言葉の力


佐藤優の本は去年から読み続けてて、だいたい主要なものは読んでいる。彼の本を読むと、外交というものがどういうものなのかということが、本当に具体的によくわかる。今まで「外交」という言葉で漠然とイメージしていたことが、鮮やかな彩りを与えられる。
国家の自縛」の中に、とてもわかりやすく「外交」を伝える一文があったので抜粋しておく。

外交の力は言葉の力なんです。伝えたいメッセージは同じでも、「お前、嘘つくな」と言えばみんな怒る。「お互い、正直にやろうぜ」とやれば誰も怒らない。言葉は発言だけにとどまらない。文化行事もメッセージを持つ外交の言葉なんです。

国家がどのようにして、どのようなメッセージを発するのか、そのメッセージの裏側の意味は、それにどのような歴史的・地理的認識を持って応対していくのか、すべての「外交」はメッセージであり、レトリックといっても過言ではない。

「外交」ではないが、政治の世界にもレトリックの力学というのは大きな意味を持つ。
2010年NTT解体」という本の中で、NTTが報道発表した「次世代ネットワーク構築のロードマップの資料」について言及されている件がある。
その資料の当初の案では、次世代ネットワークの構築にNTTドコモが参加する、というくだりは、「移動系との一体化を実現」という表現が使われていたが、発表された資料では「移動系とのシームレス化を実現」する予定と、すげ替えられたそうだ。
「一体化」という言葉からは、バックボーンのネットワークを固定系と移動系で一つにするように見える。NTTドコモとしてはNTTが描くFMCの構想の上に、自社が位置付けられてしまうことからは距離を置き、チャンスあらば、FMS(fixed mobile substitution)のコンセプトもちらつかせて行きたい。そのためには「一体化」という言葉ではなく、曖昧、漠然とした「シームレス」という言葉を使わせたかったということだ。
この些細なメッセージの差異で、何百億というビジネスが動いているのだから面白いなと思う。「一体化」を「シームレス」という言葉に変えさせるために、相当な駆け引きがあったのだろうし、どこまで譲歩すべきか、その譲歩によってどんなメリット、デメリットが引き出せるのかという、いくつもの「読み」があったことだろう。

そういえば、佐藤優は「インテリジェンス」の大半は発表されている資料をつぶさにあたることで把握できるというようなことを言っている。
NTT、NHK、放送法絡みの政府発表や、それを受けた各新聞紙面での語り口などを分析すると、そこには必ず何かしらの意図が見えてくるだろう。たぶん、ただ日経を読んで、その上辺の情報を租借するよりも、ずっと深い情報をえぐり出すことができるだろう。

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