モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか

4062144492モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」 ─ タイトルでなんとなく敬遠してた。一時期流行した「〜2.0」の延長で、さらに先を見越して「〜3.0」なんて言葉も使われることがあったけど、あの流れを汲んでるのかと思ってたからだ。でも、読んでみて良かった。より明確に、目指すべき方向がみえたというか。

本書の中で必読の15冊でとりあげられている「セムラーイズム」。ボクが理想の会社だと考えているのが、この本の題材のセムコというブラジルのコングロマリットだ。セムコ社は今までの経営やマネジメントの常識と言われるところから、著しく逸脱した企業運営方法によって、ハーバードビジネスレビューなど始め、世界中の多くのビジネス、経済研究者から注目されている会社だ。ボクはハーバードビジネスレビューでその存在を知り、この「セムラーイズム」や「奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ」などを読んで、この会社の考え方や、その考え方を下敷きとした斬新なマネジメント(そのものを放棄したと言ってもいい)スタイルにえらく共感を覚えた。(セムコについては、「papativa.jp – 自由奔放な会社、セムコ社。」こちらのエントリーでも取り上げた。)

自分たちで会社を興したときに、思い描いていた理想は果たして今のような会社のあり方だったのだろうか、と立ち止まって考えると、無性にもどかしさを感じずにはいられなかった。セムコほどではなにせよ、僕らが理想として考えたのは、もっと自由で、もっと自律的で、もっと大人な組織だったのではなかったか。理想としているものに対して、現実のオペレーションや規則がどうにも逆走しているのではないか。
セムコみたいな例は、かなり特殊だろうし、そこまで一足飛びに行くわけでもない。(セムコ社も長い年月をかけて、今のような会社の形にたどり着いた) でも、少しづつでも、近づいていきたい。何か、今、支配的となっているようなルールや規則といったものの前提を疑ってもいいんじゃないか。そんなことを考えていた。
でも、それが正しいのかどうか、セムコ社の事例だけでは、なかなか自信も持てなかった。しかし、この本で取り上げられている様々な事例や研究結果、実験結果を読んで、かなり自信を持てた。
時代は確実に、本書が提唱するモチベーション3.0でなければならない社会に変容しつつある。いや、今までのモチベーション2.0では通用しなくなってきているというべきか。

モチベーション3.0とは、いわば、この時代の新しいマネジメントスタイルであり、仕事や教育などのあらゆる業務の取り組みに対しての意識のあり方全体を象徴している概念だ。
モチベーション1.0とは人間の歴史がまだ浅い頃のモチベーションのあり方を意味する。それは「生き残る」という極めてシンプルな欲求だ。マズローの欲求五段階で言えば、一番下層の「生理的欲求」や「安全の欲求」レベルだろうか。とにかく、外界の危険や自然の驚異などから生き残るということが支配的だった時代の欲求のあり方だ。

やがて、モチベーション2.0の時代が訪れる。モチベーション2.0は、現代にもつづいている非常に強力な概念であり戒律といえるだろう。世界の経済発展、産業の発達は、このモチベーション2.0をうまく利用することで成し遂げられてきた。
それは、単純に言うならば、「アメとムチ」によるモチベーションということになるだろうか。報酬を求める/罰を避けるという、二つの意識をベースとしたモチベーションのあり方、それがモチベーション2.0だ。
今もなお、多くの企業や組織、あるいは家庭や教育などでは支配的となっているモチベーションの考え方だ。
仕事で考えるならば、モチベーション2.0のベースとなる考え方の前提は、人々は何かしらの報奨、インセンティブがなければ仕事に熱心には取り組まない、あるいは、何かしらの罰則がなければ真剣にはならない、というようなものだ。

しかし、著者は、このモチベーション2.0の前提や考え方に疑問を呈する。そして、心理学的なさまざまな実験や検証、また成功している企業や教育現場などの事例を元に、モチベーション2.0は、旧時代的な考え方であり、これからの新しいモチベーションとして3.0を提示する。モチベーション2.0がうまく機能するのは、単純作業やルーチンワークなどであり、現代のクリエイティブや発想、アイディアなどが求められる「ヒューリスティック」な仕事や業務においては、モチベーション2.0をベースとするマネジメントスタイルは、むしろマイナスの影響をもたらすことになると指摘する。

いくつかの面白い事例がとりあげられてる。

(1) 何種類かのゲームに挑んでもらう際に、そのゲームの成績に応じて金銭的なインセンティブを設定した場合、そのインセンティブによってゲームの成績はどう変化するのかという実験を行ったところ、多くの人の予想に反して、高額のインセンティブが設定されたグループであればあるほど、ゲームの成績がひどくなるという結果となった。

(2) 芸術家たちに受注作品と自主制作品を無作為に作品を選んでもらい、それを他の芸術家や学芸員に渡して、作品の創造性や技術について評価してもらった。(評価者はこの実験の内容やどの作品が受注か自主制作品かは知らない) すると、注文作品は自主的な作品と比べて、技術面での評価には相違ないが、創造性の面ではるかに劣ると評価された。

(3) 女性を3つのグループに分けて、1つのグループには献血は任意・無償。1つのグループには、献血すると約7ドルの謝礼金が支払われる。1つのグループには、謝礼金7ドルが支払われるが、その7ドルは、そのまま小児ガンの慈善事業に寄付する、というように設定した。はたして、各グループの献血率はどうなったか?1つめのグループは52%の女性が献血すると決断。2つめのグループでは献血率は30%に低下。3つめのグループは53%の人が献血を選んだ。

(4) 「ある行為に対してネガティブな結果(罰金など)が科されるとき、その特定の行為は減少する」との考えから、閉館時間までに保護者が迎えに来なければ罰金という制度を敷いた保育園は、その罰金制度を導入した後、遅刻者は制度施行前の2倍に増えた。

なぜ、ヒューリスティックな領域ではモチベーション2.0はうまく機能しないか。大きな原因のひとつは「内発的動機が損なわれる」からだ。金銭や罰を条件にしてしまうと、短期的にはその条件のために短期的には頑張るが、長期的にはそのものに興味を失わせてしまう、自律性がなくなり金銭や罰のためにが第一義になる。その状態では発見やクリエイティビティは発揮されなくなってしまうのだ。

では、モチベーション3.0とはどのようなものか? 

そのキーワードとして著者は、自律性マスタリー(熟達)目的という3つの言葉を掲げる。特にこの中でも「自律性」というキーワードに注目したい。

自律性というキーワードを最も極端に体現する事例として、本書中で取り上げられてる完全結果志向の職場環境、ROWE(ロウ:results-only work environment)は、極めて興味深い制度だ(こんな記事もある→米国で進行するROWEという名の労働革命 – ニュース – nikkei BPnet)。ROWEを導入した職場には、勤務スケジュールがない。決まった時間にオフィスにいる必要もなく、オフィスに来る必要もない。自分の仕事をやり遂げ結果を出せば良い。言ってみれば「自由」。裁量はすべて従業員にある。そう。このやり方はセムコ社が取り入れてるやり方とほぼ同じだ。従来の経営学やマネジメント学から考えれば、こんなものがうまくいくわけがないとなるが、結果はどうか。ROWEを導入すると、以前より生産性は向上、ストレスも軽減、離職率も低下したという。

もちろん、本書ではあまり触れられていないが、実際のところ、ROWE自体には色々な問題も指摘されているし、どんな業種、職業においても導入可能というわけでもない。
しかし、ROWEという制度がどうかというよりも、その考え方の下敷きとなっている、スタッフが自発的、自律的に動くような、働きたくなるような環境を作ることが重要だという考え方は、これからの企業や組織のあり方を考える上では無視することはできないだろう。監視していなければサボるとか、罰則がなければキチンとしないとか、報奨がなければ頑張らないとか、そういう考え方は捨ててしまったほうがいいのではないだろうか。
本書に何度も登場するけれど、多くの人たちは、仕事とは苦痛で、仕事は否応に迫られて取り組んでいるもので、だから賞罰がなければいけないという考えは、そもそも大きな間違いなのだ。ボクらが趣味やゲームなどに熱狂的に取り組み、熟達していくのと同じように、仕事だってそういう対象として取り組むものになりえるはずなのだ。
(自律的な取り組みを促す最低条件として、家族を養っていくために、生活をしていくために必要な十分な一定報酬が設定されていること、という指摘も見逃してはならないことだが)

セムコ社は「従業員を大人として扱う」というポリシーを掲げている。何から何まであれをやれこれをやれ、これをやってはダメ、あれをやってはダメと規制や監視をすることは、従業員を「子供」として扱うことだ。しかし、従業員たちは皆、分別もわきまえた大人だ。彼らを信じること、彼らを大人として扱えば、必ず彼らは大人としての対応や行動をとってくれる。それでも会社にとって不利益になるような行動をとるような従業員がいるとしたら、それはそんな従業員がいること自体が問題なのだという考え方。言うのは簡単だけど、その信念を貫き、あらゆるオペレーションや企業活動をその理念にフィットさせていくということは並大抵のことではない。でも、セムコはそれを成し遂げている。
しかし、セムコが特殊なわけではない。ROWEのようなももを導入する企業が増えていきてるというのは、実は、今まで、自分たちが信じていた、依拠していた考え方が間違っていたということなのかもしれないのだ。

本書では、モチベーション3.0を促進させるような取り組みとして企業の現場や子供の教育の中で、こんなことにチャレンジしてみてはどうかというツールキットまで用意している。本書内に取り上げれた事例のまとめでもあるが、うちの会社でも取り組めそうなものはあるかもしれない。忘れないようにメモしておこうと思う。

20%ルールを試してみる
最近だと、Googleがこの制度で有名になっているが、もともとは3M社の15%ルールが発祥。3Mはこの15%から、世界的な大ヒット商品「ポストイット」を生み出したことは有名。
いきなり20%が無理なら10%からでもいい。それなら5日間の勤務時間の1日、ご後だけをあてればいい。永続的でなく半年と期間を区切って試してみるなど。

同僚間で「思いがけない」報酬を推奨する
キムリー・ホーム・アンド・アソシエイツという土木会社が始めた報酬制度。誰の許可も必要なく、どんなときでも、社内の誰もが同僚に対して50ドルのボーナスを与えられるという制度。条件付き報酬は、モチベーション2.0的な制度だが、「思いがけない」「同僚から」の報酬は、モチベーション3.0を加速する。

フェデックス・デーを設ける
ソフトウェア会社のアトラシアンが導入している制度。従業員が選んだプロジェクトなら、どんなことでも、誰とでも取り組める日を終日設定する。その翌日には何かしら(新たなアイデア、製品のプロトタイプ、内部処理手順の改善など)を発表しなくてはならない。

平均より高い報酬を与える
前提として、社内的に見ても社外的に見ても公平な報酬制度を授けているということが必要だが、その場合、需要と供給によって決まる賃金よりも少し多めの給与を支給する。平均より高めの報酬を設定したほうが、有能な人材が集まり、離職率が低下し、生産性と社員の士気が高まる。結果的に、高めの給与は、企業コストの削減につながる。
(平均以上の報酬は、世の中の半分にしか効果がないので、早いもの勝ち)

正しい方法で褒める
頭が良いと褒めるのではなく、努力や取り組み方を褒める。努力や取り組み方がマスタリーや成長につながる。「頭がいい」と褒められる子供は、どんなことに対しても自分が本当に頭がよいのか試す試練と受け止める傾向になる。

他にも色々なヒントやアイデアがつまっている。この本を読むことだけでも、モチベーションが高まるかもしれない。これからの仕事や会社をこうしていきたいと思わせるものが詰まっている。特に、経営者やマネジャー陣にはぜひとも一読してもらいたい一冊だ。



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