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2004年03月28日

ビックボーナス&カルト資本主義

昨日、ひさびさに本屋に。
「ユリイカ 2000年6月増刊「田中小実昌の世界」「カルト資本主義」(斎藤 貴男)、「ビッグボーナス」(ハセベバクシンオー)、「ベンヤミン・コレクション〈3〉記憶への旅」(ヴァルター ベンヤミン)、「時間と存在」(大森 荘蔵)を購入。

とりあえず「ビッグボーナス」と、「カルト資本主義」を読んだ。
「ビックボーナス」は、「このミステリーがすごい!大賞」の読者賞・優秀賞を受賞した作品。大森望さんとかが絶賛していたので期待したのだけれど、正直期待はずれだった。自分がパチスロやらないからというのも理由の一つだろうけど、「詐欺師」の世界を扱うなら、もっと巧妙に、精緻な世界を見たい。このレベルだと簡単に想像が及ぶ範囲で、逆にリアリティがないような気がした。

「カルト資本主義」は、題名通り。「カルト」にはまる企業や政治の裏側を描いたもの。SONYの「エスパー研究所」や、京セラ「盛和塾」、「微生物EM」、「船井幸雄」、「ヤマギシ会」など、8つの物語をとりあげている。とても面白く読めた。

「カルト」にはまることがそのまま悪だと考えてしまうことも一つのイデオロギーだろうが、「カルト」にはまってしまったがゆえに、常人であれば容易に想像できることができなくなってしまう。そこが問題なのだと著者は問うている。

例えば、京セラの稲盛さんが阪神大震災を「積み重ねられたカルマを清算するために、今度のような大震災が起きたとしか思えません」と語るとき、そこには震災で不幸に見舞われた人達への眼差しが決定的に欠けている。(この発言だけとりだしてなんやかんや言うのは危険だが)

カルトへの傾倒が、優生学的な思想や権威主義、民族主義を容易につながっていく。そしてそれが極めて危険な思考であることを視えなくしていまう。そこには危険がはらんでいると著者は問う。

世界には人知が及ばないこともたくさんあるだろうし、僕個人としては、カルトそのもののについては否定も肯定もしない。しかし、何の根拠も合理性もなく、実証不可能性を都合を自分の都合の良いように解釈し、それを敷衍しようとするような活動や考え方には嫌悪感を覚える。

じゃぁ本書を読んで稲盛さんを軽蔑するかというと、そういうわけではない。やはり稲盛さんの経営観は好きだ。彼が生み出した経営スタイルは凄いと思う。しかし、好きだからといって、稲盛さんを神のように崇め、その言葉をグルの言葉のように信じきってしまうということはしない。多分、そういうバランスを持っておくことが重要なのじゃないかと思う。

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2004/03/28 16:00

2004年03月27日

BK1の本へのリンクを簡単に

00022568500 Can't connect to cgi.bk1.jp:80 (Bad hostname 'cgi.bk1.jp')

bk1のブリーダーになってはいたものの何もしていなかったのだけど、mt-bk1.plが便利そうだったので入れてみた。テストも兼ねて、好きな本を紹介してみる。

保坂和志さんのデビュー作。僕は講談社文庫のほうで初めて読んだ。「草の上の朝食」とセットになってるやつ。今でも年に何回かは読み返す。この小説に出会って良かったと心から思う。そんな小説はあんまりない。とくに何か事件が起こるわけでもなく、ひょんなことから共同生活を始めることになった人達の生活が描かれているだけの小説。でも、ここに登場する人達の考え方や、世界の捉え方は、ものすごく素敵だと思う。

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2004/03/27 15:23

2004年03月21日

伝わる・揺さぶる!文章を書く

伝わる・揺さぶる!文章を書く

伝わる・揺さぶる!文章を書く

タイトルだけで想像すると文章のテクニック・技法を説明した本かと勘違いする人もいるかもしれないけれど、そういう本ではない。
「本書で目指す文章力のゴール」を著者は「あなたの書いたもので、読み手の心を動かし、状況を切り開き、望む結果を出すこと」だ。つまり「機能する」文章を書く、そのための「考え方」「考えるための方法」をレクチャーしている本なのだ。
ここで説明されている考え方は、文章を書くときだけに使える限定されたものではなく、より広くいろいろなところで役に立つはずだ。あらゆるコミュニケーションの場面で何かしら得るものがあるだろう。

文章の7つの要件
「機能する文章」を書くための要件として、著者は以下の7つを上げる。


  1. 意見
    意見とは、自分が考えてきた「問い」に対して、自分が出した「答え」である。(P.41)
  2. 望む結果
    「何のために書くか?」結果をイメージすること(P.54)
  3. 論点
    「論点」とは、文章を貫く問いだ(P.64)
    論点と意見は、問いと答えの関係にある(P.70)
  4. 読み手
    読み手が誰なのか、どんなことを考えるのか、相手の立場や相手との関係を考えること。「相手にわかるか?」「相手が興味を持てる内容か?」「相手にこれを読むとどんな意味やメリットがあるか?」「相手はどんな人か?」「「相手は今、どんな状況か?」「これを読んで相手はどんな気持ちになるか?」
  5. 自分の立場
    自分の立場、相手との関係を俯瞰的に見ること
  6. 論拠
    説得力は論拠から生まれる。自分の都合の良い理由だけを並べてもそれは「論拠」にはならない。
  7. 根本思想
    この発言に向かわせている根底にある思い(P.106)O

仕事上、メールを書くことは多い。
メールを書くとき、そこには当然「目的」がある。
社員に向けたメールを書くときには、そのメールを読んで社員がどうなって欲しい、どう考えて欲しい、どんな風に行動して欲しいという願望がある。しかし、それをきちんと考えメールを書くことは少ない。
本書を読むと、いかに自分が適当に、そして安易にメールを書いてきただろうと悔やまれる。

「論点」の絞込みが甘く、途中で脱線して結果的に自分の言いたいこをを一方的に書いてしまったり、最も論で「論拠」を片付けてしまったり、そもそもこれを読んでその人にどんな風に行動して欲しいのか、考えて欲しいのかという目的自体を忘れてしまい、結果的にただ人を嫌な気分にさせるだけだったり。

それで読み手が「理解してくれない」とか「誤解している」とかって一人愚痴たり。とんでもない大間違いだ。「伝わらない」のは相手が悪いからではない。文章が下手という理由だけでもない。「機能するため」の文章に必要な要件を曖昧にしか満たしていないからだ。より深く、より俯瞰的に考えていないからだろう。

今度から、文章を書くときには、一旦この7つを必ずチェックし、十分に考えてから書くことにしよう。

といいながら、えらく軽くこんなエントリーを書いてたり...

ちなみにこのエントリーは僕は、一番の読み手を僕自身に置いている。今度文章を書くときに忘れたら、このエントリーを読み返すことで戒めたいという思いがあるわけだ。(にしては、尾ひれ/背びれが多いけど)
ただ、それを一般に公開されるブログに書くということで、ある程度不特定多数の人が読むことをも考慮に入れている。
このエントリーを読んだ人がこの本の存在を知り、多少なりともこの本に興味が沸けばいいなと思って書いている。

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2004/03/21 02:38

2004年03月16日

ホリスティック・コミュニケーション

ホリスティック・コミュニケーション

ホリスティック・コミュニケーション

アクティブ・コンシューマーが大きな影響力を持つ時代における広告や販促のあり方とは何か、ということを広告の最前線で活躍するクリエイターが語っている本だ。

アクティブ・コンシューマーとは、自らが積極的な情報の発信源となり、自分の気にいったもの、面白かったもの・ことを多くの人と共有していく新しい消費者像であり、それは今までマーケティングが捉えてきた「ショッピング・マシーン」的な存在とは異なる。
アクティブ・コンシューマーという存在を前提とした時のマーケティングは、「AIDMA理論」では通用しなくなり、「AISAS」になるのではないかと著者らは問う。

実は、「AISAS」という言葉は、本書を読む前に、あるクライアントの口から聞いて面白いなと思っていた言葉だった。出典はここだったのか。
「AISAS」とはAttention→Interest→Search(検索)→Action→Share(意見共有)のこと。今後のマーケティングは「Share」まで含めて、企業が生活者とどのようにコミュニケーションをとっていくかという観点が必要だという。

確かにデジタルメディアの発達は「Share」の影響力を強めた。デジタルネットワークは「口コミ」の速度を速めた。また、ブログもそうだし、2chなどの巨大掲示板・コミュニティもそうだが、個人が簡単にメッセージを発信し、多くの人と共有することが可能となった。

ただし、「AIDMA」にあった「Desire」や「Memory」がなくなってしまった、あるいは影響力が低下したとは一概には言えないのではないかと思う。(そのことは著者らも語っていることではあるけれど)
「Memory」にも一時的な記憶と、長期的な記憶があるだろうが、ブランド形成には長期的記憶をどのようにつくりだしていくか、想起性を高めるかといったところはむしろ影響力を増しているのではないだろうか。
ただし、この「Memory」は、「AIDMA」という購買への心理過程にあるのではなく、企業と生活者の関係・コミュニケーションのなかで構築していかなければならない前提として存在することだろう。

「Share」までを含めて、企業と生活者の関係を包括的にデザインすること、そして情報の流れ(企業→生活者/生活者→企業)を立体的に捉えていくこと。このようなマーケティング観を、「ホリスティック・コミュニケーション」という言葉で著者らは語っている。「ホリスティック・コミュニケーショ」あるいは、「ホリスティック・マーケティング」という言葉は、著者らの言葉ではなく、ここ近年の広告業界のキータームだ。それは「インテグレイテッド・マーケティング(統合型マーケティング)」などといった言葉とも近い概念で、要はある単独のメディア、あるいはある単独のメディアとそれに何かしらのメディアを絡めるというようなマーケティング発想ではなく、企業と生活者の関係全体をどうデザインするかという視点から「メディア・ニュートラル」の立場からコミュニケーションを創造していくという考え方だ。
また、「複数のメディアを組み合わせて」という部分だけで考えると、もともとメディアは存在していて、その組み合わせの最適化、組み合わせの妙がプランニングの前提となっているようにも受け止められかねないけれども、それも視点としては古い。それは旧来のメディアプランニング・クリエイティブの発想だ。

「ホリスティック」という概念では、生活者を取り巻く環境全体を通じて、どう情報をデザインするか、情報の流れをどう最適化するのかということが問われる。そこにはメディア自体を生み出していくという考え方させ内包されているのだ。つまり、クリエイティブのなかに「メディア」の創造、コミュニケーションの創造が含まれてしまうということだ。

ホリスティック・アプローチは、広告とか販促という領域を定めない考え方ですよね。むしろその連動を新しくデザインしていかなければならない。それができるのは、実は、クリエイターだけではないかと、僕は思うんです。(杉山:P.104)
「クリエイティブ力」とは、ここで言われるような「連動」や「関係」、あるいは下の引用で登場してくる「立体的な風景(ランドスケープ)」をデザインしていく力だということなのだろう。逆に言えば、それができなければクリエイターではないということだ。
消費者との関係で、メディアとメッセージをどのようにミックスしていくかということを、具体的に考えてみたんですが、一つは、商品のデザインから始まってパッケージ、ディスプレイ、POPなど、商品の流れに沿ったコミュニケーションがあるでしょう。それ以外に、もう一つ、情報の流れに沿ったコミュニケーションもあります。マス・メディアとか、PC、モバイル、OOHといった多様なメディアで、デザインやコンセプトを統一させながら、消費者のコンタクト・ポイントに応じて、クリエイティブやメッセージ表現を変えて発信していく。こういう立体的な風景(ランドスケープ)づくりというものが、これからの情報装置としての広告に必要になってくるのではないでしょうか。(秋山:P.142)

広告会社の一線で活躍するクリエイターの意識は、こういうところに向かっているのかとちょっと驚いた。広告会社にとってクリエイティブ力はもっとも重要な競争力の源泉だということは、多くの人が語っていることだが、ここで言う「クリエイティブ力」という言葉が照射する範囲は、僕が個人的に考えていた、規定していイメージよりもっともっと大きなものだったのだ。

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2004/03/16 00:52

2004年03月14日

凡人が最強営業マンに変わる魔法のセールストーク

凡人が最強営業マンに変わる魔法のセールストーク

凡人が最強営業マンに変わる魔法のセールストーク

本書はセールス手法、テクニックについての本だ。本書の最後で著者は「マーケティング」が終わった後に始まるのが「セールス」だというようなことを言っている。つまり、見込み客を集めたり、ユーザーの興味を惹いたり、問い合わせをもたらしたりするところまでがマーケティングで、そのキッカケをクロージングにつなげるのが「セールス」。なので、本書のテクニックにいくら磨きをかけても、「問い合わせ」が1件もなければ、顧客は獲得できない。ということを前提としても1300円の価値は十分ある本だと思う。特に対面での販売を行うような業種、業態では有用と思われる実践的テクニックがいくつか紹介されている。

内容としては、「売り込まなくても売れる! ― 説得いらずの高確率セールス」と、ほぼ同じようなことを語っているけれども、より日本の風土にあっているという感じはした。「高確率セールス」にもなるほど!と思うところは少なからずあったけれども、それをこのままやっても多分日本じゃぁ通用しない。本書のほうは全てではないけれど、具体的に現場で利用できるイメージは持てた。つまりアレンジせずにそのまま明日の営業活動からでも使える、という確かな実感が本書にはあったわけだ。そこは大きな違いだ。

具体的なイメージを抱けたというのも、それは、
魔法のセールストーク・4ステップ」として示された4つのステップのうち、ステップ1とステップ2については、ボク自身が無意識的にやっていたからかもしれない。

今日、○○○なわけですが、いまの×××に何かご不満でもおありなのですか?

という質問を投げかけるというのがステップ1だ。
このステップは単純な話、お客さんの本当のニーズを知るためにある。著者は、「お客はドリルを買いたいのではなく、穴を開けるという結果を求めてる」という例で説明している。(この例は、マーケティングの話ではよく出てくる。原典は、おそらくT・レビットだと思うけど、どうなんだろう?)
お客さんは本当に自分が欲しいものをしらない。

「○○○していただこうとすると、だいたいいくらぐらいかかりますか?」
「御社では○○○○業界でのコンサルティング実績などはありますでしょうか?」
お客さんがこんな風に聞いてきたとき、どう答えるか?先の穴あき文例の穴をそのまま埋めればいい。

「今回、○○○○するための費用についてお尋ねになられているわけですが、何かお困りのことでもおありなんですか?」
「○○○○業界についての実績を聞かれていらっしゃるわけですが、何かお悩みのことでもおありなんですか?」

こんな風に返す。ここからお客さんの本当のニーズに遡っていくキッカケをつくるわけだ。

「ウェブサイトをリニューアルしたいのだけど、いくらかかるんだろう?」と聞いてくるお客さんは多い。こんなとき「何ページぐらいですか?」「どんな機能が必要ですか?」と聞くのではなく、「ウェブサイトをリニューアルしたいということですが、現状のウェブサイトについて何かお困り、お悩みのことがおありなんですか?」と訊いたほうが良いわけだ。

そして、ステップ2ではお客が語る言葉をより具体的に、より深くつっこんでいく。その行為を著者は、

  1. お客の語る言葉の「あいまいな表現」を具体的にする質問
    「たとえば?」
    「(もう少し)具体的に言うと?」
  2. 根拠を聞きだす質問(極端化)
    「○○だと、何か××すぎるのですか?」

の二つの質問パターンとしてまとめている。

この二つのステップについては、ボクも近いことはしていると思う。
ボクが意識しているのは、「それはどういうこと?」と疑問をどんどん遡っていくことだけだ。
お客さんが語る表面的な悩みや課題ではなく、その悩みや課題をもたらしている根源的な問題をつきつめるようと、質問を続けること。意識しているのはそこだけなのだが、結果的には著者の考え方に通じているところはある。

ただ、ステップ3についてはボクはあまり得意ではない。ここらを曖昧にしてしまう癖がある。ステップ1と2で疲れてしまって、ここらでいいかと自分で見切りをつけてしまうのだ。ステップ3は「お客の要望を整理して、相手に確認させる」ステップであり、ステップ4は、「お客の欲求を持たしている部分、満たしていない部分を明確にしたうえで、提案内容を説明する(P.104)」ステップだ。ステップ3で出来ないのは、「本当に、これで確かですかね?」という念押しだ。うーん。これってやっぱり必要なのだろうか。あと、最終ステップに進む前に「優先事項を聞いておく」ということ。これは多分、重要だろう。ステップ4において、予算内ですべての課題を解決できる提案を行えることは少ない。この場合、提案時に実施フェイズを分けていくなどの提案を行うわけだけど、当たり前ながらヒアリング時にきちんと最優先事項は聞いておかなきゃならない。

魔法のセールストークも面白かったけど、個人的に一番興味深かったのは、なんといってもお客さんから予算を聞き出す方法。これは早速次からでもやってみよう。本書では予算を聞き出す方法と、その聞き出した予算から、アッパーリミットギリギリのラインと、予算としては割安感を感じることができる価格帯を導き出す簡単な方法を教えてくれる。
特に、そこに根拠があるわけではなく、著者自身の経験からでききたある数値の掛け算をするだけなのだが、自分がクルマを購入したときや、家を探すときなどの例を思い浮かべて、そのとき自分が口にした予算にその数値をかけてみると、確かにその通りだった。
興味がある人はそこだけでも立ち読みしてもいいかも。

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2004/03/14 01:27