おもろい会社研究

テンポバスターズの「テンポス精神17ヶ条」にこんなことが書いてある。(「飲食店向け中古厨房販売のテンポスバスターズ/会社概要」より)

第5条(フリーエージェント・ドラフト制)
 上司が嫌なら店を替われ、そこでも嫌ならまた替われ。何度でも替わってみろ。テンポスはフリーエージェント制だから。だがそのうち気づくだろう。理想的な上司や職場などないということを。自分で切り開いたところにしか「やりがい」はないということを。店長は、気に入らない使いにくい部下は他の店に放り出せ。テンポスはドラフト制だから自分の納得のいくまで何回でも人を入れ替えろ。だがそのうち気づくだろう理想の部下などいないということを。


この条文のことを、「おもろい会社研究」という本で知った。フリーエージェント・ドラフト制というのは良い制度だと思う。部下は上司を選べないし、それで優秀な部下が辞めていくみたいな話もよくある。一方で、そういう一種の「逃げ道」を安易に選択してしまうことに危険性もある。これらは諸刃の剣だ。だからこの条文にはその戒めも込められている。よく考えられているなと思う。

おもろい会社研究 (日経プレミアシリーズ (013))
おもろい会社研究 (日経プレミアシリーズ (013))松室 哲生

日本経済新聞出版社 2008-09
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紹介されている会社はどこも魅力的な会社ばかりなのだが、1つ1つはあまり深くまで掘り下げていない。その部分では若干消化不良というか不満があるのだが、この本はなにより冒頭部分の「おもろい会社とは何か」という章が面白い。多くの魅力的な会社、経営者にインタビューしてきた著者ならではの視点が展開されている。
著者はおもしろい会社で大変なのはそこで働く従業員だと言う。

おもしろい会社で大変なのは、一般的な「会社」という既成概念にとらわれて会社員生活を送りたいと考えている人である。
~これはやり方が違うとか、普通はこういうやり方をするというように考える人はおもろい会社には向いていない。そうではなく、なるほどこういうやり方もあるのか、考え方もあるのかと思うような人の方がおもろい会社には適合しやすい。一日の労働時間は八時間という人も向いてない。自分の時間が出来るだけ欲しいという人には向いていない。向いているのは仕事が面白くて、その仕事にのめり込むような人である。だから大変なのだ。


おもしろい会社は、人のやらないことをやる、出来ないと思ってることをやり遂げる。それを遂行するのは大変だ。
「他の会社はどうだ」「普通はこうする」という発想では結局、ブレークスルーを生むことて出来ない。例えば、ファイテン株式会社の平田社長はチタンが水に溶けないと言われていることを知らなかった。なので水に溶かせと指示し、出来るまでやれと言った。結果、チタンを水に溶かすことに成功し、それはファイテンの成長の起爆剤となった。「水に溶けない」という既成概念に縛られてチャレンジしていなければ今の成功はなかったろう。
また、日本電産は超小型モーターの世界メーカーだが、創業当時のエピソードは有名だ。当時大手メーカーは社内にモーター部門を持っていた。だから営業に行っても仕事は取れない。それで取れたのは社内では出来ない難しい仕事ということで、それが超小型モーターの開発だった。開発の責任者は「そんなもの作るのは無理です」と言ったが、水守社長は「それが無理かどうかを決めるのは自分だ」と言い、強引に仕事をやらせた。結果的に超小型モーター野開発に成功し、同社は世界的な企業に躍進した。(日本電産の水守社長は最近は「休みたいならやめればいい」発言で波紋を呼んだが)
いい悪いはさておき、従来の発想の延長では飛躍できないということも確かなので、ある時は無知や多少の強引さも必要だろう。従業員にとっては迷惑なことかもしれないが、この著者が言う「おもろい会社」というのはそういう会社のことだ。

そういう思考はビジネスの現場だけでなく、あらゆるところに蔓延りがちだ。会社の制度にしろ、ルールにせよ、あそこはこうだから、普通はどうだということを積み重ねていったらそれで良い会社が出来るわけでもない。むしろ、同じことを積み重ねても先人や大きい企業がますます有利になるだけだ。ベンチャーが大企業病にかかって、大企業と同じような制度やルールをただ無策に敷いてしまえば、競争では大企業には勝てないだろう。ベンチャーが失敗する道の1つには自身の理念やポリシーに対して忠実であろうとすることよりも先に、会社としての面構えや「一般的な」会社になろうとするあまりに大企業の競争領域に知らぬまに巻き込まれてしまうことがあることは間違いないだろう。だからこそ理念をしっかり軸にしておかなければならない。芯を持っている必要がある。それがなければ、常に真似することしかできない。それが良いことか悪いことかも他の企業がやっているやってないという一般論での判断に頼ってしまう。

〜ぶれる経営者は、市場を見てその市場に対応しようとするが、ぶれない経営者は自らの理念を持って市場を作っていこうとする
マーケットを見て対応しようとする経営者は、柔軟な対応を心がける。その結果、方針を覆し、別の戦略を組み立てようとする。もちろんそれを悪いこととは言わない。だが、それは失敗する。そういうものだ。
 反対に、ぶれない経営者は、たとえ商品が売れなくても(その商品が世の中にとって必要だという信念があれば)動じない。
(略)
ビジョナリーカンパニーとは、〜新しいことでもそれが基本理念と合致すると判断したら、果敢に挑戦する企業のことである。ここで重要なポイントは、基本理念に合致するという点だ。基本理念を曲げてまでやることはいけない。

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