星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則

4822264114 星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則─本書自体で経営やマーケティングが学べて、それで十分というような本ではもちろんない。
本書は、普通に誰がも数千円ぽっちりで手にすることができるような経営書の内容を忠実に実行することで、実ビジネスで成果をもたすことができるんだ、ということ教えてくれる。その考え方にすごく勇気づけられる。自分にも同じような経営が出来るんじゃないかという希望を抱かせてくれるのだ。

紹介されている本の大部分が超メジャー、経営書やビジネス書をかじったことがある人なら一度は聞いたことはあるであろうものばかりだ。

実際、紹介されている本のほとんどはボクも読んでいて、しかもどちらかというと愛読書というか思い入れのあるものばかりだ。ポーターの「競争の戦略」なんかは「競争戦略論」とあわせて何度も読み返してるし、ペパーズ&ロジャーズの「ONE to ONEマーケティング―顧客リレーションシップ戦略」、ジャック・トラウトの「売れるもマーケ 当たるもマーケ―マーケティング22の法則」(もちろん「ブランディング22の法則」も)、A・アーカー「ブランド・エクイティ戦略―競争優位をつくりだす名前、シンボル、スローガン」あたりも一時期マーケティング関連の本を読みあさってたときにたぶん一番しっかり読んだ本だ。そしてジェームズ・C・コリンズとジェリー・I・ポラスの「ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則」。会社のビジョンやミッション、行動規範などを考える上で大きい影響を受けた。この本に出会ったことが会社とは何かということを真剣に考えるキッカケを与えてくれた。

どの本もボク自身にも思い入れもあるし、何度も読み返し線を引いたり、そこの一節をまるまる書き写しては社内の人たちにメールしたり。その意味では、ボクとしてはよく参照して使ってきた本だと思う。実際の経営で悩んだときも、これらの本のなかからヒントを得て、いくつかの決断を下したものも少なくはない。

でも、星野リゾートでの使い方とは全然レベルは違う。星野リゾートは、これらの本を「教科書」として扱う。だから、内容をしっかり理解するために「1行ずつ理解し、分からない部分を残さず、何度でも読む」。そして、「理論をつまみ食いしないで、100%教科書通りにやってみる」。これが大事だと言い切る。

ボク(ら)は、ついつい「教科書」の事例は海外企業のものだからとか、グローバル企業の事例だからとか、規模や業種が違うからと、何かと理由をつけて「つまみ食い」をする。導入しやすいところ、簡単にできそうなところから手を出すことが多い。しかし、それではダメだと星野さんは言う。

「3つの対策が必要だ」と書かれていたら、1つや2つではなく、3つすべてに徹底的に取り組む。そうすることによって初めて教科書の理論が効果を生む。

教科書通りにやってうまくいかなくても、教科書通りにしていて成果がでていない場合には、戦略を変える必要はない。とにかく再度、教科書を点検して、教科書通りにできていないところがないか調べ上げ、すべてやり切る。

ここまで教科書に絶対的な信頼を置くというのは、これはこれですごく難しいことだ。そのまま真似する、というのはアイデンティティや、自分たちのオリジナリティみたいなものを捨てるような気がしてしまう。ついつい「自分(達)なり」というところで色気を出してしまう。

そういれば、少し違う事例ではあるが、株式会社武蔵野の小山昇さんは、他の会社がやっててうまくいってることは、そのまま真似をすればいいんだ、というようなことをいつも言っている。下手にアレンジしたり、オリジナリティを加える必要はない。忠実に真似することを考えろと。これなんかも星野さんの考え方に近いところを感じるし、ある種、経営は、何か信じるものや一貫したものを徹底して実行していくことが最重要なんだということを教えてくれているようにも思える。

星野さんは、経営の「教科書」としての本は、著者が研究者として有名であったり、コンサルタントと大学教授を兼任しているようなものが良いと薦める。経営者の成功譚は「直感的な経営センス」の話が多いので、それらは教科書にはならない。

私が参考にする教科書の多くは、米国のビジネススクールで教える教授陣が書いたものだ。彼らは「ビジネスを科学する」という思想の下、数多くの企業を対象に手間と時間をかけて事例を調査し、そこから“法則”を見つけ出し、理論として体系化している。その内容は学問的に証明され、一定条件のもとでの正しさはお墨付きなのだ。

そう。これらの本に書かれたことは、セオリーであり、科学されたものだからこそ、それを教科書として、徹底して忠実に実践するということを信じていけるというわけだ。
そして実際に星野リゾートが手がけたホテルや旅館の改革やマーケティング戦略改革などと、その戦略の下敷きとなった「教科書」が紹介されていく。各々の「教科書」の内容と、実践の模様はそんなに深くは語られていないので、本書だけで、これらの経営・マーケティング理論をわかったようになるのは危険だろうけれど、エッセンスみたいなものは汲み取ることができる。

本書に刺激を受けて、再び、本書で紹介された「教科書」のいくつかを読み返し始めている。でも、星野さんが懸念されていたように、中途半端な「読み」と「理解」で、中途半端に導入というのは一番ダメかもしれない。導入するとするなら徹底的に。これを忘れないようにしなくては。



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コメント

  1. 【読書メモ】星野リゾートの教科書 中沢康彦...

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