いまさらだけど「グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略」

479811782Xグランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略 (Harvard Business School Press)  ─ まるまる1年ぐらい遅れて本書を手にした。恥ずかしいばかりだ。
買ったのは去年の初めの方で、ざっと目を通したのだけれど、豊富な事例については面白く感じたものの、それほど深く感じ入ることもなくほとんど放置状態だった。

ふとしたことで年明けに読み返してみたら最初読んだときとは全然違った風景が見えた。自分の今の気の持ち方や肌感覚の違いが大きいのだろう。「グランズウェル」が本当に現実のものとして、そこにあるということの確かさみたいなものを実感しているからだろうか。同じ本とは思えないぐらいに、何かある種の感動みたいなものを僕はこの本に覚えた、
なので、まだ読んでない社員も多いだろうから、あえて本書を紹介しておかないとダメだろうという使命感が沸き上がってきたというわけだ。

グランズウェルとは社会動向であり、人々がテクノロジーを使って、自分が必要としているものを企業などの伝統的組織ではなく、お互いから調達するようになっていることを指す。このような社会変革も、僕自身1年、2年前にはピンときてなかったのだけれど、今はかなり現実のものとして実感できる。

この業界に身を置いているからより一層そう感じるのは間違いないけれど、もうこの流れは止まらないと思う。今は、この業界だけの狭い一部的な動きかもしれないけれど、それはいずれ大部分を飲み込んでいくに違いない。

本書で紹介されている数々の事例を読んでいると、この社会変革が愉しみになワクワクするものに思えてくる。可能性はいくらでも広がっている。もちろん本書で取り上げれている成功事例の影には、その後ろに膨大な失敗事例が眠っているに違いない。本書の通りに試したけれど、全然うまくいかない、鳴かず飛ばずの企業のほうが多いに違いない。

しかしだ。企業にとって、今までの「消費者→認知→検討→選好→行動→愛用→顧客」へとステップを踏んで成長・育成していくようなマーケティングファネルモデルが崩壊しつつあることは間違いない。大声をあげて、ファネルの入り口に人を集め、ファネルの中に入ったら、購入段階まで進んでいくような働きかけを実施していけば、それではい、顧客の出来上がり、というような時代は終わった。

本書にもあるように、「消費者を導き、会話をリードしているのは、もはやマーケターではない」。
それらは様々なコミュニケーションサービスや、ソーシャルテクノロジー上での友人や知人の推奨、ネットのクチコミなどに取って変わられつつある。そう、「人々の耳を捉えるのは会話」なのだ。

であれば、企業は変わらなければいけない。遠くからメガフォンや拡声器を手にして、誰だかわからない人々の群れに向かって必死で叫んでても、その声は誰にも届かない。自らが人々の群れに加わり、会話に参加していかなければならないだろう。

本書は、その一歩を踏み出させるために勇気を与えてくれ、肩を押してくれるものだ。
この業界の人々と問わず、企業のマーケターや経営者で、まだこの本を手にしてない人は、是非とも読んでもらいたい。

本書内で紹介される概念として重要なのは、「ソーシャル・テクノグラフィックス・プロフィール」と、「グランズウェル戦略の5つの目的」の整理だろう。この2つのポイントに絞って本書の内容を簡単にまとめる。


「ソーシャル・テクノグラフィックス・プロフィール」は、ソーシャルサービスへの参加や関与の形態によって、そのタイプを以下の6つに分類したものだ。


創造者
月1回以上ブログを書いたり、ウェブサイトへ記事を投稿したり、YouTubeにビデオをアップしたりしている人々。


批評者
ネット上のコンテンツに反応する人。レビューやコメントを書いたりする人々。


収集者
ソーシャルブックマークでURLを保存したり、RSSフィードを使って情報収集したりしている人々。。


加入者
SNSに加入して、プロフィールを更新している人々。


観察者
他者のコンテンツを利用する人々。


不参加者
これらの活動のいずれにも参加しない人々。

ソーシャル戦略の立案の際には、自社商品の対象顧客や、自社が狙う市場や社会などで、この6つのタイプがどのような割合になっているかを調査することで、ソーシャル戦略の骨格が決まる。その対象ユーザーに「批評者」が多く、「創造者」が少ないようなら、元の素材となるコンテンツはこちらで用意し、それにユーザーがアレンジを加えたり、レビューできたりするような仕組みを盛り込むというレベルに留めたほうが良いかもしれないし、「創造者」が多いユーザー層ならば、創作意欲をかき立てるようなサービスや素材類の提供などが良いかもしれない。ソーシャル・テクノグラフィックスは、ソーシャルテクノロジーをどのように活用していくかという基準や目安を与えてくれる指標だ。

本書に掲載されている「日本」の「ソーシャル・テクノグラフィックス」は、
創造者:22%
批評者:36%
収集者:6%
加入者:22%
観察者:70%
不参加者:26%

だったが、2009年度のデータを見ると、
創造者:34%
批評者:30%
収集者:11%
加入者:26%
観察者:69%
不参加者:23%

となっていた。創造者が大きく伸びていることがわかる。
(もちろん「全体」として見ているのでは、この指標はほとんど何の役にも立たない。自社商品やサービスの利用者や競合ユーザー、対象年齢やコミュニティに属する人々などの切り口でこれらの指標を見ることが重要だ)

フランスなどは加入者が4%、不参加者が57%と、ソーシャルサービスへの参加度合いはかなり低いものとなっている。それに較べると、日本はmixiやgree、モバゲーといったSNSの存在のおかげだろうか、比較的加入者の比率が高い。

この「ソーシャル・テクノグラフィックス」だが、実は、本書が上梓された頃には大きな影響力を持っていなかったTwitterが大躍進したということもあり、最新のデータでは、「会話者(Conversationalists)」という概念が、創造者と批評者の間に加わっている。日本という限定された地域でこの新しい「会話者」というタイプがどれほどいるのかはわからないが、おそらく昨今のTwitterブームなどにより、けっこう高い割合になるのではないかと思う。
Social Technographics: Conversationalists get onto the ladder

なお、この「ソーシャル・テクノグラフィックス」のデータは、色々なデモグラフィックデータとかけ合わせてウェブで確認することができる。ただ、まだこちらのシミュレーターには「会話者」が入ってない。また、残念ながら「Japan」のデータは年齢別の切り口では提供されていない。
Consumer Profile Tool (now with 2009 data)

ソーシャル戦略の骨格には、当然ながら、何を目的としてソーシャルテクノロジーを活用するのかという目的視点が必要となる。本書では、グランズウェル戦略の5つの目的として整理している。



1.耳を傾ける(傾聴戦略)

・リサーチ、顧客理解。
・顧客インサイトをマーケティングや開発に利用したい企業に適してる。
・プライベートコミュニティを立ちあげる/スローンケタリング記念がんセンター
・ブランドモニタリングを始める。



2.話をする(会話戦略)

・自社メッセージを広げる。より双方向的な手段でメッセージを広げたいと考えている企業に適している。
・バイラルビデオを投稿する/ブレンダー(料理用ミキサー)にiPhoneを突っ込んで粉砕する動画。
・SNSやユーザー生成コンテンツサイトに参加する/世界的な会計事務所アースと&ヤング(E&Y)は、毎年3500人もの新卒大学生を採用している。大学生の期待に応えるため、同社はSNSに進出。
・ブログスフィアに参加する/HPは複数のブログを用意し、様々な部署の社員が執筆できるようにした。

・コミュニティをつくる/P&Gの少女向けコミュニティ「ビーイングガール」


3.活気づける(活性化戦略)

・熱心な顧客を見つけ、彼らの影響力(クチコミの力)を最大化する。

・熱烈なファンのいるブランドに適してる。
・格付けやレビューを導入して、顧客の情熱を活用する/eバッグス
・コミュニテイを作る、顧客を活気づける/コンスタントコンタクト社
・ファンが作ったネットコミュニティに参加し、メンバーを活気づける/レゴ社



4.支援する(支援戦略)

・顧客が助け合えるようにする。顧客がお互いに親近感をいだいているような企業に効果的。
・従来のサポート⇔グランズウェルサポート/ボランティアのサポートに支えられるデル社
・Q&Aコミュニティ/ティーボ社、ケロッグ社はヤフーにダイエット希望者のコミュニティ


5.統合する(統合戦略)

顧客をビジネスプロセスに統合する。難易度が高いので、他の4つのいずれかの戦略を達成してから選択することが望ましい。



これら5つは従来のマーケテイング目的でいくと、



傾聴→リサーチ

会話→マーケティング

活性化→セールス

支援→サポート

開発→統合



となるものだ。
ソーシャルテクノロジーの活用においては、「リサーチ」は「傾聴」であり、「マーケティング」は「会話」となる。それはB2Bであっても、B2Cだっても、ソーシャルテクノロジーにおいては「人」と「人」との関係性に帰結するということを物語っている。「リサーチ」ではなく「傾聴」戸考えること、「セールス」ではなく「活性化」と考えること。この視点は単なる言葉の違いを超えて、非常に重要な観点だ。
企業やマーケターは、ついついグランズウェルにおいても、今までのマーケティングの手法や視点を持ち込んでしまいがちだ。しかし、それでは決してうまくいかない。今までのような「群集」や「マス」でなく、生身の血の通う一人ひとりの人間が相手なのだ、ということをしっかり肝に銘じておく必要がある。そのためにはこういった言葉のレベルでもその違いをきちんと理解して共有しておく必要がある。
本書にもグランズウェル戦略を始めるには「小さく始める」ことが大事だとある。こういう意識部分から始めて見るのも良いのではないか。





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コメント

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