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2005年12月01日

いしいしんじ「ポーの話」

ブログの更新をしてなかったときにも、いつものと変わらぬペースで本は読んでいたのだけれど、これといって人に薦めたくなるような本もなかった。そんななかで、この小説はボクのなかでは飛び抜けて面白かった。

ポーの話
4104363014いしい しんじ

新潮社 2005-05-28
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いしいしんじは久々に登場した大型物語作家だと思う。

大江健三郎や中上健二に匹敵するぐらい芳醇な物語を紡ぎ出す力を持っている作家だと思ってんのはボクだけか。けど、文壇では大物扱いされてない気がする。

ぶらんこ乗り」を友達に薦められて読んで以来、意識的においかけてる作家なのだけど、本作は現時点でのいしいしんじプロデュースの物語の総括みたいな感じではないか。

簡単に要約できるような小説ではなく、むしろ要約されてしまえば何の意味ももたない、それでいてストーリーの力でぐいぐいとこの世界に引きずり込んでく力がある。ボクは小説にテーマだとか、メッセージだとか、そういう類のものを求めない。小説を読むことの愉しさ、読んでる時間の愉しさこそを重要視するんで、いしいしんじが小説のなかにちりばめる無数のへんてこなストーリーがどれもこれもツボにはまる。文庫本の「ぶらんこ乗り」の解説で誰かが言ってたけど、これだけへんな話をいっぱい思いつくぐらいだから、いしいしんじってのは大嘘つきにちがいない。ボクもそう思う。

ちなみに、「ポー」と聞くと、怪奇・推理小説の大家の方を思い浮かべてしまうが(ボクも手にするまで関係あるのかと思ってた)、こちらの「ポー」は「ウナギ女」に育てられ、泥の体積する川を愛する少年の愛称。あちらのポーとは関係ない。

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2005/12/01 00:54

小林恭二「モンスターフルーツの熟れる時」

ただいまアイドリングタイム。来週月曜日までに構成書をつくらにゃならんのだが、今週末は時間がとれそうにもないので、今へいこら作業中です。

モンスターフルーツの熟れる時
4103704047小林 恭二

新潮社 2001-05
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star昔した約束

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大学時代の友人が貸してくれた。

彼は、大学の頃から小林恭二のファンで、ボクが小林恭二の本を読んだのも彼の薦められたからだ。「電話男」や「ゼウスガーデン」など、デビュー当時の小林恭二は、なんとなく昭和軽薄体の路線を純文学テイストで仕上げたような作品を得意としてたけれども、本作は文体やレトリックは正当な(ある意味古くさい)純文学的な語り口を意図的に採用している。
渋谷区猿楽町を舞台にした連作小説。強烈な個性を持つ、現実離れしたキャラクター達が登場するが、その舞台を具体性で固めることで虚構性を中和させようということか。現実との照応感と強い虚構性が響き合って、浮世離れした不思議な世界をつくりあげることに成功しているなとは思う。が、物語そのものが貧弱じゃないか。もちろん小説=物語ではないが、この手の小説には物語そのものの力強さが求められるだろう。物語の引力によって個性の強いキャラクターが生きる。この小説は過去と現在、あるいは未来を横断していくがそれが行き当たりばっありにしか思えないところが物語の力の弱さみたいなものを露呈しているのではないか。
むしろボクは小林恭二らしくないところが気にくわない。

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2005/12/01 00:29

2005年11月30日

スティーブ・ジョブズ-偶像復活

発禁になりそうだったというのもわかる。全編にわたってスティーブ・ジョブズの馬鹿っぷりが満載だ。ここまで馬鹿扱いされりゃジョブズも黙っちゃいないのではないか。

どこまで本当なのかはわからんが、本書のなかのスティーブ・ジョブスは、我が侭だわ、勝手だわ、短気だわ、反省しないわ、大金持ちになってもどケチだわと、おそろしく傍若無人の無頼物だ。どう考えてもこんな人間が近くにいたら迷惑以外の何者でもない。

が、そんな大馬鹿野郎にもかかわらず、ジョブズには不思議な魅力があり、彼が言うと、本当になってしまうような気にさせる何かがある。その何かが彼を成功にも導き、そして破滅にも導いた。(復活したけど)

ジョブズのあまり語られない側面を知るというだけでも面白いし、コンピューターやテクノロジー史としても読めるだろう。
ジョブズが上司だったら愉しいだろうけど、大変だろうなぁ。

スティーブ・ジョブズ-偶像復活
4492501479ジェフリー・S・ヤング ウィリアム・L・サイモン 井口 耕二

東洋経済新報社 2005-11-05
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2005/11/30 18:45

2005年08月24日

なぜ、就業規則を変えると会社は儲かるのか?

これまた新幹線の中で読んだ本。実は今ちょーど社内のルールの見直し、改訂を行っているところだったので、タイトルに惹かれて買ってしまった。

なぜ、就業規則を変えると会社は儲かるのか?―ヒト・モノ・カネを最大に活かす6つのヒント
4804716769下田 直人

大和出版 2005-08
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休日は「法定休日」と「所定休日」にわかれる。
労働基準法では休みは「1週間に1日与えればいい」ということになっている。この1日が「法定休日」だ。「法定休日」の労働は、35%の割増賃金になるが、「所定休日」の労働は、通常の時間外労働となるので、25%の割増で済む。

休みには「休日」と「休暇」がある。「休日」はそもそも労働義務がない日だ。「休暇」とは本来労働義務があるけれども、会社のほうでその労働義務を免除する日を指す。就業規則では「休日」と「休暇」をしっかり使い分けておく必要がある。「休暇」はそもそも労働義務がある日なので、その日に休まずに出勤した場合でも、労働義務が免除されなかっただけなので「休日出勤」にならないわけだ。
「年末年始休暇」や「夏期休暇」などがそうで、これらは「休日」ではなく「休暇」にしておかなければならない。

なんてちょっとした労務の基礎知識を説くと、悪く言うと経営者がルールの盲点をついて、従業員を搾取するみたいな、感じで受け取られてしまうかもしれない。

もちろんこの本は、そういうことを書いている本ではない。就業規則をきちんと整備することで、最終的には社員のモチベーションを向上させ、売上をアップさせていくということを目的としている。

しかし、それにもやはり段階がある。まずは「リスク管理」という面だ。どうしても人数が増えてくれば、人間関係でやっかい事が増える。会社にとってはリスクが大きい人材だってくるだろう。就業規則は、まずそういう事態に対して、会社としてどのようなリスクヘッジがとれるかというところからスタートする。
「休日」「休暇」の問題でいくと、ここを曖昧にしていると下手すると「休日」の多い社員のほうが、少ない社員より賞与配分が多くなってしまうなんていう頓珍漢なことが発生したりする可能性もある。

現実の働き方と就業規則がまったく即してないというのも「リスク」だ。こういうったところをまず解消していきましょうというのが最初。
これをクリアしたら、会社の理念やポリシーを強化していく、従業員のモチベーション向上につながるような制度を盛り込んでいける。
本書であげられているのは「裁量労働制」や「リフレッシュ休暇」「誕生日休暇」などなどだが、問題は、それらの制度ではなく、その制度の考え方が共有されているかどうか。就業規則なんて堅苦しい言葉でルールだけを書くものかと思っていたけど、そんな必要はなく、わかりやすい言葉で、その制度が存在する理由は、理念みたいなものも説明したって構わない。むしろ説明しなければならない。きちんとそういう背景みたいなものも文章化し、明文化するからこそ共有できる。

この考え方は、就業規則のつくりなおしを行ううえでとても参考になった。入社直後に少し読むだけで、後はそんなものがあるということさえも殆ど意識されない形だけの就業規則。現実とのズレにびくびくしながら、労働基準法違反をどうかいくぐるかという視点だけでつくりこまれた就業規則。そんな就業規則ではなく、真の意味で会社の重要なルールが定められ、誰もがそれらのルールや背景を理解できるもの。そういう就業規則をつくらなければならない。

内容自体は「目からウロコ」というような類のものではないけれども、この前読んだ『「儲かる仕組み」をつくりなさい』でもそうだったけれども、何かしらの目的達成のためにルールを敷くというのは一つのマネジメントと捉えなければならない。であれば、会社と従業員の間のルールとして最も根本的なものは就業規則であり、ここを蔑ろにしているということはそもそもマネジメントしてないとも言える。そこを明確にすることで、会社が発展するということはおそらくありえることだろうと思う。

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2005/08/24 09:29

2005年08月20日

「儲かる仕組み」をつくりなさい

木曜日東京で、日帰りのつもりが帰れなくなった。もう東京に家はないのでホテルなのだが、日帰りのつもりだったので下着を持ってきてなくて購入した。こういうことを繰り返しているせいで、家には下着だではものすごい充実度だ。3週間ぐらい洗濯しなくても大丈夫なぐらいにストックがある。自慢できることでもないが。

「儲かる仕組み」をつくりなさい----落ちこぼれ企業が「勝ち残る」ために
4309243525小山 昇

河出書房新社 2005-08-09
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あまりにもありがちなタイトルだったので迷ったけれど、株式会社武蔵野の小山さんが書いてるってこともあったし、新幹線のなかで読む本がなかったので買ってみた。帰りの新幹線で読んで、買って良かったと思った。

タイトルからは神田的な営業やダイレクトマーケティング手法が中心と思われるかもしれないが、内容はまったく違う。「人」を中心として捉えて、どうやって「人」を教育していくか、その「仕組み」をつくるためのルールや考え方に焦点が合わせられている。それは、小山社長が「ヒト・モノ・カネ」のなかで企業にとって一番重要なのは「ヒト」だという信念を持っていて、ヒトを教育して成長させられなければ、企業の発展、存続はない、という考え方を背景としている。
この考え方が基本、うちの会社の考え方と同じなので、ここで説かれているさまざまな「仕組み」、その考え方の大部分はうちの会社にも応用できるものではないかと思う。

なるほど!と思うアイディアやヒントが詰まった本書から、特に昨今うちで問題になっている「人依存」(標準化できない/スタープレイヤーに頼ってしまう)の問題を解決するための仕組みをいくつかピックアップしてみる。

例えば、武蔵野では、課長職以上の職責者は年に1度、月末から月初にかけて9日間の連続した有給休暇をとらなければならないというルールが設けられている。そしてこの休んでいる9日間は、家でメールを読んだりすることは許されているが、返信してはいけないことになっている。つまり家でも仕事はしてはならない。

月末、月初というあえて忙しい時期に無理矢理に休まなくてはいけないルールを設けることで、当人たちは自分がいなくても業務を回していけるように日頃から部下を教育する。もちろん当人が休んでいる間に何か業務に滞りが起きれば、その本人の評価に直接響くことになっている。こうなると嫌がうえでも業務の標準化を進める、マニュアルをつくるといったことを心がけるようになるそうだ。

普通なら、そんな忙しくて大事なときに、優秀な人間、上の人間が休んでてどうするんだ!?ということになるだろうが、考え方を変えれば、業務の標準化や引き継ぎ、情報の共有みたいなものを、こういう制度や考え方を敷くことで徹底させることができるわけだ。

しかも、これと同じような発想で、組織全体のスクラップ&ビルドも行ってしまう。そう、大規模な人事異動を意図的にやってしまうということ。

武蔵では2005年3月に全社員の30%が配置換えになるような大規模な人事異動を11年ぶりに行ったそうだ。「一斉に異動して混乱させることで、知っているつもり、やっているつもりという惰性を払拭し、新たな体験をさせるためです。これだけの大異動となると、社員も大慌てで引き継ぎをします。営業担当になった者は改めてお客様のところに挨拶に行きます。これが新たな体験となります。」(P.131)

武蔵では、大きな異動を行うたびに業績が上向くそうだ。
これも面白い発想だと思う。あえて大規模に組織をいじることで、組織の活性化を促していく。

また、なんと武蔵は社員が300人を超えるのに、経理担当はたった二人。しかも二年おきに交代らしい。これも同じ発想で、次の人に引き継ぐことを意識させることが狙いだ。これが小山社長の言うところの「仕組み」だ。業務のマニュアル化をしろ、引き継ぎできるようにしておけ、と口でいくら言っても、人間は怠け者だし、切羽つまらなければなかなか、後の人のために何かをするなんてことに時間を割けない。武蔵では人事異動や強制休暇という環境を与えることで、実践していく。

小山社長の考え方は実にシンプルだけれど利に叶っている。
他にも、「個人専用の机をなくせば業務の標準化が進む」というようなアイディアも、うちの発想にはなかったものだ。

一方、社員を経営に参加させる仕組みというのもとても参考になる。これもうちの大きなテーマの一つだ。

社員を経営に参加させる仕組みとして、武蔵では「クレーム対応チーム」「環境整備チーム」「安全運転推進チーム」など、11のチームがある。チームメンバーは各事業部から部門横断的に集められ、リーダーは立候補で決まっている。日産のクロスファンクショナルチームにも似ている。最近、うちでも始めた制度だ。うちでも始めた制度だけに、この運営の仕方はそのまま真似られるのだろう。

各チームは月1回あらかじめ決められた日に集まって活動する。定期的に三チームづつ、最高決定機関である「経営品質向上委員会」で活動経過や改善状況を発表しなくてはならない。この発表もごまかしが利かないようにチームメンバーのなかの一般社員が発表しなければならない、というルールになっている。

チームは半年ごとに解散してメンバーを入れ替える。自分の上司のいないチームに行くのを基本とするが、強制的に「賞与評価でCとDを取った社員は同じチームにいてはいけない」ということになっている。

チームはまず、実行計画を作成するミーティングを開く。
チームでは上下で発言の差がでないように、案を出す場合には、アイディアを付箋に書き出して貼るようにする。口頭だとどうしても職責の高いものの意見が通ってしまうからだそうな。そして、寄せられた提案は3つぐらいに集約され、最終的な決定は多数決ではなく、全員一致で決める。単純に、「全員が合意するまで帰られない」というルールを敷くことで嫌々でも「全員一致」とする。「全員一致」とすることで、改善計画はスムーズに行くのだそうだ。なるほど。

本書を読んで痛烈に感じたことは、「勉強しろ」や「情報共有しろ」「マニュアルをつくれ」とか、「引き継ぎをしろ」なんてかけ声は、ただかけ声を繰り返していれば良いのではなく、それらをやらざるをえなくなるようなトリガーを仕組みとして用意してやらなければならないのだ、ということだ。そして、それを用意できるのはマネジメント、しかもトップマネジメントの役割なのだということ。少し身につまされる思いだ。うちの会社だとどちらかというと「根性で頑張る」的発想が中心になるし、やはり「掛け声」が中心だ。ではなく、強制でも強要でも、それが社員にとっても大きなメリットとなりえるものなら、きっちりと「仕組み」化しなければならない。

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2005/08/20 17:25