「ウォッチメイカー」(ジェフリー ディーヴァー )どんでん返しのインフレ

4163263306 「ウォッチメイカー」─ 四肢麻痺の天才リンカーン・ライムを主人公としたシリーズとしては七作目だそうだが、ボクは初めて手にとった。2007年度のミステリー小説の賞を総ナメにしたという踊り文句、リンカーン・ライムシリーズの最高傑作という呼び声が高い。あまりこの手の海外ミステリーは読まないのだけれど、このシリーズは一度読んで見たいと思っていたのだ。

なるほど、確かに面白い。まず、なんといってもリンカーン・ライムだ。彼の天才ぶり。科学捜査、客観性、事実の積み重ねを重視する彼の操作スタイルは、ちょっとしたヒントから事件を華麗に解決していく古き良き「探偵スタイル」とは一線を画すが、それが逆に新鮮だ。小説の途中、途中に挟み込まれる捜査中で判明した事実を書き連ねたメモは、読者に「謎」の真相は、リンカーン・ライムが得ている事実や情報を同じ中にある、ということを伝え、読者とリンカーン・ライムの謎解き競争に誘う。もちろん、勝てるわけがなくライムが勝利し、読者はライムの天才ぶりに驚きを受けるのだろう。
また、本作には、キネシクスの専門家キャサリン・ダンスという人物も登場する。会話中などの人の些細な反応や表情を読み取り嘘を見抜いたり、真相を導き出したりする手法を駆使し本作の真相解明に大きな手柄をたてる。ライムの科学や事実の裏付けに基づき、限りなく主観を排除していく捜査手法とは明らかに対立するキネシクス手法ではあるが、やがてライムもその有効性やダイスの能力を認め、捜査への協力を要請する。ライムとダイス。二つの正反対の捜査手法から、徐々に謎が解明され、事態は予想も付かないような真相を明らかにし始める。中盤から後半にかけての怒涛の「どんでん返し」。どんでん返しのインフレ状態。どんでん返しが好きならば、これだけの味付けや仕掛けというは、嬉しくてたまらないだろう。よくぞまぁこれだけの物語を1つの物語に詰め込んだものだと関心してしまう。

しかし、個人的には、この小説を読んでつくづくミステリーとか謎解き小説の問題というのは、小説自体の文量というかボリュームだということをいまさらながらに感じた。最近のものは、どれだけどんでん返しを用意するのか、そのどんでん返しが、どれだけ読者の予想を裏切れるのかというところが、この手の小説の面白さの一つとして捉えられるのだろうけれど、小説の途中で暴かれる真相やら犯人やらというのが、「途中」であるがゆえに、ひっくり返るということが誰にでもわかってしまうという問題だ。「途中」かどうかというのは、もちろん、小説の物理的な量によって明らかだ。
本作でも、どんでん返しのオンパレードなのだけれど、下巻開始すぐに明らかにされる真相は、明らかにその後ひっくり返るってことはわかるし、あとどれぐらいの文章量の残してるのかということを気にしたら「これがこのまま行かない」ってことも簡単に読み取れてしまう。物理的な量・ボリュームをもった書籍という形態は、ミステリー分野のように、物語の終盤にすべての真相が明らかにされ、クライマックスがあるということが明らかな小説形式では相当の制約だ。
ということを考えると、電子書籍でページ番号を隠したり、ボリュームを推測できないようにしてしまうと、ミステリー特有のこういう問題は解決できるのかもなぁという気もしたり。(人はどれだけのボリュームがある小説なのかがわからないと、そもそも読み進めていく気力がなくなる、みたいなこともあるだろうけど) 多分、そのうち、こういう物理的な書籍の制約を電子書籍で逆手にとるようなトリックや仕掛けの小説が生まれてくるだろう。


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