ボトルネック/パラレルワールドもの

4103014717 「ボトルネック」新幹線の移動に軽く読めそうなものと思って、駅の本屋で買ってみた。「このミステリーがすごい! 2010年度」の作家別投票の1位だったそうだが、僕はこの人の作品を読むのは初めて。最近だと、「インシテミル」が映画化になったことでも話題になっている。

4812400244いわゆるパラレルワールドもの。僕が初めて「パラレルワールド」という言葉を知ったのは、小学校の低学年の頃で、わりと早めだ。石ノ森章太郎の「番長惑星」という漫画を親戚の家で読んだのがキッカケだ。確かその1巻にパラレルワールドの説明があった。この世界には1秒前の世界、2秒前の世界というように、いくつもの時間があり、それぞれの時間にそれぞれ別の世界が広がっている、みたいな説明があったように記憶している。この概念に僕はいたく興奮した。この世界には、いくつもの世界が並行に多重に存在していて、ふと何かのきっかけで、自分が今、生きてる時間とは異なる時間の世界に行ってしまう可能性があるのではないか。そんなことを想像して胸を踊らせたものだ。

僕がタイムマシンものの小説だとか、可能世界の話に惹かれるのは、幼少期にこういう概念に強い影響を受けたことによるのだろうけれども、とにかく、パラレルワールドものは僕の好きな話の1つなので、この作品も期待して読んだ。

主人公の「ぼく」は「自分が生まれなかった」世界に来てしまう。その世界では、「ぼく」の代わりに「姉」が生まれていた。「ぼく」の世界と、「姉が生まれてた」世界の違いは、生まれたのが「ぼく」か「姉」かの違いだけだ。しかし、その世界はまったく違うものになっていた。「ifもしも」の世界だけれど、そもそも自分が生まれなかった世界と、そうじゃない世界の比較を、ごくごくありふれた日常風景や世界でやるというのは、なかなか面白いアイディアだと思う。「ifもしも」ものは、歴史そのものを扱うようなおそろしく大きい規模の話か、ほんとにどうでもいい超日常の世界に焦点を合わせた、どちらかというとギャクやユーモアものによったものか、極端なものが多い。

さて、小説自体は面白いんだけど、でも、最後まで読んで、正直、なんという後味の悪さというか、ちょっと悲しすぎてやりきれない思いが残ってしまった。読者の多くは「ぼく」が感じる絶望と同じような気持ちを味わいながら読んでいったとは思うけれど、多分、多くの人は、最後にはこのやりきれなさは、何かしら解消してくれるんじゃないの、という希望を持って読み進めてたのではないだろうか。僕もそのうちの一人なのだ。しかし、最後の最後まで、このやりきれなさは解消されず、むしろ、「ぼく」にはただ絶望だけが残される。なんという仕打ちか。

せっかくなので、パラレルワールドものをいくつか紹介しておく。パラレルワールドものといえば、昨年爆発的なヒットになった村上春樹の「1Q84」もそうだろうし、同じ村上で言えば、村上龍の「五分後の世界」もそうだ。「五分後の世界」は、村上龍の作品の中でも好きな作品の1つだ。いかにも龍らしいというか、戦後の日本とか世界そのものを相対化してみようという大きい試みだが、きちんとエンターテイメント性も兼ね備えている骨太の作品だ。
アニメでも話題になったけれども、森見登美彦の「四畳半神話大系 」(参考:「四畳半神話大系 (森見 登美彦) – papativa.jp」)もある意味、並行世界ものの傑作だ。

数学的にありえない」は、パラレルワールドものではちょっと異色の作品だ。タイトル通り「ありえない」ことのオンパレードだが、そこの数学やら量子力学やら、物理理論やら、それっぽいものが放りこまれて、多少の説得力や納得感を産み出そうとしてるんだろうけれど、でも、やはりあまりにも荒唐無稽過ぎてついていけなくなる人も多いんではないか。いくらなんでも可能世界をすべて計算するなんてことは出来ないよ。

4152090596タイムマシンが絡む話もパラレルワールドものの王道のひとつだろう。タイムマシン絡みで言えば、ハインラインの「夏への扉[新訳版]」。すごく好きな作品のひとつ。去年の夏に新訳が出てて、久々に読み返したら、初めて読んだときに較べると、感動するところが少し違ってて面白かった。初めて読んだのは多分高校か浪人時代だけれども、その時は、純粋にストーリーの面白さに感動したわけだけど、去年読んだ際には、このストーリーでタイムスリップする時代が、すでに「過去」になってて、そのギャップについ感傷的な気分に襲われてしまった。
この時代に読むと、この作品が想像した「未来」は、苦笑してしまうところもあるけれど、でもストーリーそのものが持つ力は全然損なわれてはいないと思う。読むと、未来への希望とか夢とかそういったものの大切さというか、明日へ前向きに向かい合おうという気になる。

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