Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール

Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール
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Yコンビネーター(YC)と言えば、僕らの業界では知らない人はいないというほどの存在感を持つベンチャーキャピタルだ。ドロップボックス、Heroku、Airbnb、redditなど。一度は名前を聞いたことのあるベンチャーを生み出したことでも有名だ。

しかし、YCは、多くの人がイメージするようなベンチャーキャピタルとはかなり違った独自の仕組みを持っている。本書を読むと、YCが、ベンチャーキャピタルというよりも、むしろスタートアップの養成学校という印象を受けるだろう。(タイトルにも「最強のスタートアップ養成スクール」とある。YCには、その呼称がぴったりはまる。)

本書では、そんなYCの投資スタイルや、スタートアップ養成の様を、その内側から、ドキュメンタリーとして追いかけている。スタートアップたちのYCの審査、そして怒濤の3ヶ月、最後のデモ・デーまでを精緻に追いかけながら、YCの思想や理念、そして常にスタートアップを生み出し続けるアメリカ、シリコンバレーの強さみたいなものを描いていく。
面白くないわけがない。なんだろうこのワクワク感は。世界を変えるかもしれないベンチャーが、今まさに、この本の中で戦っているのだから。本書内でもかなり高い評価を受けてたスタートアップとして紹介されているパース(Parse)。所謂モバイルアプリ版のHerokuのようなものだが、ここは先日facebookに買収されたばかりだ。今まさに、オンタイムで、本書内で登場したベンチャーたちが世界に羽ばたこうとしてるのだ。
少なくともこの業界にいる人で、ビジネスやサービスに興味ある人ならば、一読をオススメしたい。良い刺激が得られるはずだ。

YCの強さ、というよりも、それはアメリカという国が持つ寛容さが背景にあることは間違いないのだが、とにかく、スタートアツプのほとんどは失敗するのだ、という前提にたっていることだろう。そして、ほとんど失敗するからこそ、リスクの少ない若いうちにチャレンジすべきだという信念がある。なんと羨ましい考え方だろうか。日本でも最近こそスタートアップへの理解も随分とましになり、若者の起業心も徐々に芽生えつつあるようにも思えるが、しかし、アメリカの、シリコンバレーの温度感や土壌とはやはり較べものにはならない。

従来のVCは、実は、基本的には勝利が見えてきた段階で投資を行う。しかし、YCは違う。そういったVCがまだ投資したがらないような若く、まだまだ荒削りとも言えるベンチャーに投資を行う。だからこその、複数のスタートアップへの一斉投資、そして三ヶ月という限られた時間での徹底した支援、そして三ヶ月後の何百人という有力投資家を集めての一斉お披露目会(デモ・デー)を行う。このサイクルを年二回まわすことで、何百というベンチャーに一気に投資し、それらのベンチャーのイグジットや、次期ラウンドの投資までを効率よくまわす。どの企業が未来のドロップボックスになるかなんて誰もわからない。わからないからこそ、できる限り多くのスタートアップに小額でも投資を行うこと。これがYCのスタイルだ。

YCの面接や、スタートアップのYCとの三ヶ月間(YCが投資するにあたって、重要な一つの条件がある。それは、出資を受け入れるチームは、3ヶ月間シリコンバレーで過ごさなければならないということだ。シリコンバレーに住んでいないチームは、当然、引っ越ししてこなければならないのだ。この3ヶ月の期間、チームはYCのパートナーたちの助言を受け、毎週ゲストを招いた夕食会に出席しなければならない。) の模様を、本書ではいくつかの実際のスタートアップの様子と共に描くのだが、YCのスタートアツプに対しての考え方、プロダクトやサービスへの考え方などは、普通に僕らのようなベンチャー企業での新しいサービスや事業の展開時の考え方としても非常に参考になるものがあった。いくつか興味深かった箇所を引用しておこうと思う。

「スタートアップの本質は単に新しい会社だという点にはない。非常に急速に成長する新しいビジネスでなければいけない。スケールできるビジネスでなければいけないんだ」とポール・グレアムは説く。だからプログラマーがウェブサイトのデザインについて助言するコンサルティング会社を創立しても、グレアムの定義によれば、それはスモール・ビジネスの開業であってスタートアップではない。しかしウェブサイトの構築を自動化し容易にするようなソフトウェアを開発する会社を作るのならそれはスタートアップの起業だ。

「いいか、アイデアを生み出すための3カ条だ。1.創業者自身が使いたいサービスであること 2.創業者以外が作り上げるのが難しいサービスであること 3.巨大に成長する可能性を秘めていることに人が気づいていないこと」

「急いでローンチしろ」はポール・グレアムの口癖だ。なにかアイデアを思いついたら最小限動くモデルをできるだけ早く作れ。作りかけのプロトタイプでもかまわない。とにかく現実のユーザーの手元に届けて反応を見る。そうして初めてそのプロダクトがユーザーが求めていたものなのかどうかがわかる。急いでローンチすることによって人が求めているものがわかるのだ。

「数字で測れるものを作れ」数字で測ることは、プロダクトのパフォーマンスのある側面を注意深く観察することにつながる。それがプロダクトの改善をもたらす。グレアムは売上やユーザー数のようなスタートアップにとって必須となる重要な項目を選んで毎週、成長目標を設定するように勧める。目標達成に直接関係しない要素はとりあえず脇にのけておく。
 グレアムによれば、毎週10%の成長を目標にすべきだった。
(略)
その目標を達成するのにどうしても必要な仕事はどれとどれなのか、適切な時間の使い方を必死で考え抜く必要がある。新機能の開発に3週間かける前に自問すべきだ。この作業は成長目標を達成させるためにどうしても必要か? 3週間もかける前に、もっと簡単なバージョンを1日で書いて、ユーザーがそれを気に入るかどうか試してみるべきではないのか? メデイアに対して1日かけてプロダクトの説明をする前に、それによってサイトに何人のユーザーが増えるかを考えるべきだ。それがつまり、数字で測れるものを作るということなのだ。

「ハッキングが得意で、かつ営業に積極的でなくてはだめだ。われわれが投資する相手は全員ハッキングが得意だ。それは見ればわかる!」むしろパートナーが見過ごしがちなのは、営業に挑戦しようという意欲だ。
「私が営業と言ってるのは単に電話をかけて売り込むという意味ではない。外へ出て顧客と話し彼らが何を求めているかを知ることだ。では、どうすればよいか。営業を優先することだ。すべての時間を営業に費やして、ハッキングを副業にするということだ、わかるな?」

創業者は必ずふたり以上は必要だが、多すぎてもいけない。(略) YCの経験から言って創業者4人は多すぎる。意思決定が煩わしすぎると言った。「スタートアップを国連のようにしたくはないはずだ。あれは最小の物事を成し遂げるための一種の民主的プロセスだ」

「もし、いくらでも欲しいだけ資金があったとしたら、どのくらい早く成長させられるかね? もちろん、私がこれを聞くのは、VCたちが聞くだろうからだ。『山ほどの資金で何をやるつもりなんだ?』とね。なぜなら彼らの仕事は、山ほど金を渡せば非常に早く成長するものを探すことだからね」


また、興味深かったは、グレアムが考えるスタートアップが誕生する条件だ。ポール・グレアムは、「スタートアップは農業の発明、都市の発達、工業化と同じぐらい大きな衝撃を経済システムにもたらす革命だ」と言う。そして、スタートアップという存在を可能にするには「金持ちとハッカー」がいれば良いと語る。この二種類の人間は同じ場所にいなければならない。他の人間はどこにいてもいいのだそうだ。
そして、グラアムはこのように語っている。

グレアムは「自治体が1000のスタートアップに100万ドルずつ出資すればよい」と言った。必要な資金は一見そう思われるほど巨額ではない。

「野球やフットボールスタジアムを建設する程度の額だ。住み心地のいい都市なら、どこであれその程度の投資で世界的なスタートアップ・ハブになれる。しかしスタートアップのハブを目指す都市はハッカーたちの手に負えない気ままさを許容できなくてはならない。しかしこの手に負えない気ままさこそアメリカの本質でもある。だからこそシリコンバレーはフランスでもドイツでもイギリスでも日本でもなくアメリカに存在するのだ。こうした国々では人々は塗り絵を塗るように決められた枠組みの中でしか活動したがらない」


以前、ボクは、こういうエントリー(雇用を生み出してるのはベンチャー | papativa.jp)を書いた。

実は、雇用を生み出してるのは、生まれて間もないベンチャー企業だという統計結果から、経済の活性化には、起業の促進、起業家精神の育成というのが重要なのではないかという内容だ。
おそらく日本では、「金持ち」と「ハッカー」が同じ場所に揃ったとしても、なかなかスタートアップは育たないだろう。このエントリーでも書いたけれども、やはり失敗した場合のリスクが日本ではまだまだ大きいのが現状だからだ。さすがに個人保証云々で破産することはなくなりつつあったとしても、一度失敗してる人は、今の日本では何かと制約を受けることのほうが多いのは間違いないだろう。このあたりの根本的な考え方自体が変わっていかなければ、なかなか日本で他国と同レベルの起業家マインドを育てていくことは難しいのではないかと思う。

いやぁ、でも本書読んで少し安心したのは、やっぱりベンチャーってのは、どんなに頭が良かろうが、どれだけ資金を集めていようが、ユーザーを獲得していようが、がむしゃらに働き働き働きまくってナンボみたいな世界だということが分かったことだ。IT系のスタートアップ、YCの資金調達となれば、なんとなく恐ろしく頭のいいスマートな連中たちを想像してしまっていたのだけれど、ここで描かれるスタートアップたちは、まさに「24時間働けますか?」の世界を生きている。YCとの三ヶ月間は寝る間もおしみ、休みなくコードを書き続ける。作っては試し作っては試し、挙げ句には当初目論んだプロダクトやサービスとは全く違うものを二度、三度とゼロから作り直すことになるチームさえいる。でも、それがスタートアップというものだ。それがベンチャーというものなんだろうと思う。大きいリターンはそう簡単に得られるものでもない。そこには運や才能はもちろんだけれども、途方もない情熱とその情熱を注ぎ続けるための精神や肉体の強さが求められるのだ。これだけは多分、世界どこでも同じなのかもしれない。

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