読み出したら止まらない、最高の面白いルポ「謎の独立国家ソマリランド」

謎の独立国家ソマリランド
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むちゃくちゃ面白い。この著者のルポは初めて読んだんだけど、いやぁ凄い。ほんとに面白い。
ソマリランドという不思議な国も魅力的なんだとは思うけど、でも、ここまで面白くなるのは、やっぱりこの著者の行動力と、それを表現できる文章力なんだろうと思う。ボリュームも500Pとなかなかのものだけれど、多分、ほとんどの人は読み始めると止められなくなって、一気に読み切ってしまうんじゃないだろうか。

ソマリアはよく耳にするけど、ソマリランドという名を耳にしたことはなかった。それもそのはず、ソマリランドは国際社会では国としては認められていない。ソマリアは内線による無政府状態が続き「崩壊国家」などとも呼ばれているが、その様子から著者はソマリアを「リアル北斗の拳」と名付ける。それだけでソマリアの荒廃した過酷な状況がなんとなくわかる。そんな「リアル北斗の拳」の一角に、「そこだけ十数年平和を維持している独立国」がある。それがソマリランドだ。

周辺国では紛争や海賊による略奪などが絶えない危険地帯にも関わらず、なぜ、ソマリランドだけが人々の武装解除を成し遂げられ、そして十数年に渡って平和を維持できているのか。その答えを求めて、著者が決死の潜入取材を行う。

この著者の、実際に目にしないとわからない、という信念は凄いなと思う。普通なら、ソマリランドに潜入して終わりだと思うのだが、ソマリランドだけでは本当のところはわからないと、非常に危険とされるソマリアやプントランドへも出向き、きちんと取材を行う。マジに死と隣り合わせの過酷な取材なのだが、著者の軽快軽妙な筆致が、そういうルポのありがちな重さを取っ払ってしまう。それが本書の最大の魅力なのだろう。悲惨な状況、過酷な状況でも、この著者にかかれば、それは「おいしい」話のネタになってしまうのだ。

ソマリランドという不思議な国の成り立ちや、どのようにして和平が成立したのか、この国が何で稼いでるのか、どんな産業で成り立ってるのか、みたいな話は、ぜひ、本書を読んでもらればと思う。一瞬、えっと思うようなことも多いだろうし、いや、よくぞ、そこでそういう決断ができたなと思うこともある。一読しただけでは普通ならわからないだろう、かなり複雑な氏族間のやりとりについても、著者は「氏族」を源氏、平氏、北条氏などの日本の武将たちになぞらえつつ、非常に巧妙に説明してくれる。多分、ただのルポなら、このへんの話は背景も含めて理解しようと思うと、相当に厄介で、複雑すぎて理解不可能、かなり退屈な話になってしまうだろう。しかし、ご安心を。この本では、それが実にわかりやすく、また日本人に馴染みの形で描いてくれているので。

さて、この本で初めて「カート」というものを知った。カートとは「見た目はツバキやサザンカに似た常緑樹で、葉もツバキやサザンカのように表面がてかてかしたいわゆる「照葉樹」」だ。広義で言うところの一種の大麻のようなものだろう。見かけはただの木の葉っぱのようだが、これを「枝からむしって若い葉や柔らかい茎の部分をばりばり」食べるらしい。30分〜1時間ぐらいすると、「体の芯が熱くなり、意識がすっと上に持ち上がるような感じ」がして、多幸感となぜか「人恋しさ」に包まれる。

チャット (麻薬) – Wikipedia (Wikipediaには「コーヒーや酒などの刺激物を飲みなれている人間にはほとんど効かない。」と書かれてあるが、著者によると、それはとんでもない間違いだそうだ。)

カートは日本では禁止はされてはいないようだけど、もし手に入るようなら一度、体験してみたい。お酒のように酩酊したり、意識が薄れたりということもなく、カートを噛むと、むしろ集中力が高まる。記憶を失うようなこともない。それだけ聞いてると良いこと尽くめだけど、やはり中毒性は高く、はまると毎日欲しくなるようだ。酷い便秘も覚悟しなければならないらしい。

本書内では、カート絡みのシーンが非常に多い。それぐらいソマリランドでは、カートが良くも悪くも重要な意味を持っているものなのだ。
中毒になって、プントランドの人達のように殆ど仕事ができなくなるというのも考えものだけれども、日本人も酒やタバコでストレス解消なんてことよりも、こういうカートみたいなもので、もう少し他人に寛容に鷹揚になる機会を増やすことも必要なんじゃないだろうかとも少し思った。

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