母と祖母はその肛門に入れる部分を根元まで肛門のなかに押し込まなければならないものだと思っていたのだ。確かに、以前のものならそれでよかったわけだ。長さもそれほどではないし、根元まで入れて液を注入するという方法で正解だった。しかし、今度のは、説明書によると、その先5cmばかりをお湯であたため、肛門に差し込むというのが正しい使い方だったのだ。当然ながらお湯であたためるなどということもせず、無理矢理その長い注入口を祖父の肛門に差し込んでしまった。

固定観念というのは恐ろしいものである。母や祖母も「ちょっと長いなぁ。これ?」ぐらいには思ったかもしれない。しかし以前までのやりかたがそうであり、しかもそれを何十年と続けてきた彼女たちにとっては、長さ云々よりも、むしろ、しっかり根元まで差し込むということのほうが重要だったのだ。

祖父は悲鳴をあげたが、母と祖母はそんな祖父をおさえつけまでし、見事、根元まで差し込んでしまった。祖父の肛門からは便だけでなく、血までも溢れだしたと聞く。祖父がそれ以降、カンチョウ嫌いになってしまったのは言うまでもない。

いくら便秘になっても、素人にだけはカンチョウはしてもらいたくないものである。

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