印象に残ってる投資(=賭け)

投資

photo credit: SalFalko via photopin cc

成功してから見たら、当たり前のように見える投資も、投資した瞬間、その当時の背景からみたら、よくその時期に、そのタイミングにそんな投資を決断できたなと思うものがたくさんある。というか、本当にリターンの大きい投資ってのは多分そういうもので、誰もがそれは成功するだろうと思うようなものでは大きいリターンなんて期待できない。ある意味、投資は賭けみたいなものだ。

もちろんギャンプルじゃないから、一か八かの直感では困るわけで、そこには成功する算段や思惑が必ずないと駄目だろう。けど、いくら理論に理論を積み重ね、色んな計算をしたところで、成功が100%保証される投資などがあるわけもない。

99%勝算がなければ投資はしてはいけないとか、投資前には考えて考えて考え抜いてほぼ成功を確信したからやるとか、投資は賭けじゃないというそれっぽい箴言はいくらでもあるんだろうけど、でもそれでもやっぱりやってみないとわからないことは多い。

賭け事と違うのは、賭け事なら負けて当たり前だけど、投資は基本は勝たなければならない。だから、負けると色々と批判を浴びる。なんでそんなことに投資したんだと。最近だと、シャープやパナソニックが数年前に国内に液晶やプラズマの大規模な生産工場を作ったけど、ああいう投資も、今となってはえらい批判の対象だ。グローバル化や円高が進む中で国内生産にこだわるのは愚の骨頂だったとか、エコポイント特需が永遠に続くとでも思ったのか、とか。後になって振り返ったら、失敗した理由は明らかだし、ロジックもすっきりする。でも、その決断の時点では誰も正確に未来なんてわからない。

僕がここ数年で記憶してるもので凄い投資だなーと記憶に残ってるものをいくつかピックアップしてみる。もちろん、こんなレベルじゃない凄まじい額の投資は、世界にはいくらでもあるだろう。資源とかエネルギー開発なんかへの投資は、比較にならない額や人や時間が動いてるだろう。なので、あくまでもここで取り上げてるのは、僕自身が、興味の及ぶ範囲で印象に残ってるものに過ぎない。ただ、ここにあげた投資は、多分、その投資が決定された当時は、多くの人がその決断に対して疑問の目を向けていたものばかりだと思う。



◆Amazon、配送センターへの莫大な投資

AmazonのCEO、ベゾスの凄さは、上場して得た莫大な資金を、リアルの物流センターの構築に投資したことだと思う。

Amazonの創業は1994年。1997年に赤字のままナスダックに上場。黒字転換したのは2003年のことだ。つまり、上場して約6年、Amazonは赤字を続けていた。2003年までの累積赤字はなんと1兆円だ。

上場して集めた莫大な資金を糧に、Amazonは、1999年~2000年に全米に6つもの大規模な配送センターを設立している。配送センターは一箇所あたり5000万ドルというとてつもない規模の投資を伴った。
Amazonはほんとに赤字化するのか? 大丈夫かと囁かれるような赤字を垂れ流してる最中でのこの投資決断をし、強い意思を持ってやり続けたというのは、いま、振り返ってき見ても鬼気迫るというか、すごい賭けだったと思う。

当時、この配送センターへの大規模な投資は、多くの人からかなりの批判を浴びていたと記憶している。僕自身も、この計画をすごく不思議に思ったのをよく覚えてる。

バーチャル店舗の良さは、在庫を持たずに、商品数をどこまでも増やしていけることだ、というのが、当時のネットビジネス、ECビジネスの基本的な考え方だった。

圧倒的な集客力、顧客数を確保・維持できれば、各メーカーへの交渉力は維持できるので、自ら在庫を持たなくても、販売取次だけでビジネスは成立する。だから、多くのドットコム企業は、その「圧倒的な集客力・顧客数」を達成するために、とんでもない広告費をメディアに投入したり、覚えやすい直感的なドメインに何億円というような馬鹿げた費用を払ったりしていた。ナンバーワンになったところだけがすべてを得る。Amazonもとてつもない赤字を垂れ流し続けながら、ブランド構築には相当なお金をつぎ込んでいた。

そういう考えが支配的だった中で、あえて大規模な自前の倉庫を作り、物流センターを整備する、という決定は、なんでわざわざ?というような感じで受け止められていたのだ。まだ赤字を増やし続けるんかい、なんで、ネット企業が倉庫や物流拠点を作る必要があるのだ、、、 皆、よくわかってなかったのだ。

今になって振り返ってみれば、オンライン販売にとって、商品の配送スピードや品質がものすごく大事だということはよく分かるのだが、その当時、こういう未来の状況を見通せていた人というのは、実際は多分そんなにいなかったと思う。

しかし、ベゾスは、的確にそれを見抜いていた。ベゾスは、配送サービスが、顧客体験価値の向上をもたらすことや、配送が早くなればなるほど、近くのリアル店舗などとの競争にも優位になれるということをほぼ完璧に見抜いていたのだろう。

実際、この時期でのこの領域への大規模な投資によって、その後のAmazonは、オンラインショッピングサイトとしてかなり大きなアドバンテージを得たことは間違いない。

Amazonが日本市場に参入したときも、最初はそれほどでもなかったけれど、いつの間にかAmazonに頼めば、翌日には届く、朝頼めば夕方に届くことさえある、と、Amazonの配送スピード配送スピードが早くなるにつれ、自分自身の意識も、下手に本屋に行くよりも、Amazonに注文したほうが早いと考えることが多くなった。



◆アップルストアの設立

同じく、計画では誰もが耳を疑い、馬鹿げた戦略だと批判した代表として、アップル社の直営店アップルストアの展開があるだろう。

ウォルター・アイザック「スティーブ・ジョブズ II 」の中でも、アップルストア開店の計画についての話が載っていて、多くのスタッフが反対した中、ジョブズが強引に計画を進めていく様が面白く描かれてる。

当時の状況も、ある意味、Amazonと似ている。DELLの直販・ダイレクトモデルの成功により、誰もがオンラインのダイレクトチャンネルこそが、今後のもっとも重要なチャンネルだと思っていた。そんな風向き下での直営店舗だ。
これもよく覚えている。僕自身、アップルというのはほんと馬鹿げたことにチャレンジする会社だなという感想を覚えたものだ。

直営店を展開するために、わざわざ既存の小売店での販売状況を厳しくしたり、締め付けをしたりということまで行う手の入れようで、常識的に考えて、こんな馬鹿げた戦略は普通の経営者なら取らないだろう。

ジョブスがどこまでアップルストアの成功を確信していたのかはわからないが、アップル製品、アップルブランドを正しく伝える場、自分たちの製品を自分たちでコントロールしてプレゼンテーションできる場所が必要だという認識は強くあったのだろう。それだけで、常識的に見ても馬鹿げたぐらいの投資で、直営店を作ってしまうというのも、ジョブズのようなワンマン&強力なトップダウン経営者がいたからこそだろう。普通の経営者ならそこまで考えても、アップルがこだわって投資したレベルまでのお金を直営店につぎ込めないだろう。アップルでさえも、ジョブズが強引に進めなければ周囲の反対でプロジェクトはストップしていたようなレベルなのだから。

しかし、周囲の予想は完全に裏切られ、アップルストアは、小売店舗としては世界最高の収益力を誇り、また、アップルストアの展開により、アップルは、自社製品のブランドコントロールをより強固なものに出来るようになった。でも、アップルストアが実際に完成する前に、アップルのこの成功を信じてた人は、多分、ほとんどいなかったんじゃないかなと思う。



◆累積損失60億からの事業化「アメーバ事業」

サイバーエージェント社(CA)のアメーバへの投資も凄い。今でこそ、アメーバはCAの稼ぎ頭だが、アメーバを始めた当時は、それこそたかだかブログにそれだけの投資をして大丈夫なのか、と批判的な人も多かったのではないだろうか。

アメーバ事業は2004年に始まった。最初の5年は赤字続き、累積損失は60億にまで達している。

そもそも、CAは、mixiに7000万円弱の投資をして、約100億のリターンを得てるのだが、この稼ぎが、初期のアメーバ事業の投資資金になっている。時々、自分が経営者で、仮に100億あるとして、それをアメーバ事業のような事業に投資するような一種の大賭けをはれただろうかと想像してみることがある。結論はいつも同じだ。絶対にできなかったろうなと。出来たとしても、3年目ぐらい赤字が続いた時点で、かなり弱気になってしまいそうな気がする。自分の決断の正しさや、ここに必ず勝機があるのだという揺るぎない確信を持ち続けるのは、多分無理なんじゃないかと。

今でこそ、アメーバピグやら、なんやらとアメーバ事業部の収益基盤は、多様化し、メディア事業としては、かなり手堅いものになりつつあるけれども、当時は、たかだか「ブログ」だ。
「ブログ」のプラットホーム事業でいけば、Nifty社のココログにせよ、livedoorブログにせよ、はてなダイアリーにせよ、先行する会社やサービスはいっぱいあったし、そら、うまくやればそこそこのビジネスにはなるんだろうけど、ブログプラットホームが、メディアとして大化けするなんてのは、大部分の人が懐疑的だったのではないか。

色々批判もあるけれど、芸能人が使うブログとしてのポジションを確立し、また若年層からF1層の、リテラシーの高くない一般ユーザーを惹きつけた、というのは、やっぱり凄いことだと思う。誰もが考えそうなことだけど、考えることと、それを実行できることは、全然次元の違う話だ。
芸能人を担ぐというのは、ココログもlivedoorもやってたことではあったけど、結局、徹底してそれを突き詰めていって、商品に仕上げたのはCAだけだったわけだ。

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