極上のエンターテインメント。スティーヴン・キング「11/22/63」。
スティーヴン・キングはかなり久々に読んだ。
何度かブログにも書いてるけど、僕はタイムトリップや並行世界を題材にしたものがそもそも好きだ。キングの新作がタイムトリップもので、しかもケネディ暗殺絡みともなれば、もう手に取らずにはいられなかった。
(以下、設定などネタバレがあるので読もうと思ってる方は気をつけて下さい。)
「11/22/63」は一般的なタイムトリップ系とは少し違う。タイムトリップ系につきもののパラドクスの問題だとか、因果関係を巧妙に使ったトリックみたいな要素は殆どない。しかし、さすがキング。タイムトリップというネタを実にうまく使って、物語に感動を生み出してる。
まず、タイムトリップのシステムそのものがちょっと変わってる。
小さな町の食堂の奥にある倉庫。そこにある「穴」から繋がってるのは1958年9月19日。これは何度行っても変わらない。
過去の世界でやったことは、当然、現在にも何かしらの影響を及ぼすので、戻ってきた現在は、過去に行く前の現在とは違ったものになる。しかし、面白いのは、そこでもう一度過去に行くと、また同じ1958年9月19日からスタートするというところ。再度、その穴から過去に行けば、その前に過去で起きたことはリセットされてしまうのだ。
そして過去でいくら過ごしても、現在に戻ってくれば現在では数分しか経ってない。しかし、過去に行った本人は過去で過ごした時間分だけちゃんと歳をとってしまう。
この設定が多々あるタイムトリップものとの決定的な違いを作り出していて面白いのだ。
この主人公の最終のミッションは、ケネディ大統領の暗殺を防ぐことなのだが、そのためには過去の世界に行ってから、そこで約5年の歳月を過ごさなくてはならない。
5年は長い。仮にミッションが失敗して、再度、5年前に戻ったとしてもだ、自分はそのまま5年歳を取ってることになる。
過去で過ごした5年という時間を捨て、また過去をやり直すのか、過去での生活が長くなればなるほど、その世界への愛着、その世界での人たちとの交流や恋愛など、背負うものが多くなってくる。何度でもやり直せるとは言っても、そう何度もやり直せない。ここにジレンマがあり、ドラマが生まれる。
これをキングは、ケネディ暗殺という歴史的事件と、その当時のアメリカの各地方の文化や風俗を絡めて実にうまい物語装着として活用している。最後までハラハラドキドキしながらも、ホロリと感動させられる。素晴らしいエンターテインメント小説だ。
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