映画監督:渡邊文樹

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Hさんから渡邊文樹(なぜ、Wikipediaは「渡辺」になっているのだろうか?)の名前を聞いたときは、あまりにも久しぶりだったので、ものすごく懐かしかった。渡邊文樹の映画「天皇伝説」の上映会が京都であるということで教えてくれたのだ。まだ渡邊文樹が映画を撮り続けていたことにも驚いた。

知らない人も多いかもしれないけれど、ボクみたいに自主制作映画を撮ったりしていた人間にとっては渡邊文樹は、ある種の憧れと畏敬の念を持って思い出される監督の一人なのだ。自分自身で設立した映画製作プロダクション「マルパソプロダクション」をベースに、「監督、脚本、主演、編集から、宣伝や上映まで」すべて一人で行う。また、プロの俳優を一切使わず、一般人や身内、あるいは監督自身が登場するまさに手作り感たっぷりの真の自主制作映画を撮り続ける男。

というと、おそろしくカッコよさげなのだが、渡邊文樹自身も彼の撮る映画もとてつもなく泥臭いし、洗練さのかけらもない。その過激さゆえに、あるいは配慮なさや、直情的な行動ぶりに各所で様々な問題を引き起こす。
人間的にも色々な意味でクエッションマークがつくような人物だ。

ボクが渡邊文樹の作品を初めて観たのは、もう随分前のことだ。この仕事を始めてからというもの名前すらすっかり忘れていた。
最初に観たのは、「家庭教師」だったと思う。どこで観たのかも忘れてしまったが、かなり強烈なインパクトを受けたことは覚えてる。家庭教師役の主人公は渡邊文樹自身が演じる。教え子には手を上げることも厭わない熱血教師ではあるが、一方で中学生の教え子にまで平気で手を出す嫌らしい中年男。決して映画が巧いわけでもない。役者もドがつくような下手さ。きつい東北訛りは何を言ってるかさえわからない。殆どの登場人物は学芸会よろしく棒読みで精一杯だ。けれど、すべてが素人であるが故に持ち得るパワーというものがそこにはあった。
次に「島国根性」を観て、発禁作となった「ザザンボ」を観ただろうか。「島国根性」も設定は「家庭教師」を引きずるようなものだと思うが、あまり細かいところまでは覚えていない。観たいのだが、もうVHSもオークションぐらいでしか手に入らなさそうだ。
「島国根性」で日本映画監督協会新人賞を受賞して、このあたりで渡邊文樹という名前は一気にメジャーになったような気がする。で、次作の「ザザンボ」は松竹系列での配給予定とついにメジャーデビューの筈だったが、その内容が問題となり公開中止となった。
「ザザンボ」はどこで観たのだろうか。これも覚えていない。知的障害を持つ中学生の自殺への疑問を調べるという内容だ。実際に起きた事件がベースなのだが、登場人物が実名で登場することもあり大騒ぎになった。
Wikipediaにも書かれているが「映画撮影前に渡辺文樹監督が遺族に無断で中学生が土葬された墓を掘り起こし死因を調べようとしていた」など、かなりむちゃくちゃだ。

このあたりまでは年に何度かは名前が上がってきていたと思うが、その後、ボク自身が映画から少し距離を置いたといこともあり、すっかり忘れてしまっていた。今回、Hさんの計らいで久々に「家庭教師」を観られることになった。久々に観た渡邊文樹はやはり面白かった。
映画の中で、渡邊文樹は走り続けていた。オープニングから、愛人らしき女性と日中から一緒に風呂に入っていたが、旦那が帰ってきたのがわかるや、一目散に裸で野原へ駆け出していく。教え子の元に汗まみれになり走る。きつい坂道を自転車で必死に駆け上がる。常に走り続ける。その姿は決して美しくもなく、感動を呼ぶものでもない。むしろ、中年太りしただらしのない肉体や、その汚らしい汗は見苦しいほどでもある。
しかし、その見苦しさこそが渡邊文樹なのだ。その必死さや、汚らしさ、だらしなさ、それらすべてを隠すことなく、さらけ出し、それでも走り続けるその姿。そこにメジャー映画にはない渡邊文樹の渡邊文樹映画の魅力がひそんでいる。

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コメント

  1. Hさん より:

    「家庭教師」
    主人公の母親が、迷いもなく、犬の子を箱に詰めて海に捨てるシーンは、
    十数年前から心に残っていました。
    「お母さん、犬はどこへいくの?」
    「天国へ行くんだよ」
    やはりいいシーンだと思いました。

    あと、訛っているヒロインの女の子が異様にかわいいですね。
    でも一回関係を持ったあと、フェードアウトする家庭教師の渡辺……

    一番笑ったのは、淫行の取り調べで刑事に「絵を描いてみろ」と言われて
    渋々書き始めたところで、子供の頃絵が上手で表彰される
    という挿話がカットバックで入るところでしょうか。

  2. yudemen より:

    犬を捨て去るシーンは最高ですよねぇ。吹き出してしまいましたけど。遠巻きにカメラで淡々と進むのに、あの棒読みぶりがなんともいえず郷愁というか哀しさを醸し出しますねぇ。狙ってるのか狙ってないのかわからないけど、スゴいと思いました。

    この映画がもう一度観られて、ほんと感謝です。

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