嫌なお客さんと付き合うという問題

photo credit: anselor via photopin cc

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例えば、あるやっかいなお客さんがいるとする。(こんな特定のお客さんがいるわけでもない。うちはかなりお客さんには恵まれている..)
いつも無理難題を言ってはスタッフを困らせる。そのお客の担当になるとみんな精神的に不安定になる。
お客さんが悪意があるとかなら、それこそ判断も早いのだろうが、悪意があるわけではない。ただ、性格的に問題がある。相手のほうが立場が上だということもあるのだろうが、無理難題を言うのが当たり前だと思っている。

しかし、そのお客さんからの売上や粗利は非常に大きく、会社も依存しているとしよう。
やっかいなお客さんだからといって取引をやめると、会社にとっては大きいダメージとなる。そのお客さんが業界にも影響力を持っているとさらにやっかいで、仮にお客さんとの取引で下手をこくと、その業界での評判にもなりかねない。そうなると、会社としては存続さえ危ぶまれるような危機に陥る可能性だってある。

お客さんには何度も交渉を行い、事情を説明し、根気強く取引内容について改善してもらえるように働きかけをしてきたが、一向に態度は変わらない。
ちなみに、ボクは「嫌なお客さん」とは付き合わないというポリシーには全面的に賛成できないところがある。もちろん「嫌なお客さん」と付き合わずに済むならそんなにありがたいことはないかもしれない。「嫌なお客さん」と付き合わないというポリシーが行き過ぎると、ちょっとでも摩擦があると、それで関係をつくっていくことから一歩身を引いてしまうという、かなり消極的な対応につながりかねないのではないかと思うからだ。
人間関係でもそうだけど、摩擦を避けて避けて、自分のことを理解してくれる人たちだけとつるんでいてはやはり成長がないのではないか。摩擦を通じて、自分の未熟さを知ることもあるし、自分の強みを学ぶこともある。自分の言葉を理解してくれない人に対して働きかけることも成長のためには必要だと思う。
なので、相手が嫌なお客さんだから、付き合いをやめよう、という発想にはならない。ただし、それも限度がある。このお客さんの場合は、付き合う従業員は殆ど魂を売り渡すみたいな感じになる。

こんな時、経営者はどういう判断をするのだろうか。
お客さんとの取引を断ることで。そのお客さんに振り回されたり、精神的に大きいダメージを得ていた従業員はそれは幸せだろう。
しかし、それで会社の経営が危うくなったらどうなるのだ。それはそれで多くの従業員を不幸に陥れることになるだろう。
いや、そもそも嫌なお客さんと付き合わなくてよくなった=幸せというのもおかしい。もしかしたらそんなことは当たり前のことなのかもしれない。

そのような厄介なお客さんに依存しなければ、会社が成立しなくなっているということ自体が経営の問題というのが真実だろう。
つまり、そのような状況を作らないようにすること、これが経営の意思でもあるんだろう。そういう状況に陥ってから抜け出すには相当な覚悟と決断が必要だ。

昔、ヤマト運輸はそういう決断を行った。B2Bの運輸事業がら個人向け宅配事業への転換だ。
もともとヤマトは三越、松下電器などの大会社の専属配送業者だった。三越や松下に依存していればまぁ安定はしている。もちろん楽ではない。発注側はお殿様となるので、相当な我がままや無理に振り回される。三越などは閑散期と繁忙期がはっきりするので余計に厳しいだろう。繁忙期のために閑散期の赤字を耐えるみたな構図ができてたろうことは容易に想像がつく。三越は岡田社長時代にヤマトに対して相当な無茶を言ったようだ。「三越の荷物を三越の倉庫から積む際に駐車代を払え」「高額な絵画を買え」など、完全に上から目線の無茶な要求だ。(このへんの話は「小倉昌男 経営学」に詳しい)
最終的には当時のヤマトの社長小倉さんは最大取引先であった三越に取引中止を申し入れ、個人向け宅配ビジネスという前人未到のビジネスに取り組み、今のヤマト運輸の基礎を0から作り上げた。(今こそ、個人宅配事業はいろいろな運輸会社がはじめているが、当時は郵便局以外では皆無、ビジネス的には民間では不可能とまで言われていた。)
三越との取引中止を申し入れた際には、社員がすごく喜んだ、みたいな話が書いてあったが、三越という頭の上がらない大取引先の呪縛に従業員がどれだけ苦しめられてきたのかがよくわかる。そして、完全に取引を停止して退路なきところにまで追いつめたからこそ、社員が一丸になって個人向け宅配事業に取り組めたということだろう。

ヤマト運輸の場合は、三越との取引停止申し入れの前に、個人向け宅配事業の可能性について小倉社長が徹底的に考えていたということがある。もちろん役員の誰一人も小倉さんが考えている事業の可能性を理解していなかったようだが。小倉さんには勝算があった。個人向け宅配事業の成功のためのポイントを理解していた。初年度はとてつもない赤字を計上し、周りの誰もが個人向け宅配事業はやはり無理だと諦めかけていたが、小倉社長だけは違っていた。

随分、脱線しているが、ボクはこのヤマト運輸の話がすごく好きだ。またヤマトが個人向け宅配事業に進出するときにとった様々な戦略、施策はマーケティングの教科書といってもいいほどで、ここには経営のあらゆる要素が詰まっている。だから「小倉昌男 経営学」はボクの熟読本の一つなのだが、やはりいくらすり切れるほど読んでも、ボクが小倉社長のような大胆な発想と決断ができるかというと、当たり前だができない。

上の例の「嫌なお客」がヤマトにとつては三越だったわけだけど、まったく違うビジネスを志向することで、ヤマト運輸は三越の呪縛から逃れることができた。
自らの意思で逃れた。これは凄いことだ。

嫌なお客との取引で従業員を犠牲にしたくないなら、そういう状況を作り出さないようにすることってのが、まず第一だろう。
しかし、そういう状況になってしまったらどうするか。ズルズルとその状況を続けて、時間が解決するのを待つのか?
いや、まずそのお客さんに頼らずともすむようなマーケティングプラン、ビジネスのストーリーをしっかりと組み立てることだ。深く考え、1つ1つの疑念を潰し、自分が信じるに足りるプランを作らなければならない。そのお客さんへの依存度が高ければ高いほど、そのお客さんに頼らずに生きていくためには、今までとは違うビジネスを作る必要があるだろう。ビジネスプラン、ストーリーができたら、一気呵成にそれを実行に移す。そこには様々な困難が待ち受けているだろう。だから従業員にも協力してもらわなければならない。自分たちが、嫌なお客から逃れ、自らが主導権を持ったビジネスをやっていくためには、この艱難辛苦を乗り越えようと。

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コメント

  1. furoku より:

    僕は、嫌なお客さんがいても、まず好きだと念じますねw
    念じれば、それが無理なことってあまりなくて、そんなこんなしてるうちに、お客さんの嫌な部分を好きな部分に変える発想が身に付いていることにきづきます。

    たとえば、「要件のしっかりしてない仕事をなげてくるやっかいなお客さん」は、「僕に自由に仕事させてくれるいいお客さん」に、「ウェブの技術のことをぜんぜん理解していない無知なお客さん」は、「本業の本質を理解していてウェ部の技術は僕に頼ってくれているお客さん」に。物事の見方を1つじゃなくてまったく違った方向から見てみる訓練になるのでやっとくべきですよね。若いうちはきらいな人に、たくさんあっとけと。
    周りから見て、「おまえよくあのお客さんと仕事できるな」って言われた時に、そのお客さんのいい点をあげられるようになってたら勝ちだと思う。
    あとは熟知性の法則に従って、会ってれば勝手に好きになりますよと。

    でも、papativaさんの言うように魂を削られる瞬間がやっぱりあって、お客さんを選べる選択肢がない場合はそれが顕著にでるような気がします。互いにもう好きでもないのに、つきあってるカップルのようなものかなって感じです、なんか憎しみの言葉しかでなさそうな恋愛シチュエーションですよ。
    なのでそんなことにならないように、どんなに蜜月なお客さんがいたとしてもそのお客さんだけにのめり込まないこと、のめり込まさない組織であることは重要だと思います。

    それでもどうにもならないお客様はいるので、そんな時は他のお客さんの好き比率を高めれば、おのずとなるようになる気がします。

    いずれにしても、どんな時でも自分が選択肢をもっている状況があるとなんとか乗り切れますよね。

  2. yudemen より:

    好きになろうとする努力ってのはいいですね。まずそれは必要だろうなぁ。
    ただ、それでもどうにもならない場合って状況を会社が作り出している時だよねぇ。

  3. DYO より:

    ずいぶん前の記事でコメントするのも恐縮ですが、非常にためになる記事でした。
    ありがとうございます。
    つい最近ひとつ取引停止をしたのですが、取引停止してもさほど深刻な状況にはならないということで判断しました。ヤマトさんの例とは程遠いですが、受注案件ばかりでなく、自分たちのサービスを作り出そうという方向に向かっています。
    本当に正しかったのかどうかは未来にわかるのだろうとも思いますが、もっと困難な例があったというお話しや同じように困難な状況があるということを知るのは勇気付けられますね。

  4. [...] papativa.jp – 嫌なお客さんと付き合うという問題ういう決断を行った。b2bの運輸事業がら個人向け宅配事業への転換だ。 もともとヤマトは三越、松下電器などの大会社の専属配送業者だった。三越や松下に依存していればまぁ安定はしている。もちろん楽ではない。発注側はお殿様となるので、相当な我がままや無理に振り回され…はてなブックマークより [...]

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