「ホワイトスペース戦略 ビジネスモデルの<空白>をねらえ」の読書メモ

4484111047 「ホワイトスペース戦略 ビジネスモデルの<空白>をねらえ」 ─タイトルからは、「ブルーオーシャン戦略」(「ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する-papativa.jp」)と同じような内容を想像した。確かに根本的な考え方は
近いのだろうけれど、新事業への進出や新しいビジネスモデルの構築ということで考えると、ボクは本書で提示された考え方や手法の方が、より現実性が高いように思えた。

「ブルーオーシャン戦略」でも、既存事業とのバッティングに対して、どのように組織を変えていくかという一種のマネジメント論みたいなものは展開はされていたが、本書では、より具体的に、既存の事業とは異なるビジネスモデル、バッティングするモデルを、どのように組織に適合させていくべきか(あるいは分離しておくべきか)というようなところも示されている。事例の大部分は、大企業のものなので、そのまま参考にできるかどうかはわからないが、考え方や提示されているフレームワークは、自分たちの事業の整理や確認にも応用できるものではないかと思う。
以下は、本書の要約・メモ。

ホワイトスペースとは、「その企業の既存のビジネスモデルが活動の対象としていない領域」「コアスペースと隣接スペースの外にあり、新しいビジネスモデルを確立しないと生かせない領域」という意味で用いられる。企業は、既存のビジネスモデルの場所から、常に新しいホワイトスペース領域にチャレンジしていかなければならない。それは、既存のビジネスモデルの領域が急激なスピードで時代遅れになっていってしまう可能性があるからだ。この時代、既存事業領域にしがみつき、その領域だけの最適化を黙々とやっているほうが、ホワイトスペースという未知の領域にチャレンジするよりも、よほどリスクが高いことだと、著者は説く。


さて、ホワイトスペースの開拓、進出、新しいビジネスモデルを検討する上で、重要な要素として本書では以下の四つを挙げている。ホワイトスペースの事業モデルだけでなく、既存の事業についても、まずこの四つの要素から整理をしておかなければならない。その上で、ホワイトスペースの事業モデルとの比較・検討を行うべきだ。

顧客価値提案、利益方程式、主要経営資源、主要業務だ。

1.顧客価値提案

一定の金銭的対価と引き換えに、顧客がそれまでより有効に、あるいは確実に、便利に、安価に、重要な懸案を解決したり、課題を成し遂げたりするのを助ける商品やサービスの提供。

顧客価値提案はビジネスモデルのもっとも中核的な要素だ。自社にとってのホワイトスペースを見つけだそうとする際にも、まず問わなければならないのはここだ。著者は、顧客価値提案の根本を、「顧客の未解決のジョブ」とする。企業はまず顧客に「どのような課題をよりしたいとお考えですか」と問わなければならないと説く。
より具体的な質問としてブレイクダウンすると、顧客価値提案は「商品・サービス」「アクセス」「支払いスキーム」の3つで構成される。
それぞれの3つの要素について、著者はいくつかの代表的な質問を挙げている。
「商品・サービス」という領域ならば、「その商品・サービスは私のジョブを解決してくれるのか」「その商品・サービスは料金に見合うのか?」「その商品・サービスの最も重要な要素は、私にとって合格レベルに達しているか?」というような問いを考える。
「アクセス」では、「どうやってその商品・サービスを入手すればいいのか?」「誰からその商品・サービスを購入すればいいのか?」「どのくらいの頻度でその商品・サービスを購入する必要があるのか?」
「支払いスキーム」は、「何を基準に支払うのか? 数量単位なのか? 利用回数単位なのか? 生まれた価値の大きさに対してなのか?」「いつ支払うのか? 前払いなのか? 会費形式なのか?」「どういう方式で支払うのか? 現金で支払うのか? クレジットカードで支払うのか? ローンを組むのか? 物々交換なのか?」

2.利益方程式

企業がどのように自社と株主のために価値を創りだすかという青写真。収益モデル、コスト構造、商品やサービス一単位あたりの目標利益率、経営資源の回転率の四つの変数で構成される。

収益モデルとして検討すべきは、以下の3点だ。
 1.どれだけの数の顧客を獲得できそうか
 2.一つの顧客が一回の取引で購入する商品やサービスは、どれだけの数量になりそうか。
 3.一つの顧客に、何回の取引ができそうか。

コスト構造は、直接費と間接費の二つの要素で構成される。よくやる企業の間違いは、既存事業での間接費の状況が先にあり、その間接費からビジネスモデルを考えてしまうという失敗だ。著者は、まず、顧客価値提案に足して間接費を決定していくべきと指摘している。新しいビジネスモデルにおいて利益方程式を検討する場合、厳密さを求めることはできない。そこは未知の領域であり、仮説に頼るしかないところだからだ。厳密さよりも、緩やかな仮説に基づいて少しづつ精度を高めていくような方法をとる必要がある。
新しいビジネスモデルが、既存事業の利益構造やコスト構造と抜本的に違うと、それだけでそのモデルの検討がなされなくなってしまう可能性もある。商品やサービス一単位あたりの利益率が既存事業より低い新規事業はそれだけで社内の理解を得にくい。しかし、既存事業の利益方程式が、あっという間に時代遅れになってしまう可能性もある。今まではそのやり方、その方法で問題なかったものが、競合の状況、市場環境の変化、破滅的テクノロジーやブレークスルーの登場により、まったく効かなくなってしまうこともある。既存の方程式からのみ、新しいビジネスモデルの評価をしていては、いつまでたってもホワイトスペースに挑戦できないということも往々にしてあるだろう。

3.主要経営資源

顧客価値提案を実現するために必要な人材、テクノロジー、商品、施設・設備、納入業者、流通経路、資金、ブランド

4.業務プロセス

持続可能、再現可能、拡張可能、管理可能な形で顧客価値提案を実現するための手段。


主要経営資源と業務プロセスはニコイチだ。そして、顧客価値提案と利益方程式とも密接に関係している。
企業の様々な活動の中で、顧客価値提案と利益方程式を実現するうえで重要なプロセスにおいて、この2つの要素をしっかり検討しなければならない。ビジネスモデルの導入段階にあたっては、これらの要素を既存事業と比較し、共通点と相違点を把握しておく必要がある。共通部分については、コアスペースから流用、共有できるかもしれないし、どういう部分でコアスペースの事業とバッティングするのかということもわかる。

●ビジネスモデルの導入
本書では、ホワイトスペースへの進出を、「育成期」「加速期」「移行期」という三期にわけてそれぞれ考え方を提示している。
育成期では、ビジネスモデルを確立することよりも、まず、早期に上記であげたビジネスモデルの四つの視点をより具体的に検討することを目標とする。仮説を立てて、まずはリスクの低い限られた範囲や顧客などから実験してみる。
ヒンドゥスタン・ユニリーバは十数人の女性を対象にした試験的な取り組みから始め、工事現場で利用する工具をリースするというビジネスモデルを生み出したヒルティ社も、既存客の八社に限定してそのビジネスモデルをスタートさせた。
この段階では、顧客価値提案にしても、利益方程式にしても、あくまでも仮説の段階にすぎない。予想とは違ってうまくいかないことも多々でてくる。この時期は仮説の検証を重ね、何度も成功と失敗を繰り返しながら、知識を付け、新しビジネスモデルのコアを見付け出していくための時期として捉えなければいけない。

例えば、アマゾン。アマゾンはオンラインの本屋から次のホワイトスペース(取り扱い商品を増やし、オンラインの総合ショップになる)への進出を掲げ、1999年、eベイをヒントに、自社のサイト上に外部の業者がオンラインオークションをおこなう場を作る。しかし、これは失敗に終わる。この失敗をヒントに、アマゾンは次に「Zショップ」を立ち上げる。これはオークションではなく、固定価格で商品を販売するサービスで、サードパーティがアマゾン上で商品を自由に陳列できるサービスだった。しかし、これもうまくはいかなかった。「Zショップ」では、サードパーティが陳列する商品と、アマゾン自身が売り手となって陳列する商品が、たとえ同じでも別々のものとして扱われていたからだ。これらの失敗を踏まえて、ついにアマゾンは、現在にも続く、新品と旧品を同じ商品ページ上で紹介する形を導入する。

育成期での仮説・検証の段階を超えて、新しいビジネスモデルの実現性が確認できれば、次は「加速期」に入る。足がかりとなる限定された顧客や地域、サービスモデルから、より広い市場への展開を図っていく。
この段階でもっとも重要なことは、ビジネスで利益をあげていくための再現性のあるプロセスを確立することだ。業務プロセスの洗練化、標準化、ビジネスルールの確立、成功の評価基準の確立などを行わなければならない。

ビジネスモデルの導入の最終段階は「移行期」だ。
この段階での最も大きいテーマは、「新しいビジネスは、コアスペースの事業に統合できるのか、それとも独立を保つべきなのか」という問いの答えを見出すことだ。
どういう体制で新しいビジネスモデルを実践するかについて、新しいビジネスモデルを既存事業と分離しておいたほうがいい場合と、統合したほうがいい場合を、著者は以下のようなケースで説明している。

●既存事業と分離しておいたほうがいい

・既存事業と大幅に異なるビジネスルール、評価基準、行動規範が求められる場合
・顧客価値提案を実現するために、既存事業と明確に区別されたブランドが必要な場合
・既存事業に破滅的な影響を及ぼす(要するに、既存事業よりきわめて低い利益率でビジネスが成り立つ)ことが予想され、しかも、既存事業より固定費をはるかに低くおさえることおよび経営資源の回転率を大幅に高めることの一方または両方が求められる場合

●既存事業と統合できるケース

・既存事業との差別化が主に経営資源と業務プロセスの面でおこなわれ、利益方程式が既存事業とおおむね同じ場合、もしくは既存事業より商品やさビス一単位あたりの利益率が高い場合
・既存事業のブランドに対する評価を大幅に高められる場合
・既存事業を改善できる場合


本書内で紹介されている事例が面白いと思ったのは、すでに確立した「既存事業」があり、そこからホワイトスペースのビジネスモデルに進出、成功した企業の例が多かったことだ。建設現場の作業員が使う小型の電動工具を販売していたヒルティ社。すでに電動工具はコモディティ化が進んでいて、商品の改良などではシェアを維持していくことも、成長も難しいという状況であった。ヒルティはこの分野では高級ブランドではあったが、すでに高級感というものでの差別化が難しくなっていたのだ。
そこで、顧客に目を向けて分析を行ったヒルティ社は、工具がコモディティ化したことにより、現場作業員が工具を雑に扱い、工具が雨ざらしにされたり、十分に手入れされていなかったりすることを掴んだ。建設会社の仕事は、家を建てることだが、こういった状況の中で、工具の管理やメンテナンスなどにも時間がかかるようにもなっていた。
これが、ヒルティ社にとっての「顧客の未解決のジョブ」だ。これを解決するために、ヒルティ社が考えた「顧客価値提案」は、建設現場で必要な工具一式をリースし、顧客が一つ一つの工具をバラバラに購入して自力でメンテナンス、管理を行うのではなく、月々のリース料を払えば、あらゆる工具が手軽に簡単に利用できる、というものだった。
一見、このビジネスモデルは、既存のビジネスの延長にあるように思える。しかし実態は全く違う。リースビジネスになれば、売上に関する考え方の根本も異なる、バランスシートでの在庫の扱いも変わる、顧客との取引の回数は大幅に減るが、一回の取引規模が大きくなる。利益率は高まるが、間接費や管理費も膨らむ。
それまでのヒルティ社のビジネスモデルとは、まったく異なる利益方程式が必要であり、利益方程式が違えば、当然、「主要経営資源」「業務プロセス」も異なる、つまりこのビジネスは、ヒルティ社にとっては、完全な「ホワイトスペース」領域の進出だったのだ。言葉にしてみれば、成功した後で振り返ってみれば、いかにもそのモデルは当たり前のようにも思えるし、簡単に新しいモデルで成功を勝ち得たようにも思えるけれども、実際はそう簡単ではなかったはずだ。本書ではこのあたりの苦悩や難しさも垣間見られて面白い。このあたりは大企業でもあまり変わらないのだなと思った。

ビジネスモデルには協力な引力みたいなものが働く。そのビジネスモデルが成功していればいるほど、長期にわたって、利益を産み出していればいるほど、そのモデルでの価値観が組織全体に染み渡り、それがルールとなり、文化となり、価値観を形成する。こうなると、なかなか新しいビジネスモデルを組織に持ち込むことが難しい。しかし、あらゆるビジネスが急速にコモディティ化したり、あるいは予想もしないところから、今のモデルの根本を無効化してしまうようなテクノロジーが登場する時代において、既存事業の引力は時として非常に危うい事態を招く可能性がある。現代のビジネス環境いおいて、企業が最も重視しなければいけない組織能力というのは、変わることや新しい領域にチャレンジすることを恐れないこと、失敗を失敗のままにせずに、次のチャレンジへと活かすこと、これらを繰り返し行っていけるような能力ではないだろうか。

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コメント

  1. 読後評:ホワイトスペース戦略 読んでいるうちにわかったが、実はこれは大企業 リーダー向け本....

    先日アップした「明日のコミュニケーション」を読んだあと「ソーシャルメディア進化論」を読みはじめたのだが.... 前の「明日コミ」があまりに内容が濃いわりにさらっと読めすぎたため、こちらがえらく古臭い文章のようなイメージがついてしまい、困ってしまった。 このた......

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