小倉昌男「経営学」

小倉昌男 経営学
4822241564小倉 昌男

日経BP社 1999-10
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今まで読んでなかったことをかなり後悔した。ヤマト運輸の2代目社長小倉昌男が、どのようにして「宅急便」というサービスをつくりあげたかを語った本ではあるのだが、しかし、内容は単なる「成功譚」ではない。ここに詰まってるのは「企業戦略」のすべてだ。「戦略」を学びたければ、ポーターやコトラーを読む前に本書を読むべきかもしれない。マネージャークラスは必読書だろう。

そもそもヤマト運輸が「宅急便」を開始するまでは、一般家庭、個人をターゲットとした宅配事業は、絶対に赤字になると誰もが思っていたわけだ。個人相手の宅配は需要は偶発的でつかみずらいし、また集配してみるまでどこへ届けるかかわらない。郵便小包より料金は高くとれないとなると、どう贔屓目に見ても赤字にしかならない。誰もがそう考える。しかし、小倉さんは、個人向け宅配市場のデメリットだけでなく、一般家庭は値切らないことや、現金で払ってくれること、百貨店などの配送業務では繁忙期と閑散期の差が激しいが、個人宅配は一度サービスが成り立ち、そのネットワークを小荷物が流れ始めれば、時期による大きな波もなく、安定した収益を確保できるといったメリットをも勘案し、個人向け宅配事業への進出を決断する。「JALパック」をヒントに、無形サービスの「商品化」(=規格化、マニュアル化)を行い、個人というターゲットのニーズや特性を多方面から検証し、取次店制度や地帯別均一料金といった新機軸を次々を打ち出す。同時に、圧倒的な優位性や差別化を築くために、「翌日配送」を掲げ、それを実現するためのオペレーションを整えていく。

小倉さん自身は本書のなかで経営には「戦略的思考」が必要であると語る。
ある時は「シェア第一」「売上第一」と語り、決算が近づくと「利益第一」、その時々で「環境第一」や「安全第一」というようなころころと「第一」を変えては、スローガンを掲げているような経営者は戦術思考しかできていないと言い切る。

「第一を強調するには、第二を設定すれば良い」

単純だけど、これを徹底するのは極めて難しい。しかし、小倉さんは「宅急便」の事業をスタートさせる際は「サービスが先、利益は後」というスローガンを掲げ、それを徹底する。ヤマト運輸では宅急便事業が開始するまでは、毎月支店長を集め、各支店ごとの月次収支を基に実績検討会議というものが開かれていた。しかし宅急便事業を開始する際、会議の冒頭で小倉さんはこう宣言する。「これからは収支は議題としたないで、サービスレベルだけを問題にする」。

小倉さんはこんな事例で語ってる。「たとえば過疎地に集配のための営業所を作るとする。当然、家賃などの固定費をベースから荷物を移送する(横持ちする)ための車両経費が増える。人件費は所長一名分が増える。ドライバーの分は、集配の能率が上がる分だけ安くなるかもしれないが一応変わらないとしよう。総体的に経費は増える。一方で、過疎地の翌日配達が確実になるなど、サービスは飛躍的に向上する。」
さて、このような場合、どのような思考で判断するか?

普通ならば、プラス要素とマイナス要素を比較検討して差引きプラスならば営業所の新規設置の決断を下す、というような答えになるのではないだろうか。

しかし、小倉さんはこの考え方ははたして正解だろうかと疑問を投げかけるのだ。

「宅急便を始めた以上、荷物の密度がある線以上になれば黒字になり、ある線以下ならば赤字になる。したがって荷物の密度をできるだけ早く“濃く”するのは至上命令である。そのためにはサービスを向上して差別化を図らなければならない。コストが上がるから止める、というのはこの場合、考え方としておかしい。サービスとコストはトレードオフだが、両方の条件を比較検討して選択するという問題ではない。どちらを優先するかの判断の問題なのである。」

この例は、すべての業態においてあてはまるわけでは当然ない。重要なのは、個人向け宅配サービスという業態においては、荷物の密度、つまり配送ネットワーク内に流れる荷物量を最大化させることを何よりも優先させなければならず、そのためにはサービスを向上させる、ということをまず第一に据えなければならない。その背景と優先順位にのっとって、決断を下す、という、その一連の思考プロセスの一貫性なのだ。

業態が違えば「第一」とするもの「第二」とするものは変わるだろう。しかし、一番やってはならないことは、「第一」がころころと変わるような「戦術的レベル」の思考、決断だ。
「毎年、期の始めになると、売上高の目標は対前年10%と示され、絶対に目標を達成せよと厳命が下される。半期が終わり、売り上げはそこそこ目標に近づいたが、営業利益が目標より低いと、売り上げは多少足りなくなってもいいから、利益率の低い仕事はやめ、利益の目標は達成せよと指令が下りる。安全月間になるともちろん“安全第一”の号令が下る。製品クレームが来ると、品質第一で頑張れと命令が下る。(略) だが、“第二”がなく、“第一”ばかりあるということは、本当の第一がない、ということを表していないだろうか」

うーむ。経営に携わるものとしてはかなり身につまされる思いだ。
形こそ違えど、ボクがやってることなど、まさにここでダメな例としてあげられる社長像そのままではないか… このような戦術的思考に陥ってしまうというのは、そもそも「戦略」がないからだろう。いや、あると思っている「戦略」が「戦略」ではないということだろう。要は戦略レベルまで自社の「業態」がどういうものなのか、それにふさわしいハードウェア、ソフトウェア、ヒューマンウェアが何なのかとことを考えきれていないということなのだろう。

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