ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション

479811121X 「ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション」─ これは良書だ。読み始めてまもなくわかった。ここには自分が抱えてる悩みや課題を解決する何か糸口みたいなものがあるはずと。一刻も早く次が読みたくなる本ってのはなかなかめぐり合えない。
まだ読み終わっていないのだけれど、本書で展開されているフレームワークや体系はとてもわかりやすく、今、ボクらが抱えている問題にすぐに応用できる。

■第一章:イノベーションの効果
イノベーションというと、まったく新しい商品やサービスの研究、開発を思い起こすかもしれないが、本書でのイノベーションという言葉の意味合いは少し違う。

本書では、イノベーションがもたらす良い結果として「差別化」「生産性向上」「中立化」の3つを上げている。
このなかで「中立化」という考え方は面白いと思った。中立化とはマイナスの要素を打ち消すこと、他社の「差別化要素」を無効化する戦略だとしてる。

中立化の例としてあがっていたのは、SUVが自動車市場に最初に登場したときに、フォードをはじめとする数社が先行者としての差別化要素を有していたが、その後、中立化を目標として他のすべての自動車メーカーが自社のSUVを提供しはじめた、というものがあがっていた。
「差別化」という最上級のイノベーションにより大きな利益を得る先行者に対して、「最上級」ではないけれども「必要にして十分」を迅速に提供することで、先行者の差別化可能期間を短くすること、これも「イノベーション」の効果としてあげている。
「中立化」という発想はなかったが、確かに競合がとってきた差別化戦略に対して、「中立化」のために何ができるか、という考える発想も確かに必要だ。

■第二章:イノベーションと市場カテゴリーの成熟度
いわゆるプロダクトライフサイクル理論や市場ライフサイクル理論から、イノベーションを捉えている。
市場ライフサイクルは、導入市場→成長市場→成熟市場→衰退市場という区分けで進んでいく。IT、テクノロジー系の製品にといては、この導入市場と成長市場との間にキャズムという大きな溝があるということを示したのが、同著者の「キャズム」だったわけだ。

それぞれの市場の特徴や、その市場における人々、顧客の反応などをまとめているが、このあたりは「キャズム」でも詳しく提示されるのでそちらを参照。

■第三章:イノベーションとビジネスアーキテクチャ
ビジネスの構造は、大きく「コンプレックス・システム」と「ボリューム・オペレーション」という2つの構造に分けることができる。
これはすごく単純なようだけれども、正直目からウロコだった。

コンプレックス・システムとは、「コンサルティング要素が大きい個別ソリューションのモデル。大企業を主要顧客とするビジネス」のことを言う。一方の「ボリューム・オペレーション」とは、「標準化された製品と商取引により大量販売市場でビジネスを遂行する」モデルであり、主な顧客は消費者となる。

この2つのモデルはまったく正反対の性質を有してる。だから、戦略立案においては、自社のビジネスモデルがコンプレックス型なのか、ボリューム・オペレーション型なのかをしっかり踏まえておく必要がある。
一方のモデルのベスト・プレクティスを他方に適用しても、それは何の意味もないわけだ。

以下に、コンプレックス・システムとボリューム・オペレーションがいかに正反対の性質を持ち合わせているモデルかということが説明される。
この決定的な違いをきちんと把握しておきたいので、大部分は本書の引用になるがメモしておきたいと思う。

▼「顧客中心」と「製品中心」
コンプレックス・システム・モデルの中心はターゲット顧客となる。
少ない顧客が大規模な購買を行うことがモデルの基礎となっているからだ。当然ながら顧客の方が購買においては大きな力を有している。
ボリューム・オペレーション・モデルでは顧客よりも「差別化された製品やサービスを大量に低いコストで提供できる手段」が重要となる。つまり、製品提供機能を中心とたビジネス構成になるということだ。

コンプレックス・システム・モデルでは多様なサブシステムを組み合わせて顧客ごとに独自の設計をつくりださなければならないが、ボリューム・オペレーションでは、大規模なシステムに統合可能なモジュールを作り出さなければならない。

▼コスト面での違い
コンプレックス・システムのソリューションにおいてはシステムの総コストを上昇させる要因は在庫価格ではなく、機会損失によるものである。
ボリューム・オペレーションの製品では、共通構成要素の価格と在庫管理がもっとも重要な点となる。

▼プロセス面での違い
コンプレックス・システムには真の意味での反復可能なプロセスはなく、継続性、予測可能性、信頼性などの要素を生み出す一貫した方法論を特定の状況に適合させていく必要がある。つまりプロジェクト管理のノウハウが重要。
ボリューム・オペレーションでは、ある程度の不確定要素は存在するが、可能な限りそれを排除することが求められる。

▼製品の提供においての違い
コンプレックス・システムでは、バリュー・チェーン内にすべての製品やサービスを完全な形で提供する企業は存在しない。ゆえにマーケティングにおける重要な考慮点はパートナーとの整合性を取ることになる。このためには、企業は市場において評価を得てなければ有利な環境をつくりだすことができない。
ボリューム・オペレーションでは製品全体がひとつのパッケージであり、バリューチェーン全体も確定している。

▼購入においての違い
コンプレックス・システムのセールスサイクルは数ヶ月、購入までには調整事項などが多々発生するが、ボリューム・オペレーションでは単純な取引で完了する。

▼価格内訳の違い
コンプレックス・システムでは、サービスはソリューションの総価格のかなりの部分を占める(50~80%ぐらいとされている)。サービスにはプリセールスとポストセールスがあり、前者は顧客が直面する特定の状況に合わせてソリューションを調整する手助け。後者はソリューションを迅速かつ確実に立ち上げる手助けを行うこと。
ボリューム・オペレーションモデルでは、サービスは製品自体に組み込まれている。

自分たちの業態ってのは、本書で例としてあげられている企業などのレベルとは較べものにもならないんで、あまり参考にならないかもしれないが、明らかにコンプレックス・モデルだ。コンプレックス・モデルの特徴にほぼ当てはまるビジネス構造を持っている。

では、じゃぁ自分たちのビジネス構造の特徴について、きちんと整理して理解できていたかというと必ずしもそういうわけではない。
時に、自社の戦略としてボリューム・オペレーション・モデルの企業の戦略やベストプラクティスを真似てしまうことがある。

単純だが、まず、自分たちのビジネスモデル、アーキテクチャがどういうもので、何が憂慮必要なポイントなのかということを理解することで、戦略立案面においてはかなりすっきりする。

この2つのモデルをシステム市場ライフサイクルの過程を重ね合わせ考えてみると、次のようになる。

▼導入市場
コンプレックス・システム型の企業が重要な役割を果たす。
まだ、ボリューム・ペレーション企業が活躍できるだけの市場が育っていないということだ。

▼成長市場
ボリューム・オペレーション型企業がコンプレックス・型企業の地位を侵食する。
コンプレックス・システム型企業は、ボリューム・オペレーション型企業が提供するモジュールや製品を統合してソリューション提供を行うので、どちらのモデルも共存が可能となる。

▼成熟市場
ボリューム・オペレーション型企業が提供する製品が主流を占める。コンプレックス・システム型の企業は、より上位の一ステムに対して自社の資源を再分配する必要に迫られる。

自分たちの身近なところの例でいくと、
例えば企業のメール配信のシステム。「メールマーケティング」が誕生した当初には、メール配信エンジンを提供するボリューム・オペレーション企業は存在しないので、コンプレックス・システム型の企業が、基本的にはフルスクラッチとか、いろんなモジュールやらエンジンを寄せ集めて統合ソリューションを提供していた。

「メールマーケティング」に注目が集まり、徐々に、メール配信専用の汎用的なシステムを提供するASP会社が登場。市場が急成長していく。ただこの時も、全体のソリューションとしてメール配信エンジンを組み込んでというところでコンプレックス・システム企業と、ボリューム・オペレーション型企業は共存ができる。

今、メールマーケティングが成熟市場かどうかというと、それはわからないが、メール配信とかその部分だけを取り上げれば、ここで1からシステムを開発して提供するような市場はほとんど残されておらず、ボリューム・オペレーション型の企業が主流であることは間違いないだろう。なのでこの市場からはコンプレックス・システム型の企業は追い出される格好となる。なので、コンプレックス・システム型の企業は、より上位のシステム─ 例えば、統合型のCRMとか、OneToOneマーケティングみたいなもの─ にたいしてアプローチしていかなければならない。

こんな感じではないだろうか。ひとまずは、第三章まで。

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