書きあぐねている人のための小説入門


「小説入門」であり、「小説技法入門」ではない。
ある種、保坂作品によせられる数々の紋切り型の批評(ストーリーがないとか)への返答であり、現代小説、小説家の志の低さへの痛烈な批判本ともとれる本書。
この本にも書いてあるように、この本を読んで、この本の通りに、「小説を書くとはこういうことだったのか」と喜ぶような人は小説家にはなれないだろう。

小説とは、”個”が立ち上がるものだということだ。べつの言い方をすれば、社会化されている人間のなかにある社会化されていない部分をいかに言語化するかということで、その社会化されていない部分は、普段の生活ではマイナスになったり、他人から怪訝な顔をされたりするもののことだけれど、小説には絶対に欠かせない。


読み終わったあとに、「これこれこういう人がいて、こういうことが起きて、最後にこうなった」という風に筋をまとめられることが小説(小説を読むこと)だと思っている人が多いが、それは完全に間違いで、小説というのは読んでいる時間の中にしかない



保坂さんの小説感というのは、読んでいて潔い。今、ここまで小説というものに対して志の高い人も少ないのではないか。保坂さんの小説感とは、文章や、テーマが社会的、現代的とかってことや、風景描写がよく描けている、ストーリーが面白い、キャラクタが良いといったもろもろの技法的、技術的なことではなく、読みながらいろいろなことを感じたり、思い出したりするものが小説であって、感じたり思い出したりするものは、その作品に書かれていることから、いかにして全体として、言語化されえない感動を言語化するか、また、何かに抱いた感情や感覚や違和感の、その最初のエネルギーをどうやって文字のなかに引き込むかといったことに関心が集中している。
これは何も小説について言えることだけではなく、アートに関わる人が皆意識しなければならないことだろう。

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