地味な男の人生を描いた傑作「ストーナー」

元社員のFacebook投稿で知って読んでみた小説。素晴らしい小説で、読んで本当に良かった。ストーリーやドラマの力ではなく、文学の力というか文章の素晴らしさで牽引される小説を読んだ気がする。

ストーナーという一人のどちらかというとうだつの上がらない教師の、何でもない人生を淡々と綴った小説だが、ここに描かれた感情や出来事は、読む人の多くが自身の何らかの体験にも重ねることが出来るのではないかと思う。大学入学から学問への目覚め、両親との決別、生涯の友との出会い、戦争、衝撃的な恋と結婚。妻との不和、職場での同僚との確執、本当の愛、子供の成長と別れ、そして病気。こうして出来事の系列を眺めても、そこにドラマティックと言えるものはないだろうし、カタチや環境は違えど、普通に生きて生活していけば、「そういうこと」に行き当たることは誰もがあるものだ。

ストーナーは、これらに決してうまく立ち回れたとも言えないかもしれない。どちらかというと、「解決」ではなく、ある種の「妥協」でそれを受け入れたり、あるいは、忍耐力によってただただ時間が経過していき、それによって何かが変化したり、あるいはその問題自体の人生において占める位置が変わったりしただけであったり。そうやってストーナーの人生は進んでいく。でも、読んでて、そうだよなぁと何度も共感できたのは、自分の身の周りの色んなことも大部分はそういうものなんじゃないかなと思えたということもあるかもしれない。

ストーナーの生き方は、読む人の人生の「処方箋」にはなりえないかもしれない。でも、「そういうものだ」というある種の肯定的な諦めや「それでも人生は悪くないんじゃないか」という期待みたいなものを抱かせてくれるものではないかと思う。

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