21世紀美術館、金沢旅行

週末に金沢の21世紀美術館に行ってきた。
もともとは杉本博司の「歴史の歴史」展を観ておきたいというボクの希望から始まったのだが、どうせ金沢まで行くのだから、いろいろ観てまわろうということになり、一泊の小旅行となった。

金沢への道中で中谷宇吉郎 雪の科学館へ寄った。中谷宇吉郎は「雪は天から送られた手紙である」という言葉を残し、雪の結晶の生成を解明した科学者だ。
館の設計が磯崎新ということで、建物自体もなかなか魅力ある作りになっているが、中も予想以上に面白かった。さまざまな実験が実際に体験できるのだ。
氷が内部から融けるときにできるチンダル像を実際にその場で作って観てみる実験や、ダイヤモンドダストを作る実験、ただの水が一瞬で凍りついてしまう過冷却など、子供から大人まで楽しめる実験プログラムが用意されている。

金沢についたのは13時過ぎで、軽く昼ご飯を食べたあとで目当ての21世紀美術館へ。噂には聞いていたけれど、こんな素敵な現代アートの美術館が市内にあって解放されているというのは羨ましい限りだ。建物の作りもチケットも各ホールの設置されているリーフレット類もなにもかもきちんとデザインが施され、ある一つの世界観を構成している。
21世紀美術館は新しい美術館の1つのあり方を示していると思う。こういう美術館が成功したというのは素晴らしいことだ。京都にも現代アートの本格的な美術館が出来てくれないものかなと思う。

お目当ての杉本博司の「歴史の歴史」は、「アートとは技術のことである。」という杉本さんの序文で幕を明ける「歴史」の相対化プロジェクトだ。歴史を通じて新たなアートを技法的・科学的に捉え直し新たなインスタレーションを生み出そうという目論見だろうか。
杉本さん自身が収集してきたの考古物や美術品、あるいは18世紀医学書、第二次世界大戦時のタイム誌といったまさに「歴史」の断片を切り取る様々なオブジェクトを展示しつつ、自身のいくつかの写真作品を展示している。杉本さんのコレクションの多様さと範囲の広さには驚かされるが、天平期建立の当麻寺東塔の古材と実物大の写真とのインスタレーションの空間は単なる歴史のコレクション展を超えた力を感じたし、放電をそのまま焼き付けた「放電場」のシリーズは偶然性の驚きとその写真の背景にある科学や技法の成立といったものを語っているように思えた。
しかし何よりも感動的なのはやはり最後の部屋に展示されていた「水平線」のシリーズだ。これにはつくづく魅入ってしまった。海の色、空の色、横一直線の水平線。ミニマリズムといってしまえばそれまでなのかもしれないが、1枚1枚、1カ所1カ所の写真の海のさざ波、水平線と空との切れ目、雲の漂いなど、そこには驚くような差異が広がる。見つめれば見つめるほど差異は広がるのに、全体として眺めれば、要素を眺めればすべてが同じようにあることの驚き。プリントの美しさ、細部の美しさは誰もが魅了されるだろう。

同時に開催されいた「コレクション展II」も観た。こちらは「shell – shelter:殻 – からだ」をテーマとした企画展だ。奈良美智やデミアン・ハーストといったボクでも知るような有名現代アーチストたちが作品を提供している。
出展していた人のなかで一番興味をそそられたのはベアトリス・ミリャーゼスという人だ。ブラジル生まれらしが、その作品はどちらかとうと北欧を思い出させる。洗練された色彩感覚が魅力的なのだが、この人の最大の魅力はコマーシャリズムというか、あえて商業主義的な匂いがキャンバスからしてくるところじゃないかと思う。今すぐにでも、どこかの有名ブランドとコラボレーションできてしまいそうな感じが漂ってるのだ。
もう1人。アンジェロ・フィロメーノの作品も中心にあるヘビーさと素材や表現の軽さとの対比は面白いと思った。ただ、生理的にちょっとその「ヘビー」なところってのが受け入れられないのだが。

「歴史の歴史」と「コレクション展II」が有料の特別展示だったが、スタイリストの大森ようこさんとキャンドルアーチストのマエダサチコさんのコラボによる「不自由な夢」という無料の展示も開催されていた。嫁は大森ようこさんのことが大好きだったので予想外にそんな展示が観れたことにかなり感激していた。

翌日は、徳田秋聲、室生犀星の記念館をまわった。徳田秋聲記念館でしか買えない文庫本を2冊買ってしまった。こういう限定本に弱い。徳田秋聲を中上健次、古井由吉といった現代作家達も絶賛していたのは知らなかった。
ボクは「」ぐらいしか読んでおらず、読んだ当時もそんなに感じ入った覚えもないのだが、再度これを期に読み直してみようと思っている。この年になって読んでみたらまた違う感慨が得られるかもしれない。
室生犀星も「抒情小曲集」の「ふるさとは遠きにありて思ふもの/そして悲しくうたふもの」ぐらいしか知らなかったのだが、小説もけっこう面白そうだ。生い立ちでの屈折が相当色濃く小説に反映されているようで、裏側を知って読んだほうが面白そうではある。

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