雑記
昨日の面接ではこんなことがあった。ある求職者に対して、ボクは、
「将来、起業したいとか、自分でビジネスを興してみたいとかそういう夢はありますか?」という質問をしてみた。この質問はあえて「はい、いいえ」(あるいは「よくわかりません」)で答えられるような形で質問している。その人の何が知りたいというわけではない。答えが「はい」でも「いいえ」でもかまわなくて、その答えに対して、その人がどういう考え方を持っているのかということを知りたいだけだ。
さて、その人はどう答えたか。しばし、うーんと空を見ながら考え、
「そうですねぇ。やっぱり私もお金持ちになりたくないといったら嘘になりますし、やはりお金はたくさんあるにこしたことはないんですが、でもお金のために何かするというのもそれはそれで違うと思ってるんです。」
と話し始めた。しばらくボクは聞いていた。しばらくお金が大事なところと、お金が大事ではないところの話が続き、最後に、
「ということで、私自身はあまり起業などは考えていません」と結んだ。
最初、ボクはなんのことを言ってるのかさっぱりわからなかった。最初は彼が質問を何か聞き間違えたりしたのだろうかとも思ったが、彼の最後の答えを聞いてる限りでは、きちんと質問内容は伝わっているようでだ。
そして気づいた。なるほど、彼はどうやら「起業する」「会社をつくる」を、「お金持ちになる」という意味で捉えてしまっているようなのだ。なぜ、そんな風につながったのかはわからないが、彼の中には、もしかしたら「社長=お金持ち」というような構図があって、無意識のうちに「起業する→自分が社長→お金持ち」とつながったのかもしれない。あるいは、「起業する人」=「もっとお金を稼ぎたいと思っている人」というような意識があるのかもしれない。
とにかく、彼が「ビジネス」や「起業」「社長」みたいなところに抱いているイメージが「お金持ち」であることは間違いないようだ。
「起業」や「会社を興す」ってことが「お金持ち」につながるってのもわからなくはないけれども、でも随分と偏った考え方だと思う。
会社を興して成功する確率なんて、びっくりするほど低い。成功するどころか新しく設立した会社が5年以上継続する確率もかなり低いはずだ。(以前、何かの文献で見た。でもネットによって生き残れる確率は確実にあがってるとは思う。)
創業から7、8年目ぐらいまでのうちの社長の報酬はたぶんびっくりするぐらい低かった。いまでもそのリスクとか背負ってるものの大きさに較べると、低すぎるんじゃないかと思うことはよくある。
ともあれ、彼のその偏った考えたを聞いて、もしかしたら彼のように考えている人が実はけっこう多いのではないかとも思った。
社長や役員はたくさんお金がもらえるからいいなぁ、みたいな感覚だ。それでボクも、私も、もっと出世したいと思ってもらえるならそれはそれでいいけれど、たくさん報酬をもらうということは、その分リスクもあるし、結果責任も問われるし、そのプレッシャーは半端なもんじゃないということだって、やはりちゃんと理解してもらいたいなと思うわけだ。
経営者になるというのは、お金持ちになるどころか、むしろいつも会社のことを考え続け、いつもどこかに恐怖を感じ続けながら、生きることを引き受けることなのだ。キャッシュが目減りしていけば胃が痛むし、営業状況が悪ければ、夜も眠れぬ不安に苛まれる。
投資したビジネスがうまくいかなければどうしよう。何をしてるときも、どこにいるときも、そんな不安や恐怖につきまとわれるのだ。
もちろん、そういうリスクや苦しさに代わるだけの、喜びや充実感、愉しさがあることもまた事実で、だからこそそう簡単に辞められないのではあるが。