「スマート・プライシング 利益を生み出す新価格戦略」

4023309524 「スマート・プライシング 利益を生み出す新価格戦略 」 企業にとってプライシングは極めて重要なマーケティング要素の1つだ。だからプライシングに関して分析した本や、プライシングの理論書などは数多く出ている。(例えば、PSM:感情価格決定法ってただの受容価格帯調査じゃ… – papativa.jp)

本書は、プライシングの理論や手法を取り上げたものではない。本書で紹介されるのは、ここ最近に登場してきた新たなプライシング方法だ。その新しいプライシングを採用する業界や企業の紹介とともに、そのプライシング手法のメリット、そのプライシングがもたらすメリットや効果、そのプライシングモデルを採用する上での課題などをわかりやすくまとめている。
紹介されているプライシングのモデルのほぼすべては、すでに世の中に登場しているものなので、ほとんどの人は知っているものに違いない。しかし、その知っていたその手法が、意外な業界や企業に利用されたり、応用されていて意外な発見がある。

顧客自らにサービスや商品の価格を決める権利を与える「ペイ・アズ・ユー・ウィッシュ方式」が、カフェやレストランなどにも利用されて持続可能なビジネスを築いてるという事例。そういえば日本でもどこかの劇場が若手の漫才師の舞台で同じような方式をとっていたと記憶してるけど、あれは今も継続してるのだろうか?
中国企業がカラーテレビや電子レンジ業界で仕掛けた大胆な低価格競争が、単に「マーケティングの無知」からではなく、自社の資産や市場、そしてその価格の妥当性まで含めて、しっかりした見通しのもとに仕掛けられた戦略だったという事実。
アメリカの大手衣料品小売企業シムズでは、すべての婦人服の値札に「その商品の全米小売価格」「シムズ価格(初めて売り場に置かれた日につけられた価格)」、「そして以後10日間隔で付け替えられる3つの価格(いずれも前の価格より安くなる)」の情報が記載されている。あらかじめ明示された日に自動的に値段が下がり、それを顧客は正確に知ることができる。常識的に考えると、このような価格方式が採用されれば、価格が下がるまでの買い控えが発生するのではないかと考えてしまいそうだが、これがうまく機能してしまう仕組みや、適応しやすい商品・業界などの分析。このモデルもかなりユニークなモデルだ。リバースオークションモデルなどは、まだまだ他にも応用できそうだ。
各章で1つのユニークな価格モデル、価格戦略を取り上げ、それらを多面的に分析していて面白いし、色々な発見がある本だ。気軽に読めるので、興味ある人はぜひ手に取って欲しい。

個人的に非常に面白かったのは「サブスクライブ・アンド・セーブ─マーケティング収益性を高める価格設定」と「成果に基づく価格設定」のところだ。備忘録として内容をまとめておく。

■サブスクライブ・アンド・セーブ─マーケティング収益性を高める価格設定
この章で扱う本題は、サブスクリプション型モデルを全体収益の最適化に活用する視点や、ディズニーやマクドナルド社などがすでに飽和しているのではないかと思われる市場でいかにして売上・収益の拡大を行ったのか、そのためにどのような視点から彼らが事業開発、マーケティングに取り組んだのか、というよなところが語られるのだが、個人的には、章の冒頭で示される、私たちが毒されがちなある「見方」に、はっとさせられるところがあった。

データマイニングや分析などの世界では当たり前すぎることだし、経営者やショップのオーナーなども直感的には理解している人も多いことだけれども、ここ近年、色々な数値やデータが精緻に取る事ができるようになったからこそ、逆に、ついつい陥ってしまいがちなことなのではないかと思う。

仮に、私たちが青果と精肉の二つの商品しか置いてない食料品店のオーナーだった場合。

青果については二つの取引しか発生せず、最初の取引からは25ドルの粗利が、二つ目の取引からは5ドルの粗利益が得られるとする。青果は合計30ドルの粗利益を生み出すわけだ。精肉についても二つの取引しか発生せず、最初の取引からは35ドル、2つ目の取引からも35ドルの粗利益が得られるとする。精肉からは合計70ドルの粗利益が得られるわけだ。その場合、われわれがその店から得る粗利益は、下図のに示すように合計100ドルにある。

利益貢献額1:商品別
このようなカテゴリー別での集計はよく見るし、企業内でもよく使われるだろう。このような集計を行えば、

われわれの関心は個々の商品カテゴリーに集中する。特定のカテゴリーのすべての取引の利益を合計するという行為は、商品中心のビジネス観、すなわち商品は基本的にそれぞれ個別の利益センターであるという見方を強化するのである。

そう、上記の図だけで判断しようとすると、わたしたちは、「それぞれの取引からの粗利額が増大するように商品カテゴリーの変動費を低下させようとするだろう。そして、広告予算が限られていてひとつの商品しか宣伝できないとしたら、われわれは間違いなく精肉を宣伝することを選ぶだろう。」さて、これの何がいけないのだろうか? 著者は、次のように言う。

この見方は異なる商品間の関連を見落としてる。オーナーの視点からの最も重要な要素─利益が出るように商品を販売すること─に関心を集中しすぎると、消費者についての重要な真実が見えなくなることがあるのだ。
(略)
さらに重要な点として、このような商品中心の収益性のとらえ方をすると、顧客の動機が見えなくなる。


さて、角度を変えて、顧客中心の見方をしてみると、また別のパターンが見えてくるかもしれない。

どちらの商品カテゴリーでも、最初の取引を行ったのは、新鮮な青果に魅力を感じてわれわれの店を利用している青果重視の顧客であることが明らかになるかもしれない。
われわれの店が新鮮な青果を置くのをやめたら、その顧客は別の店で買うようになるだろう。だが、青果目当てで来店しても、その顧客はいったん店に入ったら精肉も購入して、35ドルというあのすてきな利益を生み出してくれる。したがって、この顧客は合計60ドルの利益貢献をしているのであり、われわれは下図でこれを顧客収益性と呼んでいる。同様に、どちらの商品カテゴリーでも、二つ目の取引を行ったのは、われわれの店の精肉を気に入ってる青果にはさほど魅力を感じていない精肉重視の顧客かもしれない。この顧客の利益貢献額は合計40ドルだ。視点を変えることで、青果重視の顧客は精肉重視の顧客より20ドル多い60ドルの利益貢献を行っていることが容易に見て取れるわけだ。
 店にとっての総粗利はやはり100ドルで、数字は何も変わってないことに注目してほしい。変わったのはわれわれが数字をどのように見るかという、その見方だけだ。特定の商品について、すべての顧客、もしくはすべての取引がの額を縦に集計するのではなく、特定の顧客について、すべての商品の額を横に集計しているのである。

利益貢献額2:顧客別収益
合計の数値は何も変わっていないにもかかわらず、見方を変えただけ、視点を変えただけで、今後私たちがこのお店のマーケティングやプロモーションで行っていくことの中身は全く違うものになる。「顧客収益性」視点から見た場合、私たちはこのお店を「新鮮な野菜や果物の店として宣伝」する方が得策かもしれない。あるいは、青果に赤字覚悟の価格をつけて、青果重視の顧客をもっと集めるという策を取るかもしれない。商品ごとの利益を重視していたときに陥っていた最も利益をもらたらす商品だけを宣伝する、とは180度違う施策を取ることになる。

小売企業のビジネスは、会計上の収益性や商品単位での単純な収益性という観点ではなく、このような「マーケティング収益性」というレンズを通して眺めて見ることは極めて重要だ。これはもちろん、オンライン店舗・ECサイトの分析やマーケティング戦略においても応用できる。アマゾンなどの先進的な企業が行う各種のマーケティングは、個々の商品やカテゴリーでの収益性の最大化ではなく、全体最適が目論まれていることは言うまでもないだろう。

■成果に基づく価格設定
この章は、タイトル通り、成果報酬型、成功報酬型の価格モデルが色々な業態に広がってるということを取り上げている。
会社でもいくつかのプロジェクトで成果報酬型のモデルへの取り組みは初めているが、成果報酬と一言で言っても、そこには様々なモデルがある。
たとえば、ジョンソン&ジョンソンは、2007年に新しい抗がん剤をこの方式で販売し始めた。J&Jは、このベルケイドという名の抗がん剤を四クール投与した後、癌がつくり出す異常タンパク質が25%減少していなかった患者については、代金を全額返金する、という条件を設定した。
ファイザーも「フロリダ州と、同州のメディケイド・プログラムが代金を負担する自社の特定医薬品について、その医薬品が同州の負担する医療費を削減しなかったと独立監査法人が判定した場合には、代金の一部を返却するという契約を結んだ」。
ハネウェル社は、自社のビル空調システムの料金を、そのビルのエネルギー・コスト削減額と連動させている。
アメリカの一流コンサルティング会社218社に対する調査で、成果ベースで料金が設定されている契約は5%に満たなかったことが判明した─この方式は急速に拡大していることが明らかになった。
人身被害専門の弁護士はずいぶん前から、時間たり報酬ではなく、和解金の30〜40%を受け取っている。
不動産仲介業者は自分が売った物件の売却価格の6~7%の手数料を受け取る。
ヘッジファンドのマネージャーは、預り資産の2%と運用益の20%を受け取っていた。

「成果に応じて支払う」方式を成功させるためには、まずなによりも「結果証明が可能である」ということがあげられる。成果が測定可能であり、証明可能でなければならない。つまり利得を量で表せるということ。
そして、これも重要なことだが、「クライアントの総合的な成功ではなく、特定の目的に焦点を当てた取引である」ということ。これはボクも深く考えていなかったけれども、確かにその通りだ。自身のコントロールが及ぶ範囲を明確にしておくことはリスク回避にもなる。例えば、ドットコムバブル時代に、弁護士やコンサルタントが、報酬を株式で受け取っていたことがあるが、これなんかは会社全体の成功と報酬を連動させてしまっているので、失敗した場合には極めて大きい代償を支払うことになりかえない。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です