猫退治
3、4年前ぐらいかな、あの怪し気なペットボトルが町のいたるところで目にとまるようになったのは。すごいブームだったね、あれは。ブームとしてとりあげられてなかったかもしれないけど、いやいや、「たまごっち」なんかよりはずっと流行ってたんじゃないかな。
あれ初めて見たときは、何なのか全然わからなったな。なんかのおまじないか、新興宗教かなにかとか思ってたもの。たんなる猫よけだったんだけど。あの頃って猫が爆発的に増殖したりしたんだろうかね。野良猫なんて、今も昔もかわらないぐらいいると思うんだけど、なんでいまさらみんなして、「野良猫いりません!」なんて主張するように、あんなことしたんだろう? 不思議だ。
実際、猫よけとしての効果はあったんだろうか? 猫は夜行性だから、ペットボトルが陽光できらきらするのを嫌うってのが、猫よけになる理由だったみたいだけど、僕が知る限り、「なにかしら?」というような感じで少々びっくりしてる猫はいたたものの、べつにあれで苦しんでる猫とか、あれをさけて歩いている猫とか見たことなかったな。多分効果ないんだろう。あったら今でもみんな続けてるはずだろうし。
僕の実家ではいまだに「猫よけ」が設置されているんだけどね、これが尋常じゃないんだな。玄関先から庭まで、ほとんど家主さえも足の踏み場がないぐらいペットボトルがおかれてる。どう見ても猫よけというよりは、トチ狂った魔除けなんだな。どっからそんなに集めてきたんだってぐらいものすごい数のペットボトルでね。ほらよくテレビとかでマッチ棒やらあき缶やらでお城つくりましたぁとかやってるでしょう、ほとんど「それ」状態。庭にペットボトルじゃなくて、ペットボトルの庭なんだね。僕の友だちも家にくるなり大爆笑、腹がいたくなるほど笑いがこみあげてきたみたいで、玄関先でうずくまったりしてね。猫より人間にきいたみたい。
おまけにね、ペットボトルだけならまだしも、なぜか正露丸の臭いが漂ってくる。それもそのはず、「猫は正露丸の臭いに弱い」というようなことを誰かに吹き込まれたみたいでね、家の周りに正露丸2本分ぐらいまいちゃったらしい。誰がそんなこと言ったか知らないけど、ほんと学のない人にいいかげんなこと言っちゃいけません。まあ信じるほうも信じるほうだけど、ほんとおそろしいことするものだね。そんなことしたらどうなるかってこと子供でもわかると思うけど。当然ながら、猫より家主や近隣の住民やら、ようするに人間のほうが多大な影響を被っちゃったと。ものすごくくさいからねぇ。だって、正露丸って、あまりにも臭いから、口にするときでも、できるかぎり口内にある時間を短くして、すぐに喉に通しちゃおうとかって思うでしょ。すぐ喉に通しても、それでも口に残るぐらい強力な臭いがあるというのに。あの強力な粒を何百っ個ってまいたんだから。そりゃ臭いよ。
こんな過剰とも思えるようなペットボトルと正露丸攻撃で野良猫が退散したかっていうと、全然そんなことなくて、家の塀とかをゆうゆうと歩いてたりするんだな。もしかしたら息とめたりしてるのかもしれないけどね。