アイデアのちから

4822246884 この本は面白いです。おすすめ。最近おすすめ多いけど。
アイデアのちから」 ─ 本書で言う「アイデア」とは、辞書的な意味での「着想」や「考え」といったものに留まらず、あらゆる考えやメッセージ、伝えたことすべてを意味している。それは、ある事実かもしれないし、戦略かもしれない、思考方法でもいいし、ルールや感情でもいい。とにかく人に何かを伝えようとする場合の、その「何か」のこと全般を意味する。

この「何か」をどうすれば、もっと人々の記憶に定着させることができるのか。本書のテーマはここに集約されている。それがすばらしいアイデアでも、記憶に定着しなければ、影響を与えられないし、行動を促せない。すばらしいアイデアは、それをどううまく伝えられるかということとセットでなければならないわけだ。

面白いのは、本書自体が「アイデアを記憶に定着させる方法」というアイデア」を伝えるために、本書内で説明される手法がフル活用されていることだ。つまり、この本を読むことで、どのようにすればアイデアがよりうまく伝わるのか、そして人を行動に駆り立てることができるのかという回答にもなっている。
単純明快なフレームワークやロジック、それを説明するために参照される意外性ある事実や事例、そして権威ある研究結果の具体性や信頼性、そして感情に訴える物語の挿入など。本書で推奨される「アイデア定着」のためのテクニック、チェックポイントが総動員されている。本書の内容が伝わること=本書の内容に信憑性があることというわけだ。その意味では、本書は成功していると言えるのではないか。

テーマ的には、コピーライティングなどのテクニックやプレゼンテーションテクニックなどと重なる領域でもあるが、本書が扱う範囲は特定の広告や企画などの表現といった範囲に限定されず、極めて幅広い「アイデア」をよりうまく伝える方法について言及されている。なので本書で提唱されているフレームワークやテクニック、考え方は様々なところで役立つことだろう。人に何かを伝えたいと考えている人、人に何かを伝える立場にある人はぜひとも一読をオススメする。

アイデアにはそれを考えて、生み出す「答え」の段階と、それを「他者に伝える」段階がある、と著者は言う。「答え」の段階では専門知識や様々な背景、状況などを加味しながらある伝えたいアイデアに到達するわけだが、伝える相手はそれらのことを知らないし、背景も理解していない。「知」の不均衡が起きてるわけだけれど、「答え」の段階を経験した人は、いざ伝える番になると、相手が自分と同じような理解や知識を持っているような誤解をしてしまう。それを本書では「知の呪縛」と呼んでいる。「知の呪縛」がある限り、「答え」を生み出す段階についていくら学んでも、「他者に伝える」方法を学ばなければ、その「答え」はうまく伝わらない。本書で提唱するフレームワークは、そんな「知の呪縛」を取り除くためのチェックリストであり、メッセージ組み立てのためのヒント集のようなものだ。

本書では、「知の呪縛」に囚われずに、アイデアを「他者に伝え」、アイデアを「記憶に定着させる」ための方法を六つの原則にまとめ、その頭文字をとって「SUCCESs」というフレームワークを提唱する。
それは、単純明快で(Simple)、意外性があり(Unexpected)、具体的で(Concrete)、信頼性があって(Credentialed)、感情に訴える物語(Emotional Story) という6つとなる。

この6原則自体が、極めてシンプルで一見当たり前のような言葉をまとめてただけなのだが、本書内ではこの1つ1つに豊富な事例や、様々な心理実験の結果、データや意外性のある物語などが組み込まれており、とても説得力あるフレームワークとなっている。
備忘録として簡単な読書メモを付記する。

1.単純明快である
●優先順位が極めて重要
・3つ言うのは、何も言わないのに等しい
・1992年の選挙キャンペーン「経済なんだよ、馬鹿」(メッセージには優先順位が必要)
・デイリーレコード社(地域重視)「人名、人名、とにかく人名」
・弁護士なら主張したいことが10あっても最終弁論では1、2点に絞り込む必要がある。
●既に持っているイメージを呼び覚ます(類推、比喩)
・映画「スピード」は「バスを舞台にした『ダイハード』」/「エイリアン」は「宇宙船を舞台にした『ジョーズ』

2.意外性がある
●関心をつかむ→関心をつなぎとめる。
・驚きは関心をつかむ。
・好奇心は関心をつなぎとめる。
・好奇心が生じるのは自分の知識に隙間を感じたとき
・自分が伝えるべき中心的メッセージを見極める→そのメッセージの意外な点を探し出す→ドキリとさせられる意外なメッセージの伝え方で聞き手の推測機械を破壊する。推測機械が作動しなくなったら、今度はその修正を促す。

3.具体的である
●記憶のマジックテープ理論
・茶色い目、青い目、偏見のシミュレーションの例
・ボーイング727の開発目標「定員131人、マイアミ〜ニューヨーク間のノンストップ飛行が可能で、ニューヨークのラガーディア空港の4-22番滑走路に着陸できる旅客機」
・白い物を思いつく限り書き出しなさい→冷蔵庫の中の白い物を思いつく限り書き出しなさい。(「冷蔵庫」と絞り込んだほうが簡単)

4.信頼性がある
●信頼性の効果の大部分は「ならでは」の細部が与えられているか?
・細部はメッセージに具体性と実感を与える
●統計データを利用する
・人間的尺度を使う
・太陽から地球に意思を投げ、的から0.5キロメートル以内に命中させるようなものだ
・ニューヨークからロサンゼルスまで石を投げ、的から1.7センチメートル以内に命中させるようなものだ。
●シナトラ・テストを利用する(それに合格すればすべてで合格できるような象徴的なもの等)

5.感情に訴える
●大衆を見ても私は行動しない。個人を見たときに私は行動する
・自己利益に訴える→ただし、マズロー説の階層的な面は間違い。人は他人は皆マズローの底辺にいると思ってる。マズローの底辺の欲求と、高次の欲求が同時に成立することだってある。
・共感は全体からではなく、個々の事柄から生まれる。

6.物語性
●人々に意欲と励ましを与える物語の基本形は3つ
・「挑戦」の物語、「絆」の物語、「創造性」の物語
・物語によって、聞き手は、単なる受け身の存在ではなく、主体的な関与者となる。
・物語は記憶のマジックテープ理論と同じ。アイデアにひっかかりをたくさん持たせると記憶にくっつきやすくなる。

最後に本書では、アイデアを定着させ、後々まで役立たせるためには聞き手を次のような状態にまで持っていく必要がある。
(1)関心を払う
(2)理解し、記憶する
(3)同意する、あるいは信じる
(4)心にかける
(5)そのアイデアに基づいて行動できるようになる。

この(1)〜(5)は、そのまま、「SUCCESs」フレームワークに対応していて、
(1)関心を払う→意外性がある
(2)理解し、記憶する→具体的である
(3)同意する、あるいは信じる→信頼性がある
(4)心にかける→感情に訴える
(5)そのアイデアに基づいて行動できるようになる。→物語性がある
とし、「単純明快さ」はメッセージの核を見いだすという「答え」の段階のことだから、全段階を通じて有用と結論dけている。

うちの会社でも毎年テーマやら戦略みたいなものを発表したりする。
しかし、それがきちんと社員に理解してもらってるか、伝わってるかというと疑問だ。それは受け手側の能力の問題ではなく、伝え手側がこの「どうすれば記憶に定着させられるのか」というような観点を持てていないことも大きい原因なんだろうと思う。記憶に定着しなければ、そのアイデアは行動を促さない。これでは何の意味もない。
自分たちが伝えたい「アイデア」をどのように形にするか、表現するかに、「SUCCESs」フレームワークで見直したり、チェックしてみる必要はあるだろう。

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