勝つブランド負けるブランド―How to build a strong brand
京都へ戻る新幹線に乗る前に、本屋に寄って購入した。
表紙からは「フォレスト出版/神田さん系」の本を想像していたのだけれど、内容は良くも悪くもまったく違うものだった。
ヴィトンが売れる理由を、ヴィトンに飛びつく人達の育った社会環境、背景から「松任谷由美」ファンの多くがヴィトンに寝返ったというような考え方を披露したり(結論としてはヴィトンは女性にとって「お守り」として機能しているというようなことを言ってるのだけれど)、雪印事件の問題を、インパール作戦の失敗を下敷きに日本文化に特有の「空気」(「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」参考)から論じられたりと、ブランド論というよりは「ブランド」というテーマからの社会分析アプローチと考えたほうが良いのかもしれない。
個人的には、全体のロジックよりも、そのロジックを導き出されるために使われる「おかず」の方が面白かった。
ということで、そういった瑣末な「部分」をメモがてら採りあげることにする。
製品ライフサイクル論が通用しない!?
デジタル分野では成熟期には次世代の規格が登場し利益が回収できなくなる(P.25)
日本語とマンガ脳
漢字は絵に相当し、ルビは吹き出しのセリフに当たる。日本語はマンガだったわけである(P.31)
この話は昔どこかで「ラジオ型言語」と「テレビ型言語」というような分け方で読んだものと同じことかもしれない。英語は「ラジオ型言語」だ。つまり音と言葉が1:1の関係であり、基本的には同音同義語は存在しない。そのため「聞く」だけで意味をつかむことができる。一方、日本語は「テレビ型言語」の典型だと。日本語には同音異義語が多く、1つ1つの言葉の意味はコンテクストによって決定づけられるし、また表記を伴って区別化される。(「橋」「端」「箸」など) つまり、意味は「音声」と「映像」(象形)を伴い理解される。
こういった言語的特長から日本人は「マンガ脳」──すなわち、「ビジュアルに鋭く反応する能力」──を鍛えている。そして商品におけるビジュアルとはデザインのことであり、デザインのキーとなる記号がロゴ・マークやアイコンであることから、企業コンセプトや商品コンセプトをロゴマークやアイコンに語らせるべき、という結論を持ってくる。これも飛躍しすぎの感もある。
ブランド・エクイティ
『ブランド・エクイティ戦略』などの著者D・A・アーカー氏によるブランド資産の構成要素は、以下となる。
ブランドは知覚の問題である。人々がブランドを使用してその経験を積み重ねる中で、どのように知覚してより良いイメージの総体としての記憶を結んでいくか、これによってブランドの強弱が決まってくる。よって、人々がどのような生活環境で生活しているかが重要であり、その社会、時代とコミュニケートしていかない限り強いブランドに育てていくことはできない。(P.233)
対人恐怖症
ここ近年、女性の対人恐怖症が増えているという。対人恐怖症という神経症は日本独特のものだ。「対人恐怖症の中でも視線恐怖症が、特に日本に特徴的だとする病理学者もいる」(P.67)
岸田秀だったか誰かが日本人の視線恐怖症を分析していた。
手元にないので、これまたうろ覚えだけれども、アメリカ人は「対神恐怖症」であり、日本人は「対人恐怖症」だ、というような対比で精神心理学的なアプローチから民族性を捉えるというようなものだったと思う。
日本には唯一絶対の「神」が存在せず、日本人が忌避するのは周りの人の視線だと。そこから視線恐怖症が生まれる。「出る杭は打たれる」みたいな文化が根付くのもそのせい、みたいなことが書かれていた。
女性の対人恐怖症が増えたというのは、女性の社会進出と関係している。それまでの「女性観」は「控え目でおとなしいことが美徳」(P.70)だった。ところが、現代の女性は「自己主張」が重要なものとなっている。
女性特有の相手への迎合性や従順さや優しさが一方にありながら、一方で自己主張の気持ちが培われてきたという社会的な環境のために、その両方のはざまに立って身動きのとれない状態になっているようである(P.70)
ナイキとスターバックスのブランディングを担当したスコット・ベドリは、人間の最も上位にある情緒的ニーズの中で重要なのは帰属のニーズだと指摘し、「あるモノを所有することによって、同じようにそのモノを所有するほかの人々と家族のような深いつながりを感じることができる」ようなブランドこそ大成功をおさめることができる、と述べている(P.73)
ヴィトンのモノグラム柄は?
慶応三年(1867)に第二回万国博覧会がパリで開催され、徳川幕府と薩摩藩、鍋島藩が参加している。ヴィトンの関係者がパリ博を見物に行き、日本の家紋を見たことからモノグラム柄がデザインされたと言われている。(P.71)
日本人のフェティシズム
山本七平の「空気の研究」から日本人とユダヤ人の人骨に対する接し方の例。
イスラエルで移籍の発掘をしていた際に、日本人とユダヤ人が共同で人骨を運ぶことになったと言う。
作業が一週間ほど続いた頃、ユダヤ人にはなんの変化も表れなかったが、日本人は病人同様になった。しかし、作業が終わると日本人は以前と変わらない元気さを取り戻した。ここから山本氏は、日本人は人骨によってなんらかの心理的影響を受けたとして、それは物質の背後になにかが臨在していると感じたからだとする。(P.83)
Honda Brand Concept
ホンダが社員全員に配布している「Honda Brand Concept」なるパスポート大の冊子がP.160~164に紹介されている。これがうちの会社でつくってるものと凄く似ててびっくりした。この冊子を参考にしたわけではないけれども、うちの会社でもこれに近いものをカードとして社員全員に配布している。
コミュニケーションとは
コミュニケーションには二つの伝達機能がある。情報の伝達と情緒の伝達であり、伝達する相手によって二つの機能に濃淡差が生じる。親しい相手になるにつれ情緒の伝達が濃くなり、疎遠な第三者になるにつれ情報の伝達が濃くなる。(P.232)
果たしてそうだろうか? 相手との関係性がコミュニケーションのニ側面の比重に影響する? 親しかろうが「情報の伝達」が濃いコミュニケーションだって多々ある。しかし、最近のコミュニケーションツールの利用は情報の伝達よりも、情緒の伝達が重視されているだろう。
著者は携帯電話や携帯メールは情報の伝達ではなく、情緒の伝達だと言う。
そういえば、最近の中高生たちは、わざと「ワン切り」して、自分が今、電話に出られる状態であることを相手に伝える、とうようなことをどこかで読んだ。社会的に個人がどんどん孤立化していくなかで、何かに繋がっていたいという「帰属のニーズ」の発露みたいなものか。
こんにちは、以前こちらで紹介されていた「会社にお金が残らない本当の理由」を読んだのですがまだまだ自分はそれ以前の段階でしたので、コメントは控えさせて頂きました。
今回のこの本も非常に興味を惹かれる本ですね、近々読んでみようと思います。
>masaさん
どもですー。
実はボクは東京では杉並区に住んでますー。
「勝つブランド負けるブランド」は、ブランド本というより社会学のまがい物のような感じです(笑
でも、それはそれで楽しめます。
Posted by: ゆで麺 : 2004年01月31日 00:29