制作会社の1人当り固定費の調査

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photo credit: jjay69 via photopin cc

PC系のWEB構築を主体にしている会社で上場しているところってIMJぐらいだったと思うけど、ネットイヤーが上場したので、いろいろデータが公開されるようになって興味深い。IMJぐらいの規模になると巨大になりすぎて、あまり参考にはならないのだが、ネットイヤーなら、まだまだ参考にできるところが多い。(メンバーズは広告のほうが大きい)

まず、ネットイヤーの2008年3月期IR資料から。

連結売上が約33億、原価が25.3億、販管費が約4.8億、営業利益が3.51億。
売上や原価率、営業利益みたいな数字は見ればすぐにわかるので、この資料から直接的にはわからない数字を読み取ってみる。
(それにしてもこの数字はほんと素晴らしい。1人当り163万円/月の売上。期中平均人数ならもう少し高かったのだろうが、しかしこのパーヘッドってのはけっこうな水準だと思う。)

社員数は派遣社員、アルバイト含まずで(連結)で168名。
(※数字は期中平均などではないので、以下で展開する計算もそのへんが加味されていない。)
SIPS事業部 130名/クラフト20名/ムーブ3名/経営企画6名/経営管理9名
という構成。
販管費が4.78億となっている。

制作会社によってはスタッフの人件費を労務費として原価に計上していないところもあるかもしれない。純粋な外注費や仕入れのみを原価として計上し、スタッフの人件費などはすべて販売管理費の人件費につけるというケースもあるんじゃないかと思う。

例えば、KAYACCUPPYは、非上場ながら簡単なP/L、B/Sを公開している。
KAYACの第3期は売上:約5億に対して原価:1.2億(24%)、販売管理費が3.3億という実績になっているが、この原価に労務費が計上されているとすると、ちょっと違和感がある。原価率が低すぎるのだ。
恐らくだが、KAYACやCUPPYは原価に労務費が入ってないんじゃないかという気がするのだが…..

というようなこともあるのだが、ネットイヤーの場合はプロフィット部門のスタッフの人件費は原価に計上されているようだ。(制作会社においてディレクターやデザイナーやSEといった人たちは、やはり「原価」だろう。)

販売管理費を社員数で割ると、1人当りの1ヶ月の販売管理費が出てくる。
ただ、販売管理費内には間接部門(非プロフィット部門)の人件費が含まれてると思うので、それらの人数を除いて、プロフィット部門の人数で頭割りする。

(4.78億÷12ヶ月)÷153名=26万円
ということになる。
プロフィット部門の一人当たりの販売管理費は26万円/月ぐらい。

さて、ネットイヤーの平均人件費はどの程度だろうか?
コンサル系なので若干高めと想定して600~700万円/年と考えて、月50万~60万円ぐらいのラインだろうか。(このへんの予想は大外ししている可能性があるが。)

で考えると、26万円+50~60万円=76万円~86万円。
これが1ヶ月1人当りの固定費ということになる。

1人日単価が50,000円(20日換算で1人月100万円)の場合、フル稼働で14~24%ぐらいの利益が出るという計算だ。ネットイヤーだと1人日平均はもっと高いのだろうけれどわかりやすいので人月100万円と設定する。

この期の営業利益が10.4%なので、この差が稼動の余裕や機会損失、ロスと考えらられるのではないか。Web制作業務で全スタッフがフルの稼動を12ヶ月ということはまず考えられない。常に全体の1~2割の稼動は意識的にせよ、結果的にそうなったにせよ余裕を持たせているはずだ。
ということを考えると、上記のような仮定の数値で営業利益率が最終10.4%だったというのはあまり大きく外れた数値ではないのではないかなと思う。

先に見たKAYACのデータと比較して見る。
粗利:3.8億には労務費が計上されていないので、つまり「限界利益」ではないかという仮定で計算してみる。

労働分配率は55~60%だろう。制作会社のような労働集約型サービスは必然的に高くなる傾向があると思うので60%と設定すると、人件費が2.28億ぐらいになるので、他の固定費は1億ちょいというところ。
12ヶ月で割ると1ヶ月あたり固定費は850万円。

KAYACのこのときの人数はおよそ35名程度(2007年12月にウェブサイトに掲載されていたスタッフ数をカウントしたことがあったのだ。そのときの記録が35名)なので35名で割ると1人当りの販管費は24万円。1人当りの給与人件費は月あたり54万円。
つまり、1人当り固定費は78万円~ぐらい。ほぼネットイヤーと同水準と考えられる。

ちなみに、労働分配率が50%だった場合には、1人当り給与人件費が45万円/月平均ぐらいで1人当り販売管理費が33万円ぐらい。給与水準人件費がどの程度かというところによって見方はわかるが。労働分配率は50~60%の間ぐらいであることは間違いないだろう。
(ネットイヤーさん、KAYACさん、まったく的外れだったらすいません…)

こういう数字を分析してみて、自社の戦略にどう行かせるかというと、ただ参考になるだけに過ぎない。というか、数値の大部分は想定なわけで、どこかの数値が狂っていれば全体の数値も大きく違ってしまうんで、あまり真剣に参考にするのも問題がある。

数値はバランスなので、どこかの数値だけを取り出してどうだこうだと考えるのも良くない。「1人当りの固定費」も例えば、社員を増やすために、まず土台をしっかりつくろうと間接部門を強化したり、事務所を拡張したりして大きくなる可能性はある。先に投資が発生した場合には社員数とのつりあいが取れないので、1人当りの固定費は大きくなるだろう。売上対販管比率もい大きくなってしまうだろう。
でも、それはある適正人数への道程にあるだけだったりするかもしれない。
なのである側面だけでああだこうだと考えてもあまり意味はないのだが、でも自社の特長や強み弱みを探ったりするのには少しは役立つ。

結果的にはネットイヤーもKAYACも1人当りの固定費はほぼ同じぐらいになっていた。なのでそんなに大きく外れた数値でもないんじゃないかなぁという気もする。
1人当りの固定費は、人月単価などを見積もりに使う会社にとっては、平均の人日や人月単価の設定に重要な指標になるので、感覚としてもだいたいのレンジがわかるとすごく参考になるのだ。
(もちろん、人月単価などを見積もりに利用することの問題みたいな話は別途あって、それはそれで色んな問題をはらんでいるなぁとは思うのだが、ここで考えると長くなるのでやめておく)

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コメント

  1. hidetox より:

    すみません、私の勘違いかもしれませんが、給与と人件費という言葉が混在している点で、念のため指摘させていただきます。法定福利費、福利厚生費、通勤費など(いわゆる社会保険料の自己負担分がとくに大きなものになるかと思いますが)を加えた「人件費」は、給与手当+賞与などの支給額から1割以上大きな額になると思います。その点で給与が月いくら、という話と、人件費が月いくら、という話は、分けないといけないかなと。(というよりも、本稿に「給与」という単語が出てきたのが意外でした)

    本コメントは削除いただいても構いませんし、私の勘違いでしたらすみません。

  2. yudemen より:

    ご指摘の通りですねー。ごっちゃにしてますねー。

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